一般高齢者向け基本運動・活動編

第1.3版

緒言

新型コロナウイルス感染症の流行が⻑期化しています。⻑い間、外出自粛が唱えられ続けることにより、不活発な生活が日常化し、高齢者の心身機能の低下がますます懸念されています。また、リハビリテーションをはじめとする医療サービスの提供や介護・福祉サービスの提供も以前のようには得られにくくなっています。このような状況においても、できるだけ健康な生活が送れるよう、我々は2020年5月、“在宅活動ガイド 2020”を発刊しました。そして、この2年の間に新型コロナウイルス感染症への対応や予防策について様々な知見が得られたことに伴い、このたび“在宅活動ガイド ver.1.3”への改訂を行いました。このガイドの目的は、知らないうちに心身の機能が衰えないよう、個々の機能に応じて自宅で実践して頂ける運動や活動のメニューをわかりやすく紹介することです。同時に適切な栄養の摂り方についても紹介しています。是非とも本ガイドをお役立て頂き、これからも健康な生活を続けて頂くことを願っています。

令和4年7月吉日

国立長寿医療研究センター 理事長 荒井秀典

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1. 背景と概要

普段、私たちは外出したり人と会ったりする中で自然と体や頭を動かしており、それが心身機能の維持につながっていますが、昨今の感染症の流行やその他の事情で、外出や社会交流を減らさざるを得ない時もあります。3密(密閉・密集・密接)を避けることは命を守るために大変重要ですが、外出を控え、社会とのつながりが絶たれる状況が長期的に続けば、心身に様々な悪影響を及ぼす危険性が高くなります。特に高齢の方にとっては、些細なストレスが大きな健康状態の悪化につながる「フレイル」の進行が懸念されます(図1)。

図1:フレイルの概念

「フレイル」の状態では、歩行困難や転倒・骨折、認知機能低下、新たな疾病の発症などの危険性が高くなることから、なるべく不活発な生活を避け、健康の維持に努めたいところです。これまで維持してきた心身機能のドミノ倒し(図2)を少しでも避けるためには、ご自宅でもできる限りの運動や活動を行うことが大切です。

図2:フレイルドミノ

この「国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP® 一般高齢者向け基本運動・活動編」は、外出を自粛したり社会活動を制限されたりしている方が、ご自宅にいる間に心身の機能が弱ってしまわないように、安全に適切な活動が行えるよう支援することを目的に作成された資料です。様々な種類の運動や活動を提示するだけでなく、フローチャートを用いてどのようなメニューがより適切であるかを判別できます。本ガイドを利用することで、皆様の心身機能が維持され、安心安全な暮らしを続けるための一助となりましたら幸いです。

2. HEPOPフローチャート

まず、次の①〜③のすべての質問にお答えいただき、矢印の流れに沿ってあなたに適した運動・活動パック(適正パック)を見つけましょう。①と③の両方が「はい」となるなど、複数の答えに該当し、複数の適正パックが選ばれる場合もあります。

HEPOPフローチャート

適正パックは心身の状態によって変わる可能性があります。1ヶ月に1回程度、または心身の状態が変化した時にフローチャート式質問に答えなおし、その時々で、より適していると考えられる運動や活動を選んでください。完璧さや完成度にこだわる必要はありません。運動や活動に毎日挑戦することに意義がありますので、無理をせず、自分のペースで実施してください。複数のパックに該当するときは、全てのパックの中身を確認し、それぞれ、できそうなメニューから開始してください。パックの運動・活動メニューに進む前に、次ページからの「利用時の注意点と利用方法」や「運動強度」などをご確認ください。

 

3. 利用時の注意点と利用方法

まず、感染予防のために以下の基本的な対策をしっかり行うようにしましょう。

【感染予防に関する基本的な対策】(厚生労働省2022.7.8版より引用)

  • 3密(密閉,密集,密接)を避けましょう
  • マスクを適切に着用しましょう
  • 個人の基本的な感染予防対策は、3密(密集・密接・密閉)や特にリスクの高い5つの場面(下記【基本的対処方針に基づく感染予防】に説明)の回避、マスクの適切な着用、こまめな換気、手洗いなどが有効です

マスクに関する注意点は以下の通りです。

【熱中症予防×コロナ感染防止】(厚生労働省2022.7.8版より引用)

  • 屋外ではマスク着用により,熱中症のリスクが高まります
  • 涼しい服装や日傘、帽子などで暑さを避けましょう
  • のどが渇いていなくてもこまめに水分を補給しましょう
  • エアコン使用中もこまめに換気しましょう
  • 暑さに備えた体力づくりと日頃からの体調管理を行いましょう(適度な運動,定時の体温測定,健康チェックを毎日行いましょう)

【基本的対処方針に基づく感染予防】厚生労働省より引用改変)

  • 新型コロナウイルスに感染していた場合に多くの人に感染させることのないように行動することが大切です
  • 体調不良時の外出は控えましょう
  • 3密に加え、特にリスクの高い5つの場面:飲酒を伴う懇親会等、大人数や⻑時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりといった場面では感染が起きやすく、注意が必要です
  • 基本的な感染対策が行われた場所や屋外で,人との距離が確保でき、会話をほとんど行わない場合はマスクの着用は不要です
  • 特に夏場は熱中症防止の観点から,屋外のマスクが必要でない場面では,マスクを外すことが推奨されています
  • ただし通勤ラッシュ時や人混みの中,高齢の人と会う時,病院に行く時はマスクを着用しましょう
  • 様々な環境に備えてマスクを携帯しましょう
  • 感染対策などについては,最新の情報を参照して下さい

これらの予防策を行いつつ、下記の点に注意して運動や活動を始めましょう。

【運動・活動全般に関する注意点】

  • 運動や活動は無理のない範囲で行ってください
  • 手すりや安定した台を持ち,転倒しないように,周囲の環境に十分に注意してください
  • 運動時は息を止めず自然な呼吸を心がけてください
  • 発熱など体調の悪いときは無理をせず,運動をお休みしてください
  • なるべく毎日,頭や体を動かしましょう
  • 今までになかった痛みや動悸,息苦しさ,その他の症状がみられた場合には,運動や活動を速やかに中止し,かかりつけ医などに相談してください

【運動前の準備】

  • 血圧を測定しましょう 降圧薬を内服中の方:高い方の血圧が100未満、または160以上なら、
    降圧薬を内服していない方:高い方の血圧が80未満、または160以上なら、
    無理な運動は控えましょう
  • 脈拍(安静時心拍)を測定しましょう
  • 脈拍が40拍/分未満、または90拍/分以上なら無理な運動は控えましょう
  • 不整脈・高血圧などの循環器疾患で治療中の方や動悸がある方は、この脈拍の範囲であっても運動前に医師にご相談ください

以下の疾患や症状をお持ちの方は、ご自身の健康状態やお薬の内容などについてかかりつけ医とご相談いただいた上で、その指導のもと、この「国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP® 一般高齢者向け基本運動・活動編」を使用していただくか、別の運動や活動を実施するかをご判断ください。

【運動や活動に注意が必要な方】

  • 心不全や心臓の術後など循環器疾患をお持ちの方
  • 神経・筋疾患をお持ちの方
  • 手足のしびれや運動麻痺(動かしにくさ)のある方
  • じっとしている時でも身体のふるえが強い方
  • めまいやふらつきがある方
  • 息苦しさ、息切れなどの症状や気管支ぜんそくをお持ちの方
  • 股関節や膝関節など関節の手術を受けた方
  • リウマチなどで関節の変形の強い方
  • 手足や腰、肩などに痛みのある方
  • 安静時でも上の血圧が160mmHg以上,または下の血圧が100mmHg以上の方
  • 降圧薬を内服中で安静時の上の血圧が100mmHg未満の方
  • その他、医師から運動を制限されている方

4. 運動強度と身体活動量

運動や活動には、実施時間や回数の目安がありますが、心身の状態に合わせて“楽である~ややきつい”の範囲内で行って下さい。運動や活動は20分以上行うことが良いと考えられています。運動や活動は連続して20分以上、最大1時間程度を目安に実施して下さい。

体に対する運動の強さの影響は脈拍(心拍数)でも知ることができます。表1の年齢別の運動時目標心拍数を目安に運動や活動の実施時間・回数を調整して下さい(例:70歳で安静時の心拍数が60拍/分の方の場合、運動時の心拍数の目安は109拍/分となります)。

表1:目標となる年齢別運動時心拍数

運動の強さ(強度)はメッツ(METs)で表します。安静時を1とした時に、その運動や活動によって何倍のエネルギーを消費するかを示したもので、数字が大きいほど運動の強度が高くなります。特別な運動や活動だけでなく、日常生活や家事などを行うことも運動につながります。表2のメッツ表を参考に、日々の運動や活動の強さを振り返ってみて下さい。

表2:活動と運動の強度(メッツ)表

運動の強度を確認するだけでなく、エクササイズ(Ex)という単位を使えば、ご自身の身体活動量を計算することもできます。エクササイズはメッツに時間数をかけたもの(3メッツ未満の活動は除く)です。例えば、普通の平地歩行20分=3.0メッツ×20分/60分=1.0Ex、自転車30分=4.0メッツ×30分/60分=2.0Exのようになります。健康を保つために、週に10〜23Ex以上の身体活動を目指しましょう。可能なかぎり、3メッツ以上の運動や身体活動に取り組み、身体活動量の維持・向上を目指したいですが、心身機能が弱っている時には横になったまま、座ったままでもできる運動や活動もあります。なるべく寝たきりや座りきりを避け、どんな運動や活動でも良いので、毎日継続して体を動かすことが大切です。

5. おわりに

本ガイドでは、外出や活動の機会が減った高齢者の方を対象に、運動、認知機能、栄養に焦点を当て、心身の状態に適した活動を自宅で安全に行えるよう、多様なメニューを紹介しました。高齢であることは感染症や社会生活の制限などの影響を受けやすい状態であり、フレイルが進行しやすい状況であるということを意識し、適切な睡眠、適切な栄養、適切な運動を通じて心身機能の回復力を高めるようにしましょう。また感染対策を行ったうえで屋外での活動を行うことにより、陽の光に当たりビタミンDの活性化を促進するとともに、心身のリズムを整えることも大切です。日々の生活の中で本ガイドを活用しながら、可能な限り心と体の健康を維持し、すべての方が、今まで同様、社会で活躍し続けることを願っています。

6. お問い合わせ先

<国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP® 一般高齢者向け基本運動・活動編>に関するお問い合わせは、以下のメールアドレスにお願いします。

電話でのお問い合わせには対応できません。お問い合わせは以下のアドレス宛に電子メールでお願いいたします。ただ、全てのお問い合わせには対応できない可能性がありますとともに、お返事に時間がかかる場合がありますのでご了承下さい。

お問い合わせ先 E-mailアドレス:rehab@ncgg.go.jp


NCGG-HEPOP作成委員会

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

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