病院レター第112号 2024年9月1日
病理科医長 長谷川正規
大府市、東浦町を含め、東海市、阿久比町、知多市、半田市、刈谷市、名古屋市緑区、豊明市の地域連携の先生方におかれましては、ご紹介患者様を介しまして関係ができることをありがたく思っております。2017年9月に病院レターをお届けしてから、今号でちょうど7年となります。その間、病理学に関連するゲノム医療、分子標的薬に対するコンパニオン診断、whole slide imaging技術、遠隔診断、AI技術等は飛躍的に進歩・増大しています。日々up dateに努めております。
※本レターは病理診断の紹介のため、病理組織の画像を掲載しております。臓器等の画像が苦手な方は閲覧をご注意ください。
ほぼ全例画像撮影をしています。
当院は高齢者が多く、悪性腫瘍も多いです。
自動免疫染色装置が導入され病理報告書の反映までの時間短縮がなされました。
臨床所見とのdiscrepancyがある場合は特に注意する必要があり、採取されていない部位まで思いを回らせてコメントする必要があります。臨床医にできるだけ連絡をするように努めております。
種々の新規薬剤が登場し、関連した病理診断が必要です。
流行している病気に対する診断にも注意を払う必要があります。
等々、遺伝子診断、コンパニオン診断の項目は増える一方です。
遺伝子検査に関連して、肺生検で悪性が疑われる場合には一個一個別々のブロックにしています(技師さんのご尽力に深謝します)。
精度管理も重要で病理検査室では技師さんと共に種々の工夫をしています。
臓器固定時から診断は始まっています。検体切り出し業務は大変重要なステップで、マクロ観察や触診、またコンタミの防止に努めています。
切出し後検体を撮影台に移動してそのまま撮影できる半透明シートが市販されていますが、メジャー機能はありません。そこで、メジャー機能を兼ね備えた切出し補助シートを作製しました。当シートを使えば、切出し精度の向上が期待され、撮影後のサイズ計測が容易となります。ほとんどすべての臓器、内視鏡的粘膜切除材料などの小さな病変の切出しにも使用できます。切出し後撮影台への移動が容易です。ディスポですので、感染症対策やコンタミ対策にもなります。
ご自由にダウンロードして使用下さい。
拡大・縮小せず、100%で、A4サイズのOHPフィルムに印刷して下さい。モノクロレーザー用のOHPフィルムをお勧めします。
切り出し補助シート・格子スケールでの切り出し例
組織マーキング液:目薬ケースに入れて使用
アルミホイルで遮光しています
検体を以下の染色液でマーキングします。
従来の顔料系マーカーは細かい“石“を含有し(顔料はファンデーションと同じくタルク [滑石という石を粉末にしたもの] が主成分)、薄切時に邪魔となり得ますが、当染色液では邪魔になりません。浸透性に優れ、安価であります。スライドガラスでの観察でアルシアンブルーとムチカルミンは観察可能で、包埋時の順番間違いを指摘できます。アルシアンブルー(青色)とムチカルミン(紫色)は凍結切片でも視認でき、小さい検体を複数入れることができます(凍結切片作製の薄切時に邪魔になりません)。ルシアンブルー(青色)とムチカルミン(紫色)は永久標本でも視認でき、順番の確認ができます。
(アルシアンブルー液による組織マーキングは碧南市民病院・病理診断科にご教授いただきました。)
ご自由に利用して下さい。染色液の順番も各施設で自由に設定して下さい。
によるマーキングのマクロ像
アルシアンブルーでマーキングした
HE 染色像(青い部分)
ケルンエヒトロートでマーキングした
HE 染色像
ムチカルミンでマーキングした
HE 染色像(赤色矢印)
3号針用の中型ホッチキスを使用。ホッチキスのタッキング機能を利用(タッカーとして使用)。ホッチキスは水平に開くものを使用して下さい。
針はNo.3もしくはNo.35(米国・欧州規格)がよいです。
高さのある検体にも使用できます。針刺し事故の危険がありません。
裏面は固定が悪いので、ゴム板との間にキムタオルを挟んであります。ホッチキスの針の片方は検体にかけない様にタッキングします。タッキング後に注入固定し、ホルマリン槽に入れます。
切り出しの済んだ臓器を整然と保存する方法です。大きい検体の場合はメッシュで覆ってホッチキスで綴じて下さい。
元の形のまま保存でき、再切り出しが簡易です。
キムタオルにタッキングではなく、通常のホッチキス機能を使って固定します。元の形のまま保存でき、再切り出しが簡易です。裏側(肝床・漿膜面側)をアルシアンブルーでマーキングしています。
キムタオルに切り出し後の臓器をホッチキスで固定
表側アルシアンブルー、
裏側ムチカルミンでマーキングしています。
専用袋でホルマリン液とともに保存。
以上、散文となりましたがご容赦下さい。
長寿医療研究センター病院レター第112号をお届けいたします。
病理診断には 、本稿でも触れられているように病理組織診断、細胞診断、加えて病理部門の重要な仕事として病理解剖があり、また定期的に症例検討会を行って教育研修の一翼を担っています。
一方、がんに対する医療では、手術療法、放射線療法および薬物療法が主要な治療とされています。薬物療法に用いられる薬には、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など作用の異なるさまざまな種類があります。がん細胞では、変化が起こった遺伝子の情報をもとにして、通常とは異なる働きを持ったタンパク質が作られます。 この通常とは異なる働きを持ったタンパク質を標的として、その働きを妨げ、がん細胞に選択的に作用するのが「分子標的薬」です。
標的とする通常とは異なる働きを持ったタンパク質は、変換した遺伝子によって作られるため、分子標的薬を使用する場合、がん細胞の中に対応する遺伝子の変化があるかどうかを調べなければなりません。
このような検査は「コンパニオン診断」とよばれており、病理組織を使って変化した遺伝子を調べるため、病理部門の重要な仕事の一つとなっています。
分子標的薬とコンパニオン診断は現在、がんの治療効果を大きく向上させており、今後もさらなる開発が期待されています。
病院長 近藤和泉