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研究概要

私たちが最も重視するのは、日々の臨床業務、すなわち患者さんとの関わりです。臨床の現場では、多くの「なぜ？」や「どうして？」という疑問が生じます。これらの疑問を丁寧に拾い上げ、解決していくことが重要です。そこで、若いスタッフには積極的に症例検討会への参加を推奨しています。症例検討を通じて得られた発見や解答は、新たな研究テーマへと繋がり、その成果を患者さんの治療に還元していく。この循環こそが、私たちの研究における基本的な考え方です。

私たちの研究は、大きく分けて3つのグループに分かれています。

動作分析に関する研究

セラピストの大きな役割の1つに、動作を評価することがあります。しかし、人間の眼による観察では、十分な評価ができないことが知られています。その問題の解消には、動画を撮影することや動作解析をすることが必要です。私たちは、動画を用いたマーレスモーションキャプチャを積極的に使用しています。準備や撮影の時間は非常に短く、多くの方の動作を解析しています。

歩行は、月に100件以上の撮影・解析を行い、データベースを作成しています。このデータベースから介入効果の検証等を実施しており、動作分析が苦手な人でも臨床における動作分析の大きな手助けとなります。
ロボットなどの最新機器を用いた介入も積極的に実施しています。歩行ロボットでは、介入目的に合わせた効果検証などを実施しています。

上肢のリハビリテーションでは、上肢用ロボットや磁気刺激装置などを用いた治療を実施しています。従来の評価に加えて、これらの治療効果判定の1つにも光学式モーションキャプチャを含めた動作解析を実施しています。
また、新たな動作解析システムの構築にもチャレンジしています。

フレイルに関する研究

ロコモフレイル外来での総合診療と運動指導

ロコモフレイルセンターと協働して、専門的な評価を基に一人一人の状態に適した運動指導（リハビリテーション）を行っています。診療の中で得られた1000例以上の検査・測定結果のデータを様々な視点から解析し、毎年複数回の学会発表や論文投稿を行っています。

ロコモフレイル外来後のリハビリテーションの効果検証

フレイルやサルコペニアを有する患者さんに対し、当センターで作成した在宅活動ガイド（HEPOP®）の運動パッケージを活用した介入を行っており、その効果検証を行っています。運動手帳を用いるなどして、特に行動変容（運動に対する意欲の向上自発的な運動を促すこと）を重視した運動・生活指導を行っています。

フレイル研究の今後

今後は以下のようなテーマにも取り組みます。

心臓リハビリテーションに関する研究

心臓リハビリテーションの現状

心臓リハビリテーションは循環器疾患の予後を改善させる治療手段として位置づけられています。しかし当センターを受診する患者さんは単に循環器疾患を有しているだけでなく、フレイルやカヘキシア(悪液質：あくえきしつ)、認知機能低下など高齢者特有の様々な問題を抱えている場合も多く、そのような方への心臓リハビリテーション介入の効果はまだエビデンスが不足しているのが現状です。

心臓リハビリテーション介入の効果検証

そのような様々な問題に対応するために多職種による包括的な評価と心臓リハビリテーションプログラムの開発・効果検証を行っています。「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」を軸に、生活・運動指導プログラムを入院中から行い、退院後も外来リハビリテーションを継続します。その中で得られた診療データを用いて、毎年複数回の学会発表や論文投稿を行っています。

心臓リハビリテーション研究の今後

安全に心臓リハビリテーションを提供できる人材育成、多職種連携にも力を入れています。生活範囲の拡大に向け、将来的にはスマートウォッチ等を用いた遠隔での心臓リハビリテーションの体制構築も検討しています。

転倒予防に関する研究

転倒転落インシデントレポートとデータベース解析

高齢者の転倒は認知機能低下やバランス障害、筋力低下などの内的因子のほか、家具や生活用品の配置、床の状態などの外的因子によっても引き起こされやすくなります。過去に院内で発生した転倒・転落インシデントレポートおよび定期的に行っている身体・認知機能評価結果を統合し、1000例を超えるデータベースを構築しています。データ解析を通じて入院中の転倒予防、再発予防に向けた取り組みを検討しています。

回復期リハビリテーション病棟における転倒リスク評価

回復期リハビリテーション病棟において、入棟時に認知機能低下(Mini-Mental State Examination<28)およびバランス能力低下(Standing Test for Imbalance and Disequilibrium<2b)を認めると、良好な者と比較して入棟中に4倍以上の転倒リスクを有することを明らかにしました (K Kawamura et al., JAH, 2024)。ベッドサイドにて簡便に転倒ハイリスク者のスクリーニングが行えることで、その後の転倒対策立案に繋げやすくなります。

転倒予防研究の今後

今後は以下のようなテーマにも取り組みます。

• 多施設における転倒インシデントデータの共有と、環境要因が転倒発生に与える影響の検討
• 集中的なバランストレーニングが身体機能強化に及ぼす効果の検証

• ベッドサイドでの衝撃緩衝マット使用による転倒時の外傷予防効果の検証

生活支援に関する研究

認知症に関する研究

認知症の人の表情や音声から感情を評価

認知症の人のなかには、認知機能が低下し検査を受けることができない方もいます。そこで、人工知能（AI）を用いて、認知症の人の表情や音声から感情や反応を評価できるかを検討しています。

認知症の人の歩行をマーカレスモーションキャプチャで分析

認知症の人はトレッドミル上などでの歩行が難しく、正確な歩行評価ができません。そこで、マーカレスモーションキャプチャを用いて、認知症の人の通常歩行を評価し、認知症の早期発見や転倒予防の対策を検討します。

排泄に関する研究

バイオフィードバック機器を用いた骨盤底筋訓練

尿失禁対策のゴールドスタンダードである骨盤底筋訓練は、認知機能の低下した高齢者には行うことが難しいことが多いです。そこで、圧センサーを用いたバイオフィードバック（骨盤底筋群の活動を可視化し、モニターで見ながら練習できる装置）を用いて、実施可能であるかの検証を行っています。

排尿障害患者への多職種介入の効果

認知症の人のトイレ問題、介護負担の調査

認知症の患者さんにとって、トイレに関する問題（排泄の問題）は非常に多く、これは介護をされているご家族などの介護負担を増やす大きな原因の一つとなっています。超音波センサーを下腹部に装着することで、膀胱や腸の動きから排泄のタイミングを予測し、その情報をスマートフォンなどに通知するウェアラブルデバイスを活用し、患者さんの尊厳を守りながら介護負担を軽減できるよう活用しています。

摂食嚥下に関する研究

超音波エコーを用いた嚥下評価

当センターでは、嚥下機能の評価にVF（嚥下造影検査）やVE（嚥下内視鏡検査）といった専門的な検査を実施しています。加えて、療法士もエコー（超音波）を用いて嚥下機能を評価しており、多角的な視点から患者さんの状態を把握し、より質の高いリハビリテーションへと繋げています。

とろみ付き炭酸飲料の効果検証

近年、とろみ剤を用いることで、炭酸にとろみをつける技術が開発されました。これを用いることで、嚥下障害を持つ患者さんが炭酸飲料を飲むことも可能となり、さらに嚥下反射を促進する効果があるかを検証しています。

バイオフィードバックを用いた嚥下評価・訓練

私たちは嚥下運動モニタ（B4STM）を用いることで、嚥下運動を定量的に（数値として）評価できるようになりました。B4STMから算出される波形データを分析することで、例えば、「努力嚥下（力を入れて飲み込む動作）がどれくらいの時間続いているか」といった詳細な情報を把握できます。この定量的な評価を、今後の嚥下訓練にどのように活かせるか、また、患者さんの状態をより正確に把握し、治療効果を高められるかについて現在検討を進めています。

研究業績（論文）

2024年

1. Masuda Y, Kamiya M, Ueda I, Yoshimura T, Osawa A, Maeshima S. Aphasia in Alzheimer's disease: Frequency and characteristics. Geriatr Gerontol Int. 2024 Dec;24(12):1380-1381.
2. Sato K, Otaka E, Ozaki K, Shiramoto K, Narukawa R, Kamiya T, Kamiya M, Shimotori D, Kamizato C, Itoh N, Kagaya H, Kondo I. Investigating the effects of home-based rehabilitation after intensive inpatient rehabilitation on motor function, activities of daily living, and caregiver burden. PLoS One. 2024 Dec 27;19(12):e0316163.
3. Otaka E, Sato K, Shimotori D, Ninomiya T, Sugimoto N, Nakabo Y, Matsumoto Y, Yoshida T, Kondo I. Longitudinal changes following the introduction of socially assistive robots in nursing homes: a qualitative study with ICF framework and causal loop diagramming. BMC Geriatr. 2024 Dec 21;24(1):1026.
4. Sakaguchi T, Maeda K, Takeuchi T, Ishida Y, Kato R, Ueshima J, Shimizu A, Nagano A, Kawamura K, Amano K, Mori N. Low handgrip strength as a marker of severity in the diagnostic criteria for cancer cachexia. Clin Nutr ESPEN. 2024 Dec;64:435-440.
5. Kawamura K, Ishino S, Hotta M, Kagaya H, Kondo I, Ozaki K, Kokubo M. Combined Assessment of Cognitive and Balance Abilities to Predict Falls in Patients in the Convalescent Rehabilitation Ward. J Aging Health. 2024 Nov 18:8982643241302366.
6. Kawamura K, Maeda K, Miyahara S, Shimizu A, Sakaguchi T, Ishida Y, Kagaya H, Matsui Y, Arai H, Mori N. Oral hypofunction and social aspects in older adults visiting frailty outpatient clinic. J Oral Rehabil. 2024 Oct;51(10):2150-2157.
7. Ito E, Sugiura S, Kawamura K, Uchida Y, Suzuki H, Shimono M, Mise K, Kagaya H. Effects of speech tracking method using hearing aids for hearing disorder in older people. Fujita Med J. 2024 Nov;10(4):81-86.
8. Kato K, Hashimoto Y, Aimoto K, Kamiya M, Kawamura K, Yoshimi T, Kondo I. Electrocardiogram and respiration recordings show a reduction in the physical burden on professional caregivers when performing care tasks with a transfer support robot. Assist Technol. 2024 Oct 21:1-9.
9. Miyahara S, Maeda K, Kawamura K, Matsui Y, Satake S, Arai H, Umegaki H. Association between intrinsic capacity and oral health in older patients in a frailty clinic. Eur Geriatr Med. 2024 Aug;15(4):1119-1127.
10. Kawamura K, Maeda K, Miyahara S, Shimizu A, Ishida Y, Ueshima J, Nagano A, Kagaya H, Matsui Y, Arai H, Mori N. Association between oral frailty and sarcopenia among frailty clinic outpatients: A cross-sectional study. Nutrition. 2024 Aug;124:112438.
11. Shimotori D, Otaka E, Sato K, Takasugi M, Yamakawa N, Shimizu A, Kagaya H, Kondo I. Agreement between Vital Signs Measured Using Mat-Type Noncontact Sensors and Those from Conventional Clinical Assessment. Healthcare (Basel). 2024 Jun 13;12(12):1193.
12. Kawamura K, Wakayama S, Osawa A, Ishino S, Iwase T, Tanimoto M, Itoh N, Maeshima S. Effectiveness of Home Exercise Program for Older People approach for frailty: A preliminary study. Geriatr Gerontol Int. 2024 Jun;24(6):649-651.
13. Hirashiki A, Shimizu A, Kamihara T, Kokubo M, Hashimoto K, Ueda I, Sato K, Kawamura K, Itoh N, Murohara T, Kagaya H, Kondo I. Randomized Controlled Trial of Cardiac Rehabilitation Using the Balance Exercise Assist Robot in Older Adults with Cardiovascular Disease. J Cardiovasc Dev Dis. 2024 Apr 25;11(5):133.
14. Sakurai T, Sugimoto T, Akatsu H, Doi T, Fujiwara Y, Hirakawa A, Kinoshita F, Kuzuya M, Lee S, Matsumoto N, Matsuo K, Michikawa M, Nakamura A, Ogawa S, Otsuka R, Sato K, Shimada H, Suzuki H, Suzuki H, Takechi H, Takeda S, Uchida K, Umegaki H, Wakayama S, Arai H; J‐MINT study group. Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia: A randomized controlled trial. Alzheimers Dement. 2024 Jun;20(6):3918-3930.
15. Otaka E, Osawa A, Kato K, Obayashi Y, Uehara S, Kamiya M, Mizuno K, Hashide S, Kondo I. Positive Emotional Responses to Socially Assistive Robots in People With Dementia: Pilot Study. JMIR Aging. 2024 Apr 11;7:e52443.
16. Shinozaki M, Gondo Y, Satake S, Tanimoto M, Yamaoka A, Takemura M, Kondo I, Arahata Y. Moderating effect of age on the relationship between physical health loss and emotional distress post-acute care in Japanese older hospitalized patients. BMC Geriatr. 2024 Mar 2;24(1):214.
17. Miyahara S, Maeda K, Kawamura K, Matsui Y, Onaka M, Satake S, Arai H. Concordance in oral frailty five-item checklist and oral hypofunction: Examining their respective characteristics. Arch Gerontol Geriatr. 2024 Mar;118:105305.
18. Maeshima S, Osawa A, Kawamura K, Yoshimura T, Otaka E, Sato Y, Ueda I, Itoh N, Kondo I, Arai H. Neuropsychological tests used for dementia assessment in Japan: Current status. Geriatr Gerontol Int. 2024 Mar;24 Suppl 1(Suppl 1):102-109.
19. Teranishi T, Suzuki M, Yamada M, Maeda A, Yokota M, Itoh N, Tanimoto M, Osawa A, Kondo I. Prediction of early falls using adherence and balance assessments in a convalescent rehabilitation ward. Fujita Med J. 2024 Feb;10(1):30-34.
20. Okahashi S, Noguchi T, Ishihara M, Osawa A, Kinoshita F, Ueda I, Kamiya M, Nakagawa T, Kondo I, Sakurai T, Arai H, Saito T. Dyadic Art Appreciation and Self-Expression Program (NCGG-ART) for People with Dementia or Mild Cognitive Impairment and Their Family Caregivers: A Feasibility Study. J Alzheimers Dis. 2024;97(3):1435-1448.
21. Takano, Eiko & Ito, Kei & Hotta, Masato & Morioka, Nobuyuki & Tsukahara, Atsushi & Kondo, Izumi. Relationship Between Preferred Gait Speed and Falls within One Year After Discharge among Older People Who Underwent Hip Fracture Surgery. Gerontology & Geriatrics Studies. 2024; 8. 10.31031/GGS.2024.08.000696.

2023年

1. Takano E, Ito K, Sato K, Suzumura S, Narukawa R, Nagakawa Y, Kamiya T, Shiramoto K, Hotta M, Kuno K, Iida Y, Tsukahara A, Makino I., and Kondo I. Exploring the Impact of Smibi, A Baby Robot, on Emotion in Older Individuals Needing Care - A Preliminary Study. Gerontology & Geriatrics Studies. 2023 Nov 8(4): 822–824.
2. Maeda K, Nagasaka M, Nagano A, Nagami S, Hashimoto K, Kamiya M, Masuda Y, Ozaki K, Kawamura K. Ultrasonography for Eating and Swallowing Assessment: A Narrative Review of Integrated Insights for Noninvasive Clinical Practice. Nutrients. 2023 Aug 12;15(16):3560.
3. Kawamura K, Osawa A, Tanimoto M, Kagaya H, Matsuura T, Arai H. Clinical frailty scale is useful in predicting return-to-home in patients admitted due to coronavirus disease. BMC Geriatr. 2023 Jul 13;23(1):433.
4. Ueda T, Suzumura S, Ito K, Narukawa R, Kondo I. Improved upper extremity function following low-frequency hybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation therapy in a patient with hemiplegia: A case report. J Hand Ther. 2023 Jul-Sep;36(3):744-749.
5. Kato K, Yoshimi T, Aimoto K, Sato K, Itoh N, Kondo I. Reduction of multiple-caregiver assistance through the long-term use of a transfer support robot in a nursing facility. Assist Technol. 2023 May 4;35(3):271-278.
6. Suzumura S, Ito K, Narukawa R, Kawamura K, Kamiya M, Osawa A, Kondo I. Self-exercise training instructional items and continuation rates in patients with cerebrovascular disease post-discharge. Geriatr Gerontol Int. 2023 Mar;23(3):251-252.
7. Nakao Y, Kawamura K, Iwase T, Osawa A, Maeshima S, Arai H. Decrease in 6-min walk distance among frail older people. Geriatr Gerontol Int. 2023 Mar;23(3):248-249.
8. Ito K, Suzumura S, Kanada Y, Narukawa R, Sakurai H, Makino I, Abiko T, Oi S, Kondo I. The use of a companion robot to improve depression symptoms in a community-dwelling older adult during the coronavirus disease 2019 state of emergency. Fujita Med J. 2023 Feb;9(1):47-51.
9. Kamiya M, Osawa A, Shinoda Y, Nishii H, Kondo I. The current state of family caregiver burden and support of toilet problems for elderly with mild cognitive impairment and Alzheimer's disease. Int J Urol. 2023 Jun;30(6):539-546.

 

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