心に元気がない状態は一般に「うつ病」と言われています。うつ病は気分の障害です。気分とは精神の活動状態の全般的傾向のようなもので気分が沈滞するといつもくよくよとして、なにもできず、考えも浮かばないような状態となります。これが行き過ぎると仕事も手につかず体はどこも悪くないのに布団から出られないような感じになったりします。これがうつ病です。65歳以上の高齢者における精神疾患として認知症とならんで重要な位置をしめているのがうつ病です。アメリカの研究では65歳以上の高齢者の10%には何らかのうつ病性障害が認められるそうです。日本の研究ではニュータウン在住の高齢者の3分の1にうつ状態が認められました。認知症の有病率が65歳以上の5~%であることを考えると極めて重大な問題であることがわかります。
本当にうつ症状があるか、あるとすれば軽いのか重いのかについて専門医による詳しい問診をおこないます。さらに、心理検査をおこなって詳しい心理状態を調べます。
高齢者のうつ病の特徴は、認知症や身体症状を伴うことが多い点です。そのため、もの忘れの検査や内臓の機能もひととおり調べます。具体的には頭部CT・MRI、心電図、胸部レ線血液・内分泌検査などを行ないます。
うつ病に使われる薬は以前からあったのですが、眠気や口の渇きが強くて高齢者の方には使いづらいところがありました。ところが最近使用されるようになって来た選択的セロトニン再取り込み阻害薬や、セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬はこうした有害な作用が少ないのが特徴でしかもよく効きます。さらに高齢者では動脈硬化因子も背景にあることが多いので、脳血流をよくする薬剤も効果があります。
うつ病にかかる方の心は一言で言って疲れています。だから、休息が大事でこれは若い人も高齢の人もかわりません。まず、心身ともに休める環境を整えます。必要なら入院してもらうほうがいい時もあるかもしれません。また、大変まじめで努力家がおおく、悪いことは全部自分のせいだと考えがちです。だから、もう頑張らなくていいよ、休んでいいよ、わるいのはあなたのせいじゃないと繰り返し説得します。いったん、休むと決めると次第に心の安定が得られてきます。若い人はこのままで治療終結に向かえるのですが、高齢者の方はもう一段階が必要です。高齢者では安静が長く続くと今度は体の機能まで弱ってしまい、心が元気になる前に体が弱ってしまいますので、ある程度精神状態がよくなると今度は活動を促すようにしていくことが大事です。 このように心の元気外来では高齢者の身体的、精神的な特徴を踏まえた総合的なうつ病治療を行なっていくことを目指しています。