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ショウジョウバエを用いた研究から、アルツハイマー病における神経細胞死への感受性に関与するメカニズムの一端を明らかにしました

2018年03月19日

アルツハイマー病では顕著な脳の萎縮が見られますが、それは神経細胞が死滅したために起こります。加齢に伴い脳内に蓄積したアミロイドβが、酸化ストレスや神経興奮毒性、さらにタウタンパク質による傷害を引き起こすことで、神経細胞死が起こると考えられています。この過程をとめることができれば、アルツハイマー病の進行をとめる新しい治療薬の開発につながる可能性がありますが、その詳細なメカニズムは明らかにされていません。今回、アルツハイマー病研究部・発症機序解析研究室の榊原研究技術員、関谷研究員、飯島室長らは、アルツハイマー病における神経細胞死への感受性に関与するメカニズムの一端を明らかにしました。

本研究で着目したWFS1(Wolfram syndrome 1)は、常染色体劣性遺伝性疾患であるウォルフラム症候群の原因遺伝子として同定されました。ウォルフラム症候群では、WFS1の機能が欠損しており、若年発症性の糖尿病と進行性の視神経萎縮、さらに運動失調や抑うつなどの精神・神経症状を呈することが知られています。しかし今日まで、WFS1タンパク質の機能低下とアルツハイマー病における神経変性との関係は明らかにされていません。
研究グループはショウジョウバエを用いた遺伝子スクリーニングから、脳の神経細胞でWFS1の発現レベルを抑制すると、加齢とともに神経機能障害や神経変性が惹起されること、さらに酸化ストレスや神経興奮毒性といったストレスに対しても神経細胞が脆弱になることを見出しました。これまでに、ショウジョウバエの神経細胞にアルツハイマー病に関連するタウタンパク質を発現させると神経変性が起こることが知られています。そこで、WFS1の発現レベルを抑制した状態でタウタンパク質を発現させると、神経変性の程度が増悪化することも見出しました。また、脳におけるWFS1の発現レベルが、加齢、酸化ストレス、神経興奮毒性、タウタンパク質の発現により増えることから、WFS1が脳内で神経保護作用を持つ可能性が示唆されました。

以上の結果より、WFS1の量が低下すると、加齢やタウタンパク質の神経毒性など、アルツハイマー病にかかわるさまざまなストレスに対して神経細胞が脆弱になることから、WFS1がアルツハイマー病の新たな病態修飾因子である可能性が考えられます。さらに、神経細胞のストレスに対する感受性の分子機序を解明することは、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の進行を抑止する治療法の開発にもつながると期待されます。
本研究成果は、平成30年1月22日付けで米科学誌「PLOS Genetics」の電子版に掲載されました。なお本研究は、国立長寿医療研究センター、文部科学省科研費、武田科学振興財団からの研究助成を受けて行われました。

 

【原著論文情報】
Sakakibara Y*, Sekiya M*, Fujisaki N, Quan X, Iijima KM. Knockdown of wfs1, a fly homolog of Wolfram syndrome 1, in the nervous system increases susceptibility to age- and stress-induced neuronal dysfunction and degeneration in Drosophila. PLOS Genetics 14(1): e1007196, *Co-first authors