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もの忘れセンターの佐治直樹 副センター長らが、腸内細菌が代謝する物質(代謝産物)と認知症が関連することを見出しました。特に糞便中の乳酸は認知症において低値を示しました。

ポイント

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
国立大学法人東北大学
学校法人久留米大学
株式会社テクノスルガ・ラボ

国⽴⻑寿医療研究センターの佐治直樹もの忘れセンター副センター⻑らは、もの忘れ外来を受診した患者さんの便検体を収集し、バイオバンクに保存された臨床情報を活⽤して腸内細菌と認知機能との関連を解析しました。この研究は、国⽴研究開発法⼈国⽴⻑寿医療研究センターの⻑寿医療研究開発費、⽇本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費:課題番号 20K07861)、国⽴研究開発法⼈農業・⾷品産業技術総合研究機構⽣物系特定産業技術研究⽀援センターの「知」の集積と活⽤の場による⾰新的技術創造促進事業(異分野融合発展研究)、公益財団法⼈ダノン健康栄養財団、公益財団法⼈本庄国際奨学財団の⽀援のもと実施され、その成果は英国の科学雑誌Scientific Reports に 2020年5⽉18⽇19時(⽇本時間)に発表されました。

研究の背景

認知症の病態解明や治療薬の開発などを⽬標に、2016年から国⽴⻑寿医療研究センターを中⼼にオレンジレジストリ研究(注)が開始され、認知症制圧のため様々な研究が展開されています。今回ご報告する腸内細菌の研究も、認知症に関する現在進⾏中の臨床研究です。近年、腸内細菌は消化管の病気や免疫などの⾝体システムに影響することがわかってきました。私達も、認知症の有無によって腸内細菌の組成(腸内細菌叢)が⼤きく変化するという知⾒を以前に発表しました。しかし、腸内細菌が認知機能にどう影響するか、については未解明でした。

(注)日本医療研究開発機構(AMED)が展開する認知症に関する多施設大規模レジストリ研究事業

今回の研究成果の概要

研究チームは、国⽴⻑寿医療研究センターもの忘れ外来を受診した患者さんに認知機能検査や頭部MRI 検査などを実施し、検便サンプルを同センター・バイオバンクに収集しました(図1)。T-RFLP 法で腸内細菌を解析し、液体クロマトグラフィーなどで代謝産物の濃度を測定しました(図2:株式会社テクノスルガ・ラボ)。そして、代謝産物と認知症との関連について統計学的に分析しました(久留⽶⼤学室⾕健太准教授)。その結果、アンモニアなどの代謝産物は認知症において有意に増加し(オッズ⽐ 1.6 倍)、乳酸は減少していました(オッズ⽐ 0.3 倍)。これらの関連は、多変量解析によって既知の危険因⼦を調整しても同様の傾向でした。これは、年齢などよく知られている認知症の危険因⼦とは独⽴して、糞便中のアンモニアや乳酸が認知症と関係することを⽰唆します。現在、東北⼤学の都築毅准教授と共同で、⾷事や栄養と腸内細菌の関連についても解析しています。

腸内細菌の研究の流れ図

図1:腸内細菌の研究の流れ

糞便の理化学分析の流れ

図2:腸内細菌の代謝産物の解析
液体クロマトグラフィーで有機酸、
ガスクロマトグラフィーで腐敗産物、
イオンクロマトグラフィーでアンモニアを測定する。

 

研究の意義

腸内細菌の代謝産物が認知機能に関連する、という新知⾒は認知症の機序解明に役⽴つ可能性があります。特に、認知症で糞便中の乳酸が低下していたという新しい発⾒は、新規予防法の開発への⽷⼝になるかもしれません。オレンジレジストリ研究は、認知症に関する研究基盤になっており、今後も、この研究基盤を利活⽤した研究の推進が期待されます。

今回の論文についての掲載情報

論文の図表

代謝産物の濃度が1SD上昇した場合のオッズ比(95%信頼区間)

図1. ⿊線が 1.0 より⼤きく表⽰されるほど認知症との関連が強く、
1.0 未満の範囲は認知症と関連するリスクが減少する。
アンモニアなど有機酸の⾼値は認知症と有意に関連した。
乳酸はオッズ⽐ 0.3 と有意に低値であった。

アンモニアと乳酸について、様々な多変量調整モデルによる認知症との関連の解析結果を⽰す図

図2.アンモニア(A)と乳酸(B)について、
様々な多変量調整モデルによる認知症との関連の解析結果を⽰す。
多変量調整でも、アンモニア⾼値は認知症と有意な関連を⽰し、
乳酸⾼値は認知症と関連するリスクが減少することが⽰された。

 

腸内細菌叢(腸内フローラ)についての背景

腸内フローラの年齢による変化

(腸内フローラの年齢による変化)

腸内細菌の代謝と疾病

(腸内細菌の代謝と疾病)
出典:腸内フローラと健康
伊藤喜久治(東京大学大学院能楽生命科学研究科)

 

補足資料

全国展開されている認知症関連登録追跡システム(オレンジレジストリ)

全国展開されている認知症関連登録追跡システム
(オレンジレジストリ)

新オレンジプラン7本の柱に対応した、オレンジレジストリの基盤と基礎・臨床・社会学的研究

新オレンジプラン7本の柱に対応した、
オレンジレジストリの基礎と基礎・臨床・社会学的研究

 

論文情報

研究チームによる腸内細菌研究に関するこれまでの論文情報

Saji N, et al.
The relationship between the gut microbiome and mild cognitive impairment in patients without dementia: a cross-sectional study conducted in Japan. Sci Rep. 2019 Dec 18;9(1):19227.
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-55851-yこのリンクは別ウィンドウで開きます


Saji N, et al.
Proportional changes in the gut microbiome: a risk factor for cardiovascular disease and dementia? Hypertens Res. 2019 Jul;42(7):1090-1091.
URL:https://www.nature.com/articles/s41440-019-0218-6このリンクは別ウィンドウで開きます


Saji N, et al.
Analysis of the relationship between the gut microbiome and dementia: a cross- sectional study conducted in Japan. Sci Rep. 2019 Jan 30;9(1):1008.URL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-38218-7このリンクは別ウィンドウで開きます

 

オレンジレジストリ研究に関する論文情報

Saji N, et al.,
on behalf of the ORANGE investigators. ORANGE's challenge: developing wide- ranging dementia research in Japan. Lancet Neurol. 2016 Jun;15(7):661-662.
URL:https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(16)30009-6/fulltextこのリンクは別ウィンドウで開きます

腸内フローラ研究の流れについてのイラスト引⽤

 

問い合わせ先

この研究に関すること

〒474-8511 愛知県大府市森岡町7丁目430番地
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 副センター長  佐治直樹
Tel: 0562-46-2311(内線7940) Fax: 0562-46-8394  Email: sajink@ncgg.go.jp

報道に関すること

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 総務係長 里村亮
Tel: 0562-46-2311(内線4623) Fax:  0562-48-2373  Email: r-satomura@ncgg.go.jp

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