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けっして難しくない酸素療法 第3回

前回までに「酸素流量計の種類と使い分け」 「酸素療法の種類」を記載させて頂きました。もしもこの部分について理解が深まっていない場合はもう一度振り返ってご一読頂けますと幸いです。今回は前回概要のみ説明した「低流量システム」と「⾼流量システム」のうち、「低流量システム」について掘り下げていきたいと思います。

低流量システムとは・・・ 「患者さんの呼吸状態により吸⼊酸素濃度が変動するタイプの酸素療法」でした。「流しそうめんの定理」です。つまり酸素流量計から流れてくる酸素だけでは⼀回分の換気量を補うだけの酸素がない。ということは不⾜した分はマスクやカニューラの隙間を使って大気を吸いこむ事になります。酸素流量計から流れてくる酸素量は常に一定ですので、「換気量の変化」=「補われる大気量の変化」となり、結果的に吸い込むガスの「酸素濃度の変化」となるのです。たとえば1分間に2リットルの酸素吸⼊をしている患者さんがいたとします。 その患者さんの⼀回換気量は400ml、呼吸回数が15回だったとすると 1分間では「400ml×15回」、つまり6リットルの空気が必要という計算になります。 でも酸素流量計から流れてくる酸素は1分間に2リットル・・・「 6リットル-2リットル=4リットル 」。この時点でこの患者さんは不足している4リットルの空気を大気から補う事になります。その後、この患者さんの呼吸状態が変化し、⼀回換気量が200ml、呼吸回数が20回に変わったとすると、「200ml×20回=4リットル」が1分間に必要な空気の量となります。 しかし酸素流量は1分間に2リットルのまま変わりません(4リットル -2リットル=2リットル)。 ⾜りない空気の量が4リットルから2リットルに減少しました。 1分間に吸い込まれる換気量が変化し不足する空気の量は変わりましたが、酸素流量計から流れてくる酸素量は変わりませんので、全体の換気量に対する100%酸素(酸素流量計から流れてくる酸素量)の割合が増え、結果的に吸⼊酸素濃度が⾼くなります。逆の場合も考え方は同じで、換気量が上昇すれば補われる大気の量が増加します。1分間に2リットルの酸素が投与されている患者さんの1分間の換気量が10リットルに上昇すれば当然8リットルの空気が補われる必要が出てきます。その結果、全体の呼吸量に対する酸素の割合が低下しますので酸素濃度が下がります。このように呼吸の状態により実際に吸い込まれる酸素量の割合が変化し、結果として酸素濃度の変化が起きる。これが「低流量システム」の特徴となります。

換気量の変化に対して一定酸素量が与える酸素濃度の変化

では医療者側が把握していないこのような意図せぬ酸素濃度の変化はどのような弊害を産むのでしょうか。

CO2ナルコーシスによる呼吸不全を考えてみましょう。 CO2ナルコーシス・・・ つまり2型呼吸不全です。このような⽅に⾼濃度酸素の投与は基本禁忌となります。 なぜか・・・IndependentLungの増加によって発生する炭酸ガスの貯留と低酸素(AcidemiaとHypoxemia)が基本病態となるCO2ナルコーシス。こういった患者さんは低酸素と高二酸化炭素により呼吸中枢が刺激を受けてより多くの換気が⾏われる環境にあります。さらに⼆酸化炭素には⿇酔効果もあり、⾼度の⼆酸化炭素⾎症においては呼吸抑制が起き最悪の場合呼吸停⽌に⾄ります。 通常このような患者さんは、医師によって低酸素になりすぎず、さらに高二酸化炭素血症を防ぐための絶妙な量の酸素療法が施行されています。これはふだんから患者さんを観察し、患者さん個人個人の必要最低限の酸素量を把握している医師だからこそなせる業であり、非常にシビアな管理がされています。この程よい低酸素と高二酸化炭素血症の状態が呼吸中枢の活動を正常化しています。しかし、いったんこの状態が破綻する(意図せぬ吸入酸素濃度の上昇によって酸素が豊富に身体に取り込まれる)と、“程よい低酸素状態”で機能していた呼吸中枢が「酸素がたくさんあるから呼吸しなくても大丈夫かも」と認識し休み始めます。その結果、換気量が低下し血中二酸化炭素のさらなる上昇と吸入酸素濃度の上昇を招き、悪のサイクルに陥ります。想像しただけで恐怖です・・・。

ふだんこのような管理が行われている患者さんが肺炎等の急性期疾患に罹患した場合や、神経筋疾患による低酸素状態となった患者さんに対して闇雲にSpO2のみを指標にして酸素を増量するとこの恐怖が訪れる可能性が高いです・・・。一度こうなってしまうと「人工呼吸」によって強制的に換気を行わせる以外助かる道はないかもしれません。

以上をまとめてみると・・・

  1. ⾼⼆酸化炭素⾎症および低酸素⾎症にて呼吸中枢が刺激され何とか呼吸を維持している。
  2. 低酸素を補正するため、SpO2だけにとらわれて低流量システムによる酸素投与を開始する。
  3. 酸素投与によって低酸素が改善する。
  4. それまで低酸素によって刺激されていた呼吸中枢を休ませてしまう。
  5. 呼吸が浅く、回数が減る(肺胞換気量が減少する)。
  6. 肺胞換気量は⾎中⼆酸化炭素に反⽐例するため、肺胞換気量の低下に伴い⾼⼆酸化炭素⾎症が進⾏する。
  7. 上記説明通り、低流量システムの特性上換気量の減少に伴って酸素濃度が上昇する。
  8. ここからは「3」〜「4」の悪循環
  9. 結果的に呼吸が停⽌する場合がある。

拙い説明で申し訳ありません。 なんとなくお分かり頂けたでしょうか。 実際にはここまで単純ではないですが、基本的な考え方は間違ってはいません。これが低流量システムの特徴です。ではなぜこんなにも怖い低流量システムが日常的に使用されているのでしょうか・・・。それは準備が簡単で特殊な設備が必要ないお手軽な方法だからです。

次回は⾼流量システムについて説明させてもらいます。

 

 

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