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電気メスの機能について

今回は電気メスの簡単な原理と機種選択について書かせて頂きます。電気メスとはその名の通り電気を⽤いて組織の切開や凝固を⾏うための機器で、電気メスが無ければ現在の外科⼿術は成り⽴たないといっても過⾔ではないほど⾮常に⼤切な医療機器の⼀つです。まずは簡単に原理から・・・ ⼀般的には、電気メスとは身体に300kHz〜5MHzの周波数帯(⾼周波)の電気を流すことで、組織での温度上昇(ジュール熱の発⽣)やスパーク(⽕花)を発⽣させ、そのエネルギーを利用して組織の切開・凝固を⾏うものです。ではなぜ電気を流すことでこのような作⽤が起こるのでしょうか。まずは300kHz〜5MHzの⾼周波を使⽤する理由・・・ 最初に「電気に触れる=感電する」という所から説明します。⽣体は⼀般的な商⽤電源(50Hzや60Hz)の低周波数領域における電流閾値がもっとも低い(反応しやすい)とされています。つまりこれらの周波数帯域では⽣体の筋⾁がピクピク(感電)してしまいます。しかし、⾼周波になればその閾値は⾼くなっていき、周波数が1kHzを超えるとほぼ⽐例関係となり直線的に⾼くなって(反応しにくくなって)いきます。では周波数は⾼ければ⾼いほどよいのかというと・・・。確かに感電の閾値という点からいけば周波数が⾼いほど感電のリスクは低下するかもしれません。しかし周波数が⾼過ぎると、電気の組織への深達度が浅くなり目的の部位まで到達できずに電気メス本来の機能(切開・凝固)を⼗分に発揮しません。その原因は表⽪効果と呼ばれるものですが、電気の周波数と皮下への到達深度には以下の式が成り⽴ちます。

表皮効果を示した公式

つまり「表⽪効果」によって周波数が⾼ければ⾼いほど深部の組織への到達が出来なくなるのです。それが⼀般的に300kHz〜5MHzで電気メスが設計されている理由なのかもしれません・・・。では次に組織の切開・凝固が起こる原理を簡単に書かせて頂きます。

切開

メス先から上記周波数帯の電気を連続的に流すと、その先端にはジュール熱が発⽣します。このジュール熱は電流密度の⼆乗に⽐例しますので⽪膚とメス先との接触⾯積が⼩さければ⼩さいほど多くの熱が発⽣します。そしてその熱が組織液を沸騰させます。その沸騰により組織の脱⽔が起こり、電気が流れにくくなります(抵抗が上がります)。そうなると電気メス本体は、エネルギー値(W︓ワット)を保持するために、その抵抗に打ち勝つだけの電流を流すための⼒(電圧)を増加させます。電圧はそのピーク値が200Vを超えるとアーク放電(スパーク)が発⽣し、そのスパークによって組織の温度が200℃以上となると組織は爆発します。この状態でメス先を動かすことで連続的に爆発が繰り返されますので結果的に切開となります。以下に電流密度のイメージ図と⼀般的な切開波形を示します。これを見ると切開波形はきれいなサインカーブである事が分かります。ただし、ピーク電圧⾃体がそれほど⾼くありませんのでスパーク量は少なく凝固層としては薄くなりますので⽌⾎⾯では効果は薄くなってしまいます。

電気メスのメス先と電流密度の関係電気メスの切開波

凝固

切開が理解できれば凝固は説明するまでもないかもしれません。電流を断続的に流して組織に冷える時間を与えることで温度を⾼くしすぎない(組織が沸騰しない=切れない)。その代わりピーク電圧を⾮常に⾼くすることで、放電を多く起こして組織を炭化させる。つまり凝固させるということです。以下が⼀般的な凝固モードにおける出⼒波形です。 全然違いますよね。

電気メスの凝固波

まとめますと電気メスを⽤いた切開とは・・・ 連続的に電流を加え続ける事で発⽣するジュール熱がアーク放電によるスパークを上回ることでジュール熱が組織の温度を十分に上げるが電圧が低いためにアーク放電の発⽣が少ない。そのためよく”組織”はよく切れるが”血液”は凝固しない。凝固とは・・・ 断続的に電流を加える事で組織に冷える時間を与えるため、ジュール熱を低く抑えつつピーク電圧を⾼くすることでアーク放電が多く発⽣します。そのため”組織”はあまり切れないが”血液”は凝固するというのが基本的な電気メスの動きです。

では次にERBE社製電気メスに搭載されているSoftCoagモード・・・ これは⾮常に特殊なモードであり、これまでの電気メスとは異なった制御がされています。まずは出⼒波形を確認してみると・・・

ソフト凝固の出力波

あれっ︕︖ 切開と同じような気がします(もちろん横軸・縦軸の幅は違いますが・・・)。 Coag(凝固)という名前でありながら出⼒波形は切開︖︖ そうなんです。SoftCoagとは、凝固という名前が付いていながら⼀般的な凝固と原理がまったく異なります。VIOシリーズと他メーカーの電気メスとの⼤きな違いは、設定した Mode・出⼒によって「電圧」が固定されるという点です(他メーカーは出⼒固定であり、電圧が変動しますのでSoftCoagといってもまったく同じではなくスパークが発生する場合もありますので注意してください)。そしてその電圧は「Effect」設定によってさらに細かく調節できます。「SoftCoag」ではこの固定された電圧上限値が 190V以下と低いため、スパークが発⽣する事はありません。すなわち、「Mode」「Effect」により設定(固定)された電圧は組織の凝固状態(抵抗の変動)に関わらず常に低い値で固定されるため、組織の凝固が進⾏(抵抗値が上昇)するに伴い電流値も減少し出⼒が低下します。その結果、組織は過度な温度上昇とスパークの発生が起きず、まるで低温調理されたかの様な状態になります。血液を高温で焼き固めて一時的な瘡蓋を作る一般的な凝固に対して、このSoftCoagは瘡蓋ではなく組織そのものを接着させるイメージでしょうか。それを可能にしているのがまさに「電圧が固定される」と作動です。それを理由に、SoftCoagの場合はEffectを上げる(ピーク電圧を⾼くする)ほどその凝固層は浅くなりますし、 接触⾯積の⼩さいデバイスではうまく作⽤しません。これは電流が凝固層 (抵抗値の上昇した部位)を通過できるほどの⼒(電圧)が与えられないからです。その結果切開は起こらず炭化も起こりませんので”血液の凝固”ではなく緩徐な”組織の凝固”が実現できるのです。通常の凝固モードと比べると凝固が実現するまでに時間はかかります。また、組織の状態によっては有効な出力が得られない場合もあります。しかし、いったん凝固層が出来上がってしまえばそう簡単に再出血をする事もありませんし、出力前に血液を吸引するなどの処置を行えば無効な出力もある程度は抑える事ができます。このように組織にとっては⾮常に優しく確実な凝固が⾏えるモードであるSoftCoagですが注意点もあります。電圧を低く抑えるということは他のモードに⽐べると電流値が⾮常に⾼くなります。電流値が多くなるということはそれを回収する対極板の設置には⼗分な注意が必要です。スパークが少ないからか、一般的な切開や凝固出力と比較すると何だか電気的な出力は弱い気がしますが、実は電流量は他のモードよりも⼤きいので対極板熱傷には十分な注意が必要です。

ここからが上記の内容を踏まえての本題です。脳神経外科や脊椎外科などで多⽤されているイリゲーション付きの電気メス(バイポーラ)のお話です。当センターでも使⽤しているこのタイプの電気メスですが、これは通常よりも周波数帯が高めに設定されており(平均1MHz)、かつイリゲーション機能によって出力と同時に先端から水が”ポトポト”と流れ出てきます。なぜこのような設計が必要なのでしょうか。高周波イリゲーション(灌流)システムには以下のような⽬的があります。

  1. ⽣理⾷塩⽔で先端を冷却して温度上昇を低く抑えることで、鑷⼦と組織の過度な温度上昇を抑える。→組織の炭化を抑⽌するとともに鑷⼦⾃体への組織のこびり付きを軽減して電気的効率を上げる。
  2. 組織へ滴下される⽣理⾷塩⽔⾃体の温度上昇により、鑷⼦の接触部分よりも広い範囲での凝固効果が期待できる。

以上の2点がイリゲーションタイプの電気メスを利⽤する主な要因であると理解しています。であるならば、鑷⼦⾃体が⾼い熱伝導性を有する銀合⾦により温度上昇が避けられ、かつスパークを起こさずに組織の凝固を行う事ができれば専用のバイポーラ装置の代用ができるかもしれません。という考えから、アムコから販売されている「バイポーラプレミアムフォーセプス」とSoftCoagの組み合わせで脊椎外科にて使⽤してもらったのですが、医師からは「いいねぇ、これ」のお⾔葉を頂きました︕︕ ホッと⼀安⼼・・・。 少し⼼配していた凝固範囲が狭くなる(よく⾔えば精密に凝固できる)事も特段不満は聞かれませんでした。

BipolarPremiumForcepsのカタログの抜粋

アムコのカタログ抜粋

今回はPLIFで使⽤して貰いましたが、今度はぜひ脊髄腫瘍で使⽤して頂き評価を伺いたいと思っております。みなさまの施設でも必ず電気メスは使⽤していると思います。しかも今はさまざまな種類の電気メスが販売されていますのでその機種選定も⼤変ではないでしょうか。臨床⼯学技⼠というと電気メスの保守点検をメインに⾏っている⽅も多いと思います。当センターにおいても保守管理はもちろん⾏っています。定期的な出⼒チェックや低周波・⾼周波の漏れ電流等・・・。でもこれだと臨床の場に⾝を置く者として少し張り合いがないように感じてしまいます。そこで、各機種の特徴を理解している臨床⼯学技⼠だからこそ、術式にあった機種や各種設定の提案、また院内における有効な機器運営のための台数確保や機種統⼀などに参画するのも院内で活躍できる道の⼀つではないかと考えます。少しでもみなさまの情報の⼀つとして役⽴てば幸いです。

 

 

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臨床工学部

TEL:0562-46-2311(代表)

E-mail:med-eng(at)ncgg.go.jp

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