ホーム > 病院 > もの忘れセンター > ニュース&トピックス > リポポリサッカライド(細菌の菌体成分)と軽度認知障害との関連を発見しました
2022年2月25日
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
学校法人久留米大学
学校法人神戸大学
学校法人東北大学
株式会社テクノスルガ・ラボ
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)で研究を進めてきた佐治直樹もの忘れセンター副センター長が、久留米大学、神戸大学、東北大学、株式会社テクノスルガ・ラボと協力して、血液中のリポポリサッカライド(グラム陰性桿菌の菌体成分)が軽度認知障害において高値を示すことを発見しました。この研究は、同センターで実施している腸内細菌と認知症に関する研究の一環で実施され、リポポリサッカライドは腸内細菌の代謝産物と関係することもわかりました。
私達は、もの忘れ外来で腸内細菌と認知症との関係を研究しています。
リポポリサッカライド(LPS)は、細菌の菌体成分で炎症の原因になります。
今回、血液中のLPS濃度、腸内細菌や認知機能との関係を調査しました。
血液中のLPS濃度は、軽度認知障害において有意に高値を示しました。
血液中のLPS濃度は、腸内細菌の代謝産物濃度とも関連しました。
魚介類の摂取が多い人は血液中のLPS濃度が低値でした。
血液中のLPS濃度は、軽度認知障害の指標になるかもしれません
本研究は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費:課題番号20K07861)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターの「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(異分野融合発展研究)、公益財団法人ダノン健康栄養財団、公益財団法人本庄国際奨学財団の支援のもと実施され、その研究成果は科学雑誌Journal of Alzheimer's Diseaseに2022年2月22日にオンライン版で公開されました。
リポポリサッカライド(Lipopolysaccharides: LPS)は、グラム陰性桿菌の菌体成分で炎症性サイトカインの放出を促進します(炎症を悪化させます)。また、LPSは認知症の危険因子であるアミロイドβの産生やタウ蛋白のリン酸化に関与する可能性も指摘されています。今回の研究では、血液中のLPS濃度と腸内細菌、認知機能との関連について調査しました。
研究チームは、国立長寿医療研究センターもの忘れ外来を受診した方を対象に認知機能検査や食品摂取アンケート(東北大学)などを実施し、臨床情報と便サンプルをバイオバンクに収集しました(図1)。便サンプルの解析では、T-RFLP法で腸内細菌叢のプロファイルを解析し、代謝産物の濃度も測定しました(株式会社テクノスルガ・ラボ)。凍結保存されていた血漿検体を用いて、LPS濃度も測定しました(神戸大学)。血漿LPS濃度、腸内細菌の代謝産物、認知機能との関連を統計学的に分析しました(久留米大学)。127人を解析した結果、認知機能が健常な人と比較して、認知機能障害がある人では、血漿LPS濃度が高値でした(図2)。また、認知症を発症していない群の検討では、軽度認知障害群は健常群と比較して血漿LPSやニューロフィラメントLなどの血液バイオマーカーが高値であり(表1)、多変量解析でも、血漿LPS高値は軽度認知障害で有意に高値を示していました(表2)。また、血漿LPS濃度が低い群では、魚介類を多く摂取している人の割合が多い傾向でした(LPS高値群vs.低値群:45% vs.70%, p = 0.027)。乳酸や酢酸など腸内細菌の代謝産物濃度もLPS低値群で高い傾向でした。これらは健康によい作用をもつ代謝産物と位置づけられています。今回の結果から、食事-(腸内)細菌-認知機能という連関が推測されます。
腸内細菌が認知症に関連するという知見はすでに報告されていますが、細菌に関連する血液バイオマーカーを調査した日本人解析データはありませんでした。腸内細菌やLPSが認知機能に関連する機序の解明は、認知症の新規予防法の糸口になるかもしれません
図1:腸内細菌研究の流れ
図2:認知機能で区分した血漿リポポリサッカライド濃度の比較
血漿リポポリサッカライド濃度の中央値:
認知機能健常4.0、軽度認知障害(MCI)4.7、認知症4.9 EU/mL、p = 0.016
軽度認知障害 (71人) |
認知機能健常 (23人) |
p | |
血漿LPS濃度, EU/mL | 4.66, 4.01–5.35 |
4.04, 3.49–4.41 |
0.007 |
血漿NfL濃度, pg/mL | 23.4, 17.6–33.3 | 18.2, 12.8–20.8 | <0.001 |
エンテロタイプI, n (%) | 37 (52.1) | 5 (21.7) | 0.015 |
LPS:リポポリサッカライド、NfL:ニューロフィラメントL(脳神経組織の障害指標)、
エンテロタイプI(腸内細菌にバクテロイデスの割合が多い群)
軽度認知障害の群では、認知機能健常の群よりも、血漿リポポリサッカライドやニューロフィラメントLなどの血液バイオマーカーが高値であり、エンテロタイプIの割合が多かった。
オッズ比 | 95% 信頼区間 | p | |
血漿LPS濃度 (1 EU/mL) | 2.09 | 1.14–3.84 | 0.007 |
血漿NfL濃度 (1 pg/mL) | 1.12 | 1.03–1.22 | 0.001 |
エンテロタイプI | 3.78 | 1.11–12.8 | 0.025 |
アポリポ蛋白E(ε4) | 4.22 | 0.88–20.1 | 0.050 |
MCIありを従属変数としたステップワイズロジスティック回帰分析
年齢、性別、高血圧や糖尿病などの危険因子、エンテロタイプなどで調整
多変量ロジスティック解析では、血漿リポポリサッカライドは年齢や性別など他の関連因子と独立して、1EU/ml上昇する毎にMCI合併が約2倍多かった。
国立長寿医療研究センターもの忘れセンターの研究紹介ページを参照ください。
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国立研究開発法人国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 副センター長 佐治直樹
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国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 総務係長 里村亮
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