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神経免疫システム研究部のホームページをご覧頂きありがとうございます。当研究部は2025年4月1日付けで新設された研究部です。私たちは神経と免疫細胞の相互作用に着目した感覚受容システムや老年病の病態を解析し、加齢に伴い神経と免疫細胞の連関がどのように変化していくかを明確にすることを目標に研究をおこなっています。
2025年7月30日 アレルギー&リウマチ性疾患 8月臨時増刊号に私たちの研究記事が掲載されました。
2025年7月24日 第48回日本神経科学大会に参加しました。
2025年6月26日 奈良県立医科大学で医学科1年生に講義(医学研究入門)しました。
2025年6月20日 BIO Clinica誌(北隆館)7月号に私たちの研究記事が掲載されました。
2025年6月19日 第2回ジェロサイエンス研究センターセミナーで発表しました。
2025年6月14日 第4回APOE研究会に参加しました。
2025年6月9日 Keystone symposiaで発表(ポスター)しました。
2025年6月1日 Aung Ye Munが研究員としてメンバーに加わりました。
2025年5月13日 研究補助員(非常勤)を公募しています。
2025年4月11日 The 9th NCGG/TMIG – ICAH Symposiumで発表しました。
2025年4月1日 神経免疫システム研究部が発足し、田中達英が部長に就任、木戸ゆかりが研究補助員として加わりました。
私たちは、加齢に伴って生じる身体の様々な変化や疾患の病態について、神経免疫連関からその仕組みを明らかにしたいと考えています。加齢による感覚の機能低下や加齢性疾患を神経系と免疫系の連関破綻で捉え、老化・老年病の新たなメカニズム解明について研究しています。
また、高齢になれば様々な疾患に罹患する割合は増加します。同時に慢性疼痛の有病率も上昇します。疼痛は様々な疾患に付随して起こるものであり、痛みの機序を詳しく調べて治療することは高齢者のQOLの向上にもつながると考え、疼痛の新規発生メカニズムの解明と治療薬の創出にも取り組んでいます。
慢性疼痛は世界中で数百万の人々が抱える深刻な問題であり、身体的、精神的、社会的な影響を及ぼします。非ステロイド系抗炎症鎮痛薬(NSAID)やオピオイドなどの既存の治療薬では制御困難な症例も存在します。慢性疼痛の治療法を革新し、患者の生活の質を向上させることは、医療分野における重要な課題です。
私たちはこれまでは、皮膚の真皮層に局在する免疫系細胞マクロファージの中でも特に神経近傍のマクロファージは細胞内輸送関連因子Sorting nexin 25 (SNX25)を介して痛覚制御に重要であること、は神経成長因子NGFの発現・分泌を促進し、痛みを引き起こしていることを明らかにしてきました(Tanaka et. al., Nat. Immunol. 2023) 。現在、この神経近傍に局在するマクロファージを介した感覚受容システムに着目して皮膚だけでなく他の臓器についても研究しており、さらに詳細な分子機序を解明して痛覚を制御する包括的な理解を目指しています。また、SNX25やその関連因子を標的とした新規治療戦略の探索もおこなっています。
慢性疼痛の有病率は高齢になるほど上昇し、特に75歳以上で急激に高くなります。老化に伴う慢性炎症が高齢者の慢性疼痛に寄与することが示唆されていますが、この観点からの研究は多くありません。私たちはこれまで免疫系細胞の変調が疼痛惹起に深く関与することを見出してきており、免疫系細胞の機能が加齢に伴いどのように変化し、また慢性化する痛みの形成に寄与するかを検証しています。センター内において飼育・管理されている自然老化動物(エージングファーム)を用いて老齢マウスにおける様々な慢性疼痛モデルで分子メカニズム解明に取り組んでいます。
また、国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences - Longitudinal Study of Aging: NILS-LSA)データを活用して高齢者の感覚機能や疼痛についても調べています。
炎症は、損傷部位に免疫細胞を動員することによって生体を防御し、組織の恒常性を回復させる重要な反応です。末梢神経損傷後には、デブリの除去および神経再生の円滑な進行が、機能回復の鍵を握ります。中でもマクロファージは、損傷応答において中心的な役割を果たし、貪食による髄鞘デブリの除去や組織修復を担うとともに、炎症性あるいは抗炎症性サイトカインおよび成長因子を損傷の段階に応じて分泌します。さらに、マクロファージはT細胞やB細胞といった他の免疫細胞と相互作用しながら、局所の免疫環境を制御するだけでなく、シュワン細胞と連携することで軸索再生や再髄鞘化を促進します。
しかし、加齢に伴い免疫システムの調和は失われ、マクロファージの貪食能の低下、免疫多様性の喪失、さらには「炎症老化(inflammaging)」と呼ばれる慢性的な低度炎症が進行します。これらの加齢性変化は神経修復プロセスを阻害し、結果として神経再生の不全につながる可能性があります。
私たちの研究では、老齢マウス(20から24ケ月齢)を用いた末梢神経再生モデルを通じて、マクロファージ機能における細胞レベルおよび分子レベルでの変化を明らかにすることを目指しています。この知見は、高齢者における神経再生治療の新たな可能性を拓く上で、重要な基盤となることが期待されます。
マクロファージはポドソームという特殊な構造で細胞外マトリックスに接着することが知られており、この足場を使って外力の受容や周囲組織の変形等の情報を受容しているのではないかと考えられています。ポドソームを介したマクロファージのメカノセンシングは加齢性疾患では損なわれている可能性も含め、機械的なストレスと加齢が連結しているかを検証しています。たとえば、老化に伴い、罹患率が上昇する動脈硬化やがんの病巣は硬化しますが、これら病巣のマクロファージのメカニカルストレス受容メカニズムの解明を目指しています。このように、新しい切り口で老化・老年病の病態解明に挑んでいます。
Dermal macrophages control tactile perception under physiological conditions via NGF signaling. Tanaka T*, Isonishi A, Banja M, Yamamoto R, Sonobe M, Okuda-Ashitaka E, Furue H, Okuda H, Tatsumi K and Wanaka A. Sci. Rep. 14 27192 2024 マクロファージが微弱な機械刺激に反応して触覚の感度に関与していることを示しました。
Macrophages modulate mesenchymal stem cell function via tumor necrosis factor alpha in tooth extraction model. Mun AY, Akiyama K*, Wang Z, Zhang J, Kitagawa W, Kohno T, Tagashira R, Ishibashi K, Matsunaga N, Zou T, Ono M, Kukobi T. Journal of Bone and Mineral Research Plus. 8 (8): ziae085. 2024 マクロファージがTNF-aを介して間葉系幹細胞の機能を調節することを示しました。
Dermal macrophages set pain sensitivity by modulating the amount of tissue NGF through an SNX25–Nrf2 pathway. Tanaka T*, Okuda H, Isonishi A, Terada Y, Kitabatake M, Shinjo T, Nishimura K, Takemura S, Furue H, Ito T, Tatsumi K, Wanaka A*. Nat. Immunol. 24: 439-451. 2023 マクロファージが生理的な状態の痛覚を制御することを示しました。マクロファージから分泌されるNGFが痛覚の閾値を設定しいることを見出しました。
Large-scale electron microscopic volume imaging of interfascicular oligodendrocytes in the mouse corpus callosum. Tanaka T*, Ohno N, Osanai Y, Saitoh S, Thai TQ, Nishimura K, Shinjo T, Takemura S, Tatsumi K, Wanaka A. GLIA 69: 2488-2502. 2021 神経軸索を取り巻くミエリンの超微形態解析で既存のミエリン構造的概念とは大きく異なることを示しました。
Microglia support ATF3-positive neurons following hypoglossal nerve axotomy. Tanaka T*, Murakami K, Bando Y, Nomura T, Isonishi A, Morita-Takemura S, Tatsumi K, Wanaka A, Yoshida S. Neurochem. Int. 108: 332-342, 2017 神経損傷後にミクログリアは神経栄養因子を分泌して神経再生を促進することを見出しました。
Interferon regulatory factor 7 participates in the M1-like microglial polarization switch. Tanaka T*, Murakami K, Bando Y, Yoshida S. GLIA. 63: 595-610, 2015 傷害型ミクログリアと保護型ミクログリアの極性変化にIRF7が関与することを見出しました。
Minocycline reduces remyelination by suppressing ciliary neurotrophicfactor expression after cuprizone-induced demyelination. Tanaka T*, Murakami K, Bando Y, Yoshida S. J. Neurochem. 127: 259-270, 2013 ミクログリアはオリゴデンドロサイトの分化を促進しミエリン再生に関与することを示しました。
Layer V cortical neurons require microglial support for survival during postnatal development. Ueno M, Fujita Y, Tanaka T, Nakamura Y, Kikuta J, Ishii M, Yamashita T. Nat. Neurosci. 16: 543-551, 2013 脳発達期にミクログリアは神経細胞の生存に必須であることを示しました。
Engulfment of axon debris by microglia requires p38 MAPK activity. Tanaka T, Ueno M, Yamashita T. J. Biol. Chem. 284: 21626-21636, 2009 ミクログリアは神経細胞変性後にデブリスを貪食して神経再生を促進することを見出しました。
部長 | 田中達英 | researchmap![]() |
研究員 | Aung Ye Mun | researchmap![]() |
研究補助員 | 木戸ゆかり |
田中達英「マクロファージ-ニューロンのシグナル伝達を介した痛覚制御機構」アレルギー&リウマチ性疾患 45: 709-713, 2025