患者さんから、「私はよく貧血になる」、「私は貧血はありません」という訴えを時々聞きます。よくよく聞いてみると、立ち上がった時に頭がふわっとする状態を「貧血」ととらえている方がたいへん多いことに気づきます。これは「立ちくらみ」です。「立ちくらみ」は起立性低血圧などに伴うもので、貧血と直接の関連はありません。
それでは貧血とはどういった状態のことをいうのでしょうか?
血液中の赤血球にはヘモグロビンというタンパク質があり、酸素を運搬する働きがあります。ヘモグロビンは赤い色素をもつヘムという成分をもっています。血液が赤くみえるのはそのためです。ヘムを構成する重要な分子が鉄です。貧血とは、WHO(世界保健機関)の定義では血液中のヘモグロビン値が男性で13.0g/dl以下、女性で12.0g/dl以下のことをいいます。もっとも多い貧血の症状は、息切れです。
貧血には様々な原因があります。以下に順番に述べていきます。
もっとも多いのは鉄欠乏性貧血です。ヘモグロビンの材料は鉄ですので、鉄が不足すると働きのよくない赤血球になってしまいます。働きが悪いと酸素をうまく全身に運べなくなり、息切れ、疲れやすさが起こってきます。男性、閉経後の女性の鉄欠乏性貧血の原因としてもっとも多いものは消化管出血です。便が黒い、便が赤いなどの症状がありましたら消化器内科に相談しましょう。
胃切除後、萎縮性胃炎などに伴うビタミン欠乏、アルコール多飲、栄養不良に伴う葉酸欠乏、さらに稀な原因として銅欠乏が貧血を起こすことがあります。亜鉛欠乏もしばしば見られますが、亜鉛欠乏単独で貧血になることは非常に稀です。
全貧血の3分の1程度が「慢性疾患に伴う貧血」に分類されます。慢性腎臓病、関節リウマチ、甲状腺疾患などが原因となりこれらの診断が必要です。
上記の1)〜3)が注意深い診察で除外できた場合、再生不良性貧血(血液を作る工場である骨髄の機能が低下する)、骨髄異形成症候群(血液を作る工場である骨髄で正常な血球が作れなくなる)、白血病(腫瘍化した異常な白血球が大量に増殖し正常な血液が作れなくなる)、多発性骨髄腫(骨髄で免疫細胞の一種である形質細胞が腫瘍性に異常増加し正常の血液産生を妨げる)などの血液疾患の診断を進めます。
それでも原因がはっきりしない高齢の方の貧血は加齢に伴うテストステロン(男性ホルモン)の減少、潜在的な炎症などによる貧血で、「説明不能の貧血」と総称されます。65歳以上の貧血のうち2~3割程度がこの分類に入ります。原因のわからない貧血も少なくないということですね。
他院での採血などでヘモグロビンが低い、と言われたら当科にご相談ください。原因として消化管出血の可能性が高い場合は消化器内科を紹介させていただきますし、その他の内科、婦人科疾患の場合もご紹介させていただきます。