厚生労働省の調査によると、2022年時点での認知症の高齢者数は約443万人、MCI(軽度認知障害)の高齢者は約559万人と推計されています。これは65歳以上の高齢者のおよそ3.6人に1人が認知症またはその予備軍であることを示しています。
認知症は誰もがなり得る病気です。親や兄弟、友人、ご近所の方など、身近な人が認知症になる可能性は、誰にでもあります。だからこそ、認知症の方との関わりは、「他人事」ではなく「自分の事」として捉えることが必要です。
認知症の方と関わるうえで、最も大きな壁のひとつがコミュニケーションをとることの難しさです。認知症の方は、思いをうまく伝えられなかったり、相手の話を理解しにくいために、同じ質問を何度も繰り返すことがあります。こうしたやり取りは、介護や支援をする側にとって、大きなストレスとなることも少なくありません。しかし、認知症の方の思いや望みを汲み取り、適切に支援するためには、やはりコミュニケーションをうまくとれることが必要です。
そこで今回は、認知症の方と関わるうえで大切な7つのポイントをご紹介します。
伝えるときは、「あれ」「それ」などの曖昧な言葉は避け、短く・はっきり・具体的に話すようにしましょう。必要に応じて、身振りや手振り(ジャスチャー)を加えることで、さらに伝わりやすくなります。
焦らせたり、答えを急かしたりすると、不安や混乱を招いてしまいます。ゆっくりとした話し方を心がけましょう。穏やかに目を見て話しかけることで、相手も落ち着いて対応しやすくなります。
私たちは難聴の方と話すとき、その方の状況に合わせて声の大きさや話し方を工夫しています。同じように、認知症の方が忘れてしまったことを責めたり、無理に覚えることを求めたりせずに、その方の障害を補うようにサポートすることが大切です。必要なことは繰り返し説明をしたり、紙に書いて提示するなどの工夫をしましょう。
「大丈夫だよ」、「一緒にやろう」とさりげなく手助けすることによって、認知症の方は安心感をもつことができます。
これまでの暮らしや経験(趣味、仕事、家族との思い出など)、その方が好きな話題を会話や関わりに取り入れると、スムーズなコミュニケーションができるきっかけになります。認知症になっても、その人のこれまでの人生や経験、そして「自分らしさ」は失われるものではありません。その人らしさを尊重する関わりは、気持ちの安定にも繋がります。
「また忘れたの?」「さっき言ったでしょ」といった言葉は、知らず知らずのうちにご本人の心を傷つけてしまうことがあります。私たちが敬意をもって接することで、「自分は大切にされている」と感じることができ、よりよい関係性を築くことに繋がります。
たとえこちらが言っている言葉の意味が伝わらなくても、笑顔、優しい声かけ、手を握るといったスキンシップは、感情を伝える大切な手段になります。また、認知症が進行して言葉で思いを伝えることが難しくなっても、うれしい、楽しいなどの「感情そのもの」は比較的長く保たれるといわれています。認知症の方が安心し、心地よい感情を抱けるような関わりを心がけましょう。
介護や支援を担う人が無理をしすぎてしまうと、心も体も疲れてしまいます。認知症の方の介護や支援を担う方は、「がんばりすぎない」、「抱え込まない」、「弱音を吐いてもいい」、「比べない」ことが必要です。自分自身を大切にすることによって、心の余裕が生まれて、認知症の方に対するやさしさにも繋がっていきます。
認知症の方と関わるには、特別な知識や技術以上に、相手を理解しようとする姿勢と、寄り添う気持ちが大切です。一人で抱え込まず、迷ったときや困ったときは、医療機関や地域の支援機関にご相談ください。当センターでも、認知症に関するご相談を受け付けています。どうぞお気軽にお問合せください。