今回は、姿勢が悪くなり歩きが遅くなったり、表情や活気が乏しく見える点から「歳のせい」や「うつ病」と間違えられることのあるパーキンソン病について解説します。
70代後半のAさんは、1~2年前から背中がまがり歩くのもとぼとぼとした歩き方になってきました。表情が乏しく活気も無くなってきています。立つとふらふらすることもあるので、外に散歩に出るのもやめて閉じこもりがちな生活になってしまいました。家族も本人も歳のせいで気力も減って、歩くのも悪くなってきたと思っていました。高血圧で見てもらっている近くの先生には、うつ病の気があるのではないかと言われていました。歩きにくさがだんだん進み、脳神経内科を受診されました。
診察をすると表情も硬く、小さな声で、ぼそぼそと話されます。動きがゆっくりで、歩幅が狭く、1~2年前は娘さんと同じ程度に歩けたのに、ゆっくりしか歩けません。最近になり、背中もだんだん曲がって来たとのことでした。起き上がるとめまいがして、横になってしまうこともしばしばあるとのことです。
パーキンソン病の患者さんではドパミン神経終末が減少するため
左の図の白い「ハ」の字の様に見える大脳基底核の下の方が途切れてみえ、
お面の目の玉のような形に写ります
神経所見の診察では、筋強剛(きんきょうごう)と無動(むどう)がみられ(詳しくは後の解説をお読みください)、立った姿勢では姿勢を保つ反射が落ちており、パーキンソン病と診断されました。立ちくらみがしやすいのは起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)といって、立ち上がったときに血圧が低下する現象が起こっていることもわかりました。脳のドパミン神経をみる検査(ドパミントランスポーターをみるシンチグラムの検査)を受けていただくと、ドパミン神経が減っている所見が見られ、パーキンソン病と矛盾のない結果でした。脳の中で足りなくなったドパミンを補充するお薬を開始すると体の動きの改善がみられました。血圧の薬を少し減らすことで、また、家の外も少しずつ出歩けるようになってこられました。
パーキンソン病は動きの遅さや体の硬さ、震えなどの運動障害を中心とする病気ですが、運動の障害だけでなく、他にもいろいろな症状が出る病気です。パーキンソン病では、脳の中のドパミンという神経伝達物質が減っていることが、動きの悪さなどの様々な障害に結びついていることが知られています。
パーキンソン病の有病率(人口10万人あたりの人数)
パーキンソン病は高齢になるほど頻度が増える病気です。海外のデータをまとめた報告では、人口10万人あたりの患者数は、40才代の40人程度に対し、80才以上ではその50倍近い1900人程度の患者数がいると推定されています*1。社会の高齢化が進むにつれ、パーキンソン病の患者さんの数はどんどん増えていくと予想されています。
パーキンソン病患者さんの立った姿勢での
背骨のレントゲン写真:
骨自体の変形は強くありませんが背中が
丸くなり、首と腰の傾きがみられました。
調査時年齢と夜間頻尿
調査時年齢とゆううつ
レム睡眠行動障害:
睡眠中に夢の内容に一致した異常行動が出ることがあり、大声で叫んだり、周囲のものをたたいたり蹴飛ばしたりすることがあります。
幻視:
実際にはないものが、本人には見えるという症状です。軽度なものでは「誰かが通ったような気がした」といったようなものから具体的に人や動物の姿形がはっきり見えるものまで程度は様々です。30~60%位の患者さんに見られるといわれます。
その他:
はっきりしない疲労感、においがわかりにくい、不眠など様々な症状を伴う場合があります。程度やその内容は様々ですが、認知機能の低下が見られることもあります。
パーキンソン病は、顔面の筋肉の「無動」症状から、顔が無表情になり、声が小さく、悲観的に聞こえるしゃべり方などから、初期にしばしば「うつ病」と間違えられることがあります。また、体の動きの遅さも「年をとったから」「腰が悪いから」「膝が悪いから」と他の原因と思い込まれている場合もあります。適切な診断と治療により、動きを改善させ、ひいては不安や抑うつ気分を改善させ、生活の質の向上を図っていくことができる病気です。思い当たる場合はぜひ、脳神経内科の医師にご相談ください。