本文へ移動

研究所

Menu

研究実績

ホーム > 研究所 > 研究実績 > 分子基盤研究部の篠原充副部長と里直行部長のグループが糖尿病の寿命への影響はAPOE遺伝子型で異なることを発見

分子基盤研究部の篠原充副部長と里直行部長のグループが糖尿病の寿命への影響はAPOE遺伝子型で異なることを発見

2021年6月9日

高齢化が進む中、健康寿命の延伸は喫緊の課題です。ヒトの寿命を決定するのは遺伝因子や後天的因子、ライフスタイルなどです。アポリポ蛋白E(APOE)遺伝子はアルツハイマー病の最も強い遺伝因子ですが、寿命とも関連することも報告されています。APOE遺伝子には3つの遺伝子型APOE2、 APOE3、 APOE4があり、APOE4を持っているとアルツハイマー病になりやすくなり、APOE2を持っているとアルツハイマー病になりにくくなることが知られています。高齢者や百寿者においてはAPOE2の比率が高くなり、APOE4の比率が低くなることがいくつもの報告で示されており、ヒトレベルで確立された数少ない長寿と関連する遺伝子です。一方、糖尿病もアルツハイマー病の後天的危険因子であり、寿命への影響が知られています。しかし、これまで糖尿病の寿命への影響がAPOE遺伝子型によって異なるのかについては明らかにされていませんでした。

今回、国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)の認知症先進医療開発センター、分子基盤研究部の篠原充副部長、里直行部長のグループは米国メイヨー・クリニックとの共同研究にて、健常人や認知症者を含む2万人以上を調査した米国 National Alzheimer’s Coordinating Center (NACC)のデータベースを用い「糖尿病の寿命への影響はAPOE遺伝子型で異なること、すなわちAPOE2およびAPOE3を有する人のほうがAPOE4を有する人より、糖尿病による寿命への影響が大きい」ことを明らかにしました(図1)。

本論文は、2021年5月29日にアーリー・オンライン・ヴァージョンが公表されました。また、Journal of Alzheimer’s disease誌82巻2号に6月20日付で公表の予定です。

APOE4はアルツハイマー病の危険因子ですが、糖尿病の寿命への影響が認知症の有無で異なるかを検討しました。その結果、認知症のない人では糖尿病があると寿命が短くなりましたが、認知症を有する人では糖尿病は寿命に影響を及ぼしませんでした(図2)。さらに認知症のない人では糖尿病の寿命への影響が上述の結果の通りAPOE遺伝子型で異なることを確認しました。

最近我々はAPOEの寿命への影響が活動低下と関連することを報告しており(参考文献1)、今回の研究においては糖尿病により活動や興味が低下しやすいことがAPOE2およびAPOE3でのみ有意に認められており、そのことが糖尿病とAPOE多型の寿命に対する影響と関連することを示唆しています(図3)。また我々は以前、「糖尿病の認知機能低下への影響はAPOE遺伝子型で異なること」を報告しましたが(参考文献2)、今回、寿命に関しても同様の結果を得ました。今後は、当センターで行っているNILS-LSA地域密着型長期縦断疫学研究のようなサンプルバイアスの少ないコホート研究での追試を目指すとともに、動物モデルなども取り入れ、認知機能低下や寿命に対するAPOEなど遺伝因子と糖尿病などの後天的危険因子の交互作用について理解を深めることで、健康寿命の延伸につながる発見が期待されます。

図1.  APOE遺伝子型による糖尿病の寿命への影響の違い

APOE2およびAPOE3を有する人のほうがAPOE4を有する人より、糖尿病の寿命への影響が大きい。

図2. 認知症の有無による糖尿病の寿命への影響の違い

認知症のない人では糖尿病の寿命への影響が認められるが、認知症を有する人では認められない。

図3. APOE遺伝子型による糖尿病の活動及び興味の低下への影響の違い

APOE2およびAPOE3を有する人のほうがAPOE4を有する人より、糖尿病によって活動や興味が低下しやすい。

参考文献

  1. Mitsuru Shinohara, Takahisa Kanekiyo, Masaya Tachibana, Aishe Kurti, Motoko Shinohara, Yuan Fu, Jing Zhao, Xianlin Han, Patrick M. Sullivan, William G Rebeck, John D. Fryer, Michael G. Heckman, Guojun Bu “APOE2 is associated with longevity independent of Alzheimer's disease” eLife 2020; 9:e62199
  2. Mitsuru Shinohara, Yoshitaka Tashiro, Kaoru Suzuki, Akio Fukumori, Guojun Bu, Naoyuki Sato. “Interaction between APOE genotype and diabetes in cognitive decline” Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring, 2020 Feb 6;12(1):e12006. 

発表文献

Mitsuru Shinohara*, Kaoru Suzuki, Guojun Bu, Naoyuki Sato*
“Interaction between APOE genotype and diabetes in longevity”
Journal of Alzheimer's Disease, vol. Pre-press, no. Pre-press, pp. 1-8, 2021
*責任著者

リリースの内容に関するお問い合わせ

この研究に関すること

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター 分子基盤研究部
副部長 篠原充 あるいは 部長 里直行
〒474-8511 愛知県大府市森岡町七丁目430番地
電話 0562(46)2311(内線 6331)
E-mail:shinohara(at-mark)ncgg.go.jp(篠原)or nsato(at-mark)ncgg.go.jp(里)

※(at-mark)を「@」に置き換えてください

報道に関すること

国立長寿医療研究センター総務部総務課総務係長 里村亮
電話 0562(46)2311(内線 4623) E-mail:r-satomura(at-mark)ncgg.go.jp

※(at-mark)を「@」に置き換えてください

研究関連