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物を食べた時にむせる原因は?

1. 「むせ」が起こる理由

 のどの奥は、縦に長い管の様な構造になっています(図1)。縦に長い理由は、人間が他の動物と違って声を出す動物であり、この笛の胴に似た部分で音を共鳴させて、様々な種類の声を出すためです。これで話をすることができるようになったのですが、この部分が長いため、飲み込んだ食べ物が通る時に誤って、呼吸をするための管(気管)に入ってしまうことが起こりやすくなります(図2)。食べ物が呼吸をするための管やその先の肺に入ってしまうと、息ができなくなったり、肺炎になったりするため、勢いよく空気を吐き出して食べ物を外に出そうとします。この勢いよく空気を吐き出すのが「むせ」です。

むせに関係するのどの奥の構造画像

図1.むせに関係するのどの奥の構造

食べ物と呼吸時の空気の通り道

図2.食べ物と呼吸時の空気の通り道

 

2. むせるために必要なこと

 自分の体を守るための「むせ」ですが、上手にむせるためには、いくつか必要なことがあります。

1) 食べ物が間違って入ってしまったことを検知する感覚

 のどの奥の感覚は、口の中の感覚とは異なります。口の中では食べ物がどこにあるのかわかります。これは位置を知るための感覚です。のどの奥では、食べ物がどこにあるかはわかりません。ただし食べ物がどのくらい入っているかと、呼吸をじゃまするような場所に食べ物が入っているかどうかを知ることはできます。食べ物がいっぱい入りすぎて息ができなくなったり、呼吸をする管に食べ物が入ってつまってしまったら、危険ですよね? このため、のどの奥の感覚は危険を検知するための感覚です。

 この感覚の強さは、場所によって異なります。のどの奥の長い管の一番手前にある咽頭と呼ばれる食物と呼吸するときに通る空気の両方が通る場所では一番弱く、喉頭と呼ばれる呼吸するための管の入り口の手前だと少し敏感になります。敏感になるのは、一番奥の呼吸をするための管の中です。この敏感さによって、「むせ」の強さも決まります。気管まで食べ物が入ってしまうことを「誤嚥」と言いますが、この時は激しくむせます(図3)。気管の手前で誤嚥しそうになったのを検知してむせる場合は、もう少しおだやかな「むせ」が生じます(図4)。

誤嚥の流れ

図3.誤嚥→激しくむせる

誤嚥の流れその2

図4.気管の手前だと→むせる

 

2) 危険な感覚を処理して、むせるように指令する中枢

 脳の根本の首に近い部分に延髄という神経がたくさん集まった場所があります。のどの奥の危険を知らせる感覚はここに伝えられます。ここから指令が出て、肺の周りにある筋肉を強く勢いよく収縮させ、肺から空気を押し出して、強い空気の流れを作ります。この空気の圧で、間違った場所に入ったり、つまってしまった食べ物が押し出されます。この強い空気の流れを作る動作が「むせ」です。

3) 空気の強い流れを作り出す筋肉

 肺は両側を肋骨に囲まれ、下のおなかに近い部分は横隔膜という筋肉でおおわれています。横隔膜は息を吸うときには収縮しますが、息を吐くときには緩みます。おなかの前にある筋肉は、逆に強く収縮するとおなかの中の圧が大きくなり、肺を圧迫して空気を押し出す作用があります。肺を囲んでいる肋骨にも筋肉が付いていて、この一部も息を吐くときに働きます。これらの筋肉が上手に協力して緩んだり、縮んだりしないと息を強く吐き出すことができません。息を強く吐き出すことができないと、効果的に「むせる」ことができません。

3. もっとも危険なのは? →「むせ」がないままに気管に食べ物が入ってしまうこと

 ここまでの3つの条件が全部そろって、はじめて安全に「むせる」ことができます。高齢になるとのどの奥の感覚が徐々に鈍くなってきます。一見何もないようなお年寄りを病院で検査している時、のどの奥にたくさん食べ物がたまっているので「今食べたものを全部飲みましたか?」と聞くと「ちゃんと飲んだ」と答える方が、たくさんおられます。また脳卒中などの脳の障害の初期では、延髄を含めた脳全体の機能が落ちているため、気管に食べ物が入ってもまったくむせない時があります。自宅や施設で、お年寄りがおもちや里芋を食べて、のどの奥につまってしまうのは、息を吐き出す筋肉の力が弱っているためであることが多いです。

 自宅や施設で食事中によく「むせる」お年寄りを、ご家族や介護スタッフが病院に連れてこられることがあります。このような場合、「むせる」原因として一番多いのは水分を上手に飲みこめずに、空気の通り道に入ってしまうときです。水分は、のどの奥を通過する速度が速いので、筋肉がそれに対応できずに、こういうことが起こっていることが多いので、検査でそれを確かめた上で「とろみ」をお茶や、汁物につけていただき、のどの奥を通過する速度を遅くすることで、簡単に解決できます。また水分以外が原因になっている場合でも、検査でそれを確認して対応すれば、安心なことが多いです。なので「むせる」ことができるお年寄りは比較的安全です。

 さらに問題なのは、感覚が鈍っていたり、脳の機能が落ちていて、「むせる」ことができない場合で、このようにしておこる誤嚥を「不顕性(むせない)誤嚥」と呼んでいます。この場合は食べ物だけでなく、本来なら無意識に飲み込めている唾液も誤嚥するため、口の中にいる細菌によって肺炎をおこしてきます。口腔内を清潔に保つ、口腔ケアが重要になります。特に注意しなければならないのは、肺炎やインフルエンザにかかった後のお年寄りです。こういった感染症がお年寄りの体に与えるダメージは非常に大きく、それは外からは見えない感覚や脳の機能にも及んでいます。それが入院中だけでなく、家庭でも起こることを注意喚起しています。「むせ」が無くても、肺炎を繰り返すお年寄りの場合は、不顕性誤嚥の可能性がありますので、専門の医療機関に相談するようにしていただけると、安心です。