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常識にとらわれない電気メス!?

今回は電気メスの中でもこれまでの常識を打ち破る可能性のある電気メスのお話しさせて頂きたいと思います。電気メスの原理については前回の記事このリンクは別ウィンドウで開きますをご覧いただければと思います。電気⼿術装置とはその名のとおり電気エネルギーを⽤いて⽣体に対してさまざまな効果(凝固・切開・剥離など)を与える装置ですが、⼀⾔で電気エネルギーといっても電圧や電流、周波数や抵抗値、通電時間などさまざまな要素が複雑に絡み合って最終的に電気エネルギーとして組織に作⽤します。⼀般的に分かり易いのは電圧・電流・抵抗の関係、いわゆるオームの法則です。しかし近年の電気⼿術装置は、単なる切開・凝固だけではなく⾮常に細かくデジタル制御された出⼒によって過去のデバイスでは考えられないほど多くの効果をもたらす事が可能となり、⾼度化した現在の外科⼿術の⼀端を担っております。しかし、電気を使う以上さまざまな弊害が出てしまう事も事実です。代表的なものとしては対極板装着部の障害や意図せぬ神経・筋⾁の刺激、感電、EMIなどです。これらの障害は事前の対策によってある程度防ぐ事はできますが100%防⽌できるとは⾔い切れません。また、対極板の設置場所・使⽤する出⼒様式、⽪膚との接触状態や患者さんの体型によっては同じ出⼒設定であるにも関わらず⼀定の効果を得る事ができず、必要以上の出⼒設定を余儀なくされ不必要な部位にまで電気的効果が波及してしまう可能性もあります。このようなリスクがあるにも関わらず外科的⼿技において常に最前線で活躍する電気メスですが、今回は、これまでの一般常識が通用しない?!電気⼿術装置(RFナイフ)についてのお話しです。 ⼀部の診療科(眼科や⽪膚科)の先⽣⽅はよくご存知かと思いますが、あまり広く知られていないこの装置は、医療機器としては「電気⼿術装置」に分類されていますので、禁忌事項等も電気メスと同じでその特徴や適応が⼗分に認知されないままとなっています。

現在販売されているRFナイフ装置の外観写真

写真はエルマンジャパンのHP

今回われわれは、このRFナイフの理論を理解したうえで、その可能性を⾒出し、よりよい医療の提供に役⽴てるべくある検証をしてみました。 そもそもRFナイフと電気メスは何が異なるのでしょうか・・・。 出⼒形態はほぼ他の電気メスと同じと⾔っていいと思います(細かくは違いますが、それほど⽣体への影響に変化を及ぼすものではありません)。⽣体への効果に⼤きく影響を与える因⼦として、電気メスとRFナイフで⼤きく異なる点は発信周波数にあります。⼀般的な電気メスは400kHz近辺の周波数帯が利⽤されているのに対して、RFナイフはその約10倍の4MHz帯の周波数が利⽤されます。以下の表は⼀般的な電気メスとその周波数の関係を⽰したものです。

各種電気メスの出力周波数一覧

では周波数が異なる事で⽣体にはどのような違いが出るのでしょうか。 以前の記事にも書かせて頂きましたが、交流電流が導体に流れる際に無視する事のできない物理現象に「表⽪効果」があります。 これは、周波数が⾼くなればなるほど電気の流れる道が導体の表⾯に集中してくるといったものです。 これだけではあまりピンときません。 ⽇常⽣活に置き換えてみると、街でよく⾒かける⾼圧電線にも同じ事が⾔えると思います。 たくさんの電気を流したいからといって、単に電線を太くしても効率は上がりません。それは電気が表⾯しか流れないからです。 多少表面積が増えますので電流密度は低くなるかもしれませんが・・・。以下は簡単なイメージ図になります。

電気が流れる場所をイメージした電線の断面図

いくら導体が太くなっても電気が流れる部分(⾚)は大きくは変わりません。これが表⽪効果と呼ばれるもので、周波数の異なる電気メスとRFナイフで⼤きく異なる点だと理解しています。では電気⼿術装置がもたらすこの相違点は⽣体にとって⼀体どのような影響をもたらすのでしょうか。まずは出⼒に関してです。たとえ同じエネルギーが与えられても、その周波数が異なると組織への深達度に⼤きく差が出ます。表⽪効果の原理からして周波数の⾼いRFナイフの組織深達度は浅い事が理解できると思います。深達度が浅いという事は単位⾯積当たりの電流密度が⾼いことを意味します。電気⼿術装置の基本原理であるジュール熱は電流密度に⽐例しますので、より⾼い電流密度を実現できる装置ほど効率のよい出⼒(低出⼒でも⼗分なジュール熱の発⽣が確保できる)が行えると言えます。つまり電気メスとRFナイフでは同じ出⼒設定でも組織に発⽣するジュール熱に差が⽣まれ、RFナイフ使⽤時の⽅がジュール熱がより多く発⽣するため高効率であると言えるのです。さらに、電気を⽤いて組織に切開や凝固効果を与える場合、いかに⽬的とする部位にのみ効果を絞れるかは、周辺組織への熱害の範囲の⼤⼩を決定付けます。そしてそれをできる限り⼩さく抑える事は傷の治癒を早めたり、⼿術部感染いわゆるSSIの低減にもつながるといわれております。以上の理由からより高周波数帯で出力を行うRFナイフは、出力を低く抑えつつ最大限の効果を期待できる非常に効率のよい電気手術装置であるといえます。

では次に電気の回収について考えてみます。 まずは通常の電気メスからです。出⼒された電気は体内を通過し、体表に貼られた対極板によって回収されます。しかし、この場合⾝体の⼤きさや貼付場所によって電気が回収されるまでの道のりに⼤きな差が⽣まれます。これは電気を回収する上での「抵抗」となります。対極板からの回収効率が落ちてしまう(電気が流れにくい状態を作ってしまう事)と、本来の⽬的である出⼒にも影響を与え、凝固や切開の効果も落ちてしまいます。そしてその落ち込んだ効果を補填するために出力設定を上げる・・・。それが原因で、いわゆる対極板熱傷を引き起こす事も考えられます。つまり対極板を利⽤する際に気をつけなければならない事は、できるだけ術野に近くの血流の豊富な平らな組織に貼付し、血流のよる熱量の分散を利用しながら電気の回収効率を上げる事です。こうする事で体格等に影響されない安全な電気の回収経路を確保できるのです。結果的にこれが安定した電気的な効果を実現します。

電気メスの出力と対極板からの電気回収のイメージ図

では次にRFナイフで出⼒されたエネルギーの回収を考えてみます。対極板は⾦属プレート・・・。そして服の上からの装着でも問題なし・・・。という事は流れた電気的エネルギーは体内を通過する事無く機器に回収されます。すなわち電気メスは「電気」の回収であったのに対し、より⾼周波数帯を⽤いたRFナイフは「電波」を回収していると言い換える事ができるかもしれません。 ⼀般的に電気とは導体を流れる印象ですが、電波は空間を伝播するイメージです。 ということは設置場所や体格に影響を受け難い回収が実現できる事になります。これは電気メスで注意が必要だった術野との関係や貼付場所の選択を“注意する必要のないもの”へと変化させ、さらに回収効率が⼀定ということは出⼒に対する組織への効果も変動する事無く⼀定という事を意味します。 これがRFナイフにおけるエネルギー回収の特徴の⼀つです。

RFナイフを使用した際の電気回収のイメージ図

いかがでしょうか。 RFナイフって電気メスとは種類の異なる装置に思えてきませんか︖ なのに括りは同じですので注意点も同じ・・・。おかしいですよね。だからあまりRFナイフのよさが分かってもらえず多くの診療科に浸透していないのかも知れません。もっと知れ渡ればきっと活躍の場は増えると思います。

ではここでRFナイフのメリットが際立つ一例について記載させて頂きます。それは、ペースメーカー等の心臓リズムデバイスと電気メスの関係についてです。 端的にいえばこの両者は⽝猿の仲です。この両者を同時に使⽤する場合はお互いの設定等をしっかりと確認しつつ状況に応じた対応が必要になってきます。理由は⾔うまでもありません。電気⼿術装置からの出⼒が⼼臓リズムデバイスに⼊⼒される事で、思わぬ不整脈やデバイスの誤作動を引き起こす危険があるからです。最近のデバイスは各種フィルタ

や検出アルゴリズムで本来の⼼臓活動電位のみを検出するよう⼯夫がされています。しかし、⼯夫と⾔っても実際の波形や⼼臓の動きを⾒ている訳ではなく単なる電気信号を検出しているだけですので100%間違いのない作動は保証できません。そのため私たちデバイス管理者は⼼臓リズムデバイス植込み患者さんに電気⼿術装置を使⽤する場合は、専⽤のプログラマーを待機し、⼼電図をモニタリングしながら必要に応じて設定変更等の対応を⾏うのです。しかし、少し考えて⾒ると・・・ 電気⼿術装置からの出⼒が⼼臓リズムデバイスに⼊⼒されるからダメ・・・・・︖ 電気が体内を通るから・・・・︖ 電気が体内を通るのはなぜ・・・︖ 組織に作⽤した電気が対極板で回収されるから・・ じゃあ回収される電気が体内を通らない場合はどうでしょうか。 通常の電気メスであってもbipolarで出⼒を⾏えば出⼒された電気は体内を通りません。そしてその場合⼼臓リズムデバイスへの影響はありません。 やはり、体内に電気が流れなければ電気⼿術装置と⼼臓リズムデバイスの仲は悪くならなくても済む︖︖ 先ほどの話しからRFナイフは電気の回収に⾝体を使わず空間を利⽤した電波回収といえると⾔いました。という事はもしかしたらRFナイフはたとえbipolarでなくとも⼼臓リズムデバイスに影響を与えず出⼒を⾏う事ができるかもしれない・・・。 という事からちょっと検証です。⽣理⾷塩⽔と粉寒天を利⽤して⽣体を模擬したファントムを作成し、電気メスとRFナイフそれぞれの出⼒がどの程度⼼臓リズムデバイスに影響を与えるのかを試してみる事にしました。できるだけ条件を厳しくするため、電気メスとRFナイフの出⼒は MAX︕ ⼼臓リズムデバイスの検出感度は最⾼感度︕︕︕ しかもデバイスの検出設定はUnipolar︕︕︕ これらの設定でペーシングリードを接続し、ファントムに設置。抵抗値に異常のない事を確認し、いよいよ電気⼿術装置からの出⼒です。まずは通常の電気メス。 出⼒と同時に⼼電図波形が⼤きく乱れ、検出を⽰すマーカーが⽴つ⽴つ・・・。 当然の事ながらペーシングは⾏われず・・・。 Reversionは働くと思ってましたが何故かこれも働かず完全にinhibit状態。もしこの状態がペーシング依存の患者さんに起きたとすると・・・。考えるだけで ”ゾッと” します。 実際の⼼電図は以下の通りです。

電気メスの出力に影響を受けた心臓ペースメーカーの波形

最⾼感度および最⾼出⼒での結果ですので納得の範疇かと思いますがやはり気持ちのよいものではありません。 対してRFナイフの出⼒時は・・・・ さまざまな思惑、期待の中いざ出⼒っ︕︕︕ 「シーン・・・」 ︖︕︖︕︖︕︖︕︖︕ ファントムからは湯気が⽴って切開・凝固ともにできているので出⼒されてないわけではないのは明らか・・・。 なのに⼼電図波形は「シーン・・・」 予想はしていましたが、ここまで静かだと「本当に︕︖」と疑いた くなりますが、これが事実です。では実際の波形です。

RFナイフを出力した時のペースメーカーの動き

もちろん設定通りにペーシングもされており、何の悪影響も捉えられません。その場にいたスタッフやメーカーさんも、この波形を⽬の当たりにして驚きを隠せませんでした。その後いろいろと条件(設定や出⼒場所等)を変更して試しましたが、やはり結果は同じ。いかがですか︖ 医療機器に携わっている⽅ほどびっくりされるのではないでしょうか。この場ではあまり踏み込んだ事は書きませんが、実験ではなく実際の臨床使⽤でも安全に施⾏できる事は確認できました。 何か機会があれば学会等で世に広めたいと思いますが、それまでの間にもこのような実例を参考にして臨床に⽣かし、患者さんにとってよりよい医療が提供できればと思い今回はブログをという形で記載させて頂きました。 何かご意⾒等ございましたらコメント頂けますと幸いです。

 

 

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