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以前はたばこを吸っていましたが、どんな病気になりやすいでしょうか?

1.病気の原因とは?

内科の診察室で、「あなたは、〇〇〇〇という病気です」と説明すると、多くの方は、「何が原因でそのような病気になったのですか?」と尋ねられます。その病気になった原因はわからないことが大部分ですので、過去のことは考えないで、次の治療を前向きに考えてください」と患者さんを励ますようにしています。呼吸器内科の診察室で、呼吸器の病名を説明しますと、「やはりたばこを吸っていたのが原因ですか?」「私はたばこを吸ったことがないのになぜでしょうか?」と言われる事がしばしばあります。このように、呼吸器系の健康に関して、以前たばこを吸っていたか?という喫煙歴は大きなインパクトを持っています。

2.たばことがんについて

たばこを吸っている人と、吸っていない人を比べると、肺がん以外の多くの臓器のがん、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害のリスクが高くなり、これらの病気による死亡率が増加することが知られています。たばことの関係が科学的に明らかにされているがんのリストをみますと、口腔、鼻咽頭、副鼻腔、喉頭、肺、食道、胃、膵臓、大腸、肝臓、腎臓、尿管、膀胱、子宮頚部、卵巣、骨髄性白血病等が挙げられており、どうしてこのがんがたばこと関連があるのかについては、医師である我々が考えてもその因果関係が理解できないというものも少なくありません。

たばこには多くの発がん物質が含まれています。市販されている紙巻きたばこには、ニコチンとタールの量が明記されています。タールは代表的な発がん物質ですので、たばこに含まれる発がん物質の代表として、タールの量が記載されています。一方、ニコチンは、たばこ依存性に関する指標とも言うことができるため、ニコチンの量が多いとたばこを吸いたくなる、すなわちやめるのが難しくなると考えられるわけです。

タールをはじめとする発がん物質はたばこの煙とともに吸い込まれて肺に到達します。このため、たばこともっとも密接に関連しているがんは、肺がんであることは容易に理解できるでしょう。たばこを吸わない人に比べて、たばこを吸う人はおよそ4倍肺がんになりやすいと考えられています。肺がん以外の全てのがんでも、たばこを吸っている人は、1.5倍ほどがんになりやすいと言われています。

3.肺がんについて

肺がんは、顕微鏡で組織を見て、主に4つの型に分類します。腺がん(50〜60%)、扁平上皮がん(25〜30%)、大細胞がん(約5%)、小細胞がんの4つですが、前3者をまとめて非小細胞肺癌と呼ぶこともあります。たばこが関連している肺がんは、扁平上皮がんであり、これは、ヘビースモーカーの男性に多く、かつては喫煙者におけるがんの代表でしたが、現在は喫煙率の低下に伴い、減少傾向にあります。

もっとも多い肺腺がんは、検診などのスクリーニングで発見され、外科的な手術で治ることも多いのですが、この場合には喫煙歴がある人は少なく、たばことの関係を証明することは困難です。この場合、「タバコを吸うと肺がんになる」という事実が成立しません。多くの肺腺がんは、喫煙とは無関係です。このように肺がんとたばこは1対1の関係ではありませんので、なかなか、単純には理解しにくいのです。

また、本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞されたように、がん免疫療法の発展から新しい薬剤が登場したことも含めて、近年肺がんに関わる遺伝子をめぐる研究の進歩で、その治療成績は著しく改善しています。かりに肺がんと診断名を告げられた場合にも、希望をもって治療に取り組んでください。

4.喫煙に関連した呼吸器疾患について

たばこと関連した呼吸器疾患を表に示しました。たばことの関係では、肺がんに比べて慢性閉塞性肺疾患(COPD)という病気の方がはるかに強い関係であると考えられています。現在COPDは、有害物質を長期に肺の中に吸い込んでしまうことによって生じるとされており、海外ではバイオマスなどたばこの煙以外の原因も報告されていますが、わが国では長期間の喫煙がただ一つ明確な原因となっています。逆に、喫煙歴が確認されなければ、COPDの診断には疑問が生じ、他の病気を考慮しなければなりません。

胸部X線写真で両側に網状の陰影が広がっている所見があり、間質性肺炎の疑いでは?と指摘されることがあります。間質性肺炎とは、一連の病気のグループの総称であり、間質性肺炎のグループの中には、難病も含まれており、正確な診断とその診断に基づく治療が必要です。通常「肺炎」とは、細菌やウイルスに感染して肺の中に炎症をおこす病気ですが、一般的な「肺炎」と「間質性肺炎」は異なる病気です。この間質性肺炎の中には、喫煙に起因するタイプの病気があります。呼吸細気管支関連間質性肺疾患や剥離性間質性肺炎などがこれに該当しますが、頻度は稀です。

ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis 、LCH)と呼ばれる稀な病気があります。小児におこるレテラー・ジーべ病やハンド・シューラー・クリスチャン病、さらに大人に多い好酸球性肉芽腫症を含む病気です。ランゲルハンス細胞は、白血球の一種の組織球に属するとされていますが、何らかの刺激がきっかけになって異常な増殖が起こると、この病気になります。成人では、肺にだけ好酸球性肉芽腫症が起こることをごく稀に経験します。これは、理由は不明ですが、ほとんど全てが喫煙者です。比較的急速に肺内に多数の好酸球が入り広がって発症する急性好酸球性肺炎も、喫煙が原因となることが報告されています。

ここに述べた病名は、ほとんど紙巻きたばこの喫煙に関連したものです。いわゆる電子たばこが、どのような呼吸器疾患の原因となりえるかはまだ十分にわかっていません。最近電子タバコの使用後、急速に呼吸不全を起こす器質化肺炎のケースが少しずつ報告されるようになったので、注意が必要です。

5.COPDについて

COPDとは、chronic obstructive pulmonary diseaseの略語で、前にも書きましたが日本語では慢性閉塞性肺疾患と呼びます。以前には、肺気腫や慢性気管支炎という病名も使用されてきましたが、様々な病名が使用されるのは好ましくないため、わが国でも、この病気をCOPD(シーオーピーディ)という病名で統一して呼ぶように勧められています。COPDは、北米では死亡原因の第3位を占め、社会的にも大きな問題となっています。

COPDは、肺機能検査(スパイロ検査)(図1)で1秒率または1秒量が低下することで診断されます。したがって、肺機能検査を実施しないとCOPDとは診断できません。肺機能検査というと特殊な検査のような印象をもたれるかもしれませんが、きわめて簡単で数分で終わります。1秒率(最初の1秒間にはき出す空気の量の比)が70%を切る場合、閉塞性障害と呼ばれCOPDの診断の根拠となります。

前にも書きましたが長期間の喫煙が、唯一明確なCOPDの原因であり、逆に大量喫煙者の10~15%が将来COPDになると考えられています。たばこを習慣的に吸うようになってからCOPDが発症するまでには、20~30年かかると考えられています。わが国でも、第2次大戦後の経済成長とともに喫煙量が増加し、COPDの患者さんが増えてきました(図2)。現在では、喫煙率は低下していますが、まだCOPDの患者さんは増えているのが現状です。

わが国で行われた病気の人の数を推定する研究では、40歳以上の8.5%にあたる520万人がCOPDであると試算されています。世界中でCOPDが正しく診断されておらず見逃されているという批判があり、これは簡単な肺機能検査をきちんと実施しないからであると考えられています。したがって、呼吸器内科の外来ではできるだけたくさんの方に肺機能検査を実施するように努めています。

スパイロ検査:1.鼻をクリップでつまみ、筒をくわえる。2.数回普通に呼吸をする。3.かけ声に合わせて最大限に吸えるだけたくさんの息を吸い込む。4.できるだけ速いスピードで吸った息を吐ききる。

図1. 肺機能検査(スパイロ検査)

たばこと関連した呼吸器疾患

 

図2. 日本における喫煙量の増加とCOPD死亡数の増加
(泉孝英編, 西村浩一編集協力. COPD Chronic Obstructive Pulmonary Disease 慢性閉塞性肺疾患Q&A 改訂版,
p.34, 医薬ジャーナル社, 大阪, 2000. から改変して引用)

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