今回は、多くの方が経験したことのある「しびれ」について解説します。
「しびれ」は私たち神経内科医が最もよくであう症状の一つです。
「しびれる」という言葉を用いるときには、大きく分けて3つの異なる意味が存在します。1つ目は体が動かない、うまく使えないという動きの悪さを感じたときに使う「しびれる」、2つ目は、熱さを感じないとか、痛みを感じない、あるいはびりびりとした変な感じがするといった感覚がおかしいとき、3つ目は国語辞書にはない用法ですが、強く感動したとか心を奪われるときにも「しびれる」という言葉を使うことがあります。本稿でとりあげる「しびれる」は、2つ目の感覚の異常によって起こるしびれについて取り上げます。
私たちの体には感覚を感じるセンサーが膨大な数存在します。表1に示したように感覚にもいろいろな種類があります。最もわかりやすいのは表のⅠ-A-1の表在覚(皮膚の表面にセンサーがあり触った感じ、熱い冷たい感じ、痛みを感じる)ではないでしょうか。図1に示したようにこのセンサーで感じた感覚は手や足から末梢神経を通じて脊髄を通り脳に到達して熱いとか痛い、あるいは何かが触っているという感覚を認識することになります。この経路のどこかに障害が起きるとしびれが現れます。センサーそのものが壊れてしびれが起こることもありますが、その場合は皮膚の表面で問題が起こっていることが多いので原因を取りのぞけば比較的容易に改善します。具体的には指先で紙を何枚もめくる作業をして指先にしびれが起こる、タイトなジーンズで太ももがこすれて感覚がおかしくなる等がその例です。しびれの原因で最も多いのはセンサーから脊髄に到達するまでの末梢神経の部位での障害です。末梢神経は電線にたとえられますが、軸索と呼ばれる芯の部分(電線のコードが通っている部分)とそれを周囲から包み込む髄鞘(ビニールのカバーにあたる部分)から成り立っています。この芯の部分が壊れることもあれば、カバーしている部分がはがれて、うまく伝わらなくなることもあります。強い外力などで完全に切断されてしまうと無感覚になってしまい、「しびれ」も感じなくなります。「しびれ」はつながってはいるけれどうまくつながっていない状態で、そのために本来でない感覚を脳が異常な感覚「しびれ」と認識していると考えるとわかりやすいかと思います。
図1 感覚のしくみ
神経の経路が圧迫されたり(手首の腱で正中神経が圧迫されておこる手根管症候群や腰部椎間板ヘルニアによる坐骨神経の圧迫が代表的)、糖尿病やアルコール、薬物などで末梢神経全体が障害されたり、脳出血や脳梗塞、腫瘍によって脳や脊髄の神経の経路が破壊されて起こる等、様々な原因で起こります。図2に示したようにどの部位が障害されたかによってしびれの起こってくる場所が変わってきます。言い換えれば、どこがどのようにしびれているかでどこに異常があるか、ある程度見当がつくということになります。神経伝導速度検査、MRI検査を行い実際に病変の有無を確認します。最終的には神経の一部をとって(神経生検といいます)、何が神経に起こっているかを調べることもあります。
図2 障害された場所と感覚障害の現れ方
しびれの原因がさまざまなため、回復の速度に関しては一概にはいえませんが、末梢神経の修復には時間がかかるため、運動麻痺に比べると回復がゆっくりなことが多いといえます。一般的には月、時には年の単位で回復していきます。また高度な障害から回復してくると異常な感覚が伝わるようになって、かえってしびれが強くなることがあります。したがってしびれが強くなったことが病気の悪化を意味するわけではないのです。治療としては神経への圧迫がある場合は取り除く手術をしたり、末梢神経の回復に必要なビタミンB12を補う、神経の血行を改善する薬剤を用いたりします。もちろん原因となる疾患がある場合はその治療が優先されます。