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病理診断科のご紹介

病院レター第70号 2017年9月20日

病理科医長 長谷川正規

当院の病理医として本年2月1日に着任いたしました。6月20日に関係の方々のご尽力により「病理診断科」として診療標榜しました。地域連携の先生方におかれましては、ご紹介患者様を介して関係ができることをありがたく思っております。よろしくお願いいたします。

1.病理学とは

 病理学(pathology)は、組織学(histology)とともに形態学(morphology)の範疇に含まれ、組織病理学(histopathology)とほぼ同義であり、正常組織からどのような変化を来しているかをミクロ形態から追及する学問です。しかしながら生理機能的領域については不得手です。例えば、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位を三徴とするKartagener症候群の病理学的確定診断は不可能です。繊毛運動機能障害が病気の本質であり、顕微鏡観察では、繊毛の存在は指摘できても、生体内でfunctionしていたか否かは解らないからです。標本との出会いは一期一会であり、何故そのような形をしているのか、どのような役割があるのか、いかなる経過を辿ってこのような形態に至ったのか等々、レンズを通して考えています。

2.診療標榜科としての病理診断科

 平成20年2月27日付政令第36号官報により定められた新しい診療標榜科です。当院では、7月から病理診断管理加算Iの施設認定を受け、より精度の高い病理診断を心がけています。

3.病理診断科の現状とこれから

 病理医1人、細胞検査士(臨床検査技師)2人体制です。
病理組織診断、細胞診断、術中迅速病理診断、病理解剖、CPC (clinico-pathological conference)が主な業務です。当院においては、研究業務も重要です。
当院の病理組織検体数は約1500件/年、細胞診検体数約1500件/年で、微増傾向にあります。

 個々の症例の免疫染色による解析枚数が急増し、また判定項目も多くなってきています。HER2, EGFR, ALK, PD-L1等のコンパニオン診断もあり、項目は増える一方です。またcriteriaの改定による判定項目の増加もあります。

例①

乳癌において、ER+, PgR+, HER2遺伝子増幅なしの場合、 MIB1 rate 14%以上で、HER2 negative luminal B と分類(従来はER+, PgR+, HER2増幅ありの場合に luminal Bと分類されていた)(MIB1 rateは500個ほどの細胞をカウントし陽性率を算出します)

例②

化学療法の効果判定:腫瘍の壊死率(面積比)
従来の治療薬を、発生母体の異なる臓器由来の腫瘍に対して行うトランスレーショナルメディシンが進んでおり、そのコンパニオン診断も今後増加すると予測されます。また、指定難病の診断criteriaに病理所見が含まれることも増えています。

例③

全身性アミロイドーシス(指定難病28番):アミロイド染色(congo red染色・DFS染色等)、L
κLλamyloid component A, transthyretinの免疫染色

例④

シェーグレン症候群(指定難病53番)での下口唇小唾液腺生検:導管周囲の1 focus 50個以上のリンパ球浸潤

例⑤

IgG4関連疾患(指定難病300番):IgG4/IgG≧40%かつIgG4陽性細胞>10個/HPF

例⑥

好酸球性副鼻腔炎(指定難病306番):好酸球数≧70個/3HPF平均
(厚生労働省のホームページに指定難病病名一覧表が公開されており、現在330番まであります)

以上のように、検体数以上の仕事量となっています。

 病理検体をご提出する際は、生理機能的領域を含め、詳細な情報を必要としますので、ご記載のほどよろしくお願いいたします。また、患者様ご紹介時、「他院標本診断」として病理診断を受け付けていますので、病理報告書及び病理標本を紹介状に合わせて入れていただきますと大変ありがたいです。「他院標本診断」は、画像として当院に保存できること、その画像が迅速診断時や再発時の参考になること(同じ腫瘍においても、個々の症例により形態は異なります)、余分な検査を減らせる可能性があること、病理医の複数チェックにより精度を上げることができること等、患者様のメリットも大きいと考えられます。

4.組織病理学の世界

①着任早々に提出された80代男性の大腸腺腫EMR検体。偶発的に日本住血吸虫変性石灰化虫卵が観察された。(左上)HE染色では黒褐色調を呈し、(右上)Azan染色で卵殻赤色、内部やや青色、(左下)Kossa染色で褐色調にカルシウムが染色された。抗酸菌を染めるZiehl-Neelsen染色(右下)にて卵殻(一部内部も)紅色に染色されている。

②(左上)肺HE染色:肺炎球菌(双球菌)。(右上)大腸HE染色:大腸璧における劇症型溶血性連鎖球菌感染症(A群溶血性レンサ球菌:Streptococcus pyogenes). (左下)双球菌の増殖様式。(右下)レンサ球菌の増殖様式。

③(左上)胸水papanicolaou染色:アスベスト小体。透明針状のアスベストに鉄を含む蛋白が取り巻いている。(右上)本年7月下旬に作成された標本内に混入していたコウモリの毛。つくしの茎に似た独特の形状をなす。( 左下) 喀痰細胞診papanicolaou染色:シャルコー・ライデン結晶。(右下)喀痰細胞診papanicolaou染色:クルシュマン螺旋体。

④(左上)子宮膣部綿棒擦過papanicolaou染色:トリコモナス原虫。(右上)喀痰細胞診papanicolaou染色微分干渉像:クリプトコッカス(酵母様真菌)。(左下)乳癌細胞HER2 DISH:赤いドットが17番染色体セントロメア、黒いドットがHER2遺伝子。(右下)カポジ肉腫HHV-8免疫染色:核内のPML bodyHHV-8陽性。

⑤(左上)肺Grocott染色:ムコール。菌糸内に隔壁観察されず、分岐角度は鈍角。(右上) 肺Grocott染色:アスペルギルス。菌糸内に隔壁が観察され、分岐角度は鋭角。(左下)胃生検Giemsa染色: ヘリコバクター・ハイルマニ(Helicobacter Heilmannii)(長崎大学・尹漢勝先生からお借りしました)。(右下) 胃生検HE染色: ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacterpylori)

⑥(左上)大腸生検HE染色:(inset下)腸管スピロヘータ(Brachyspira aalborgi)、(inset上)正常陰窩上皮の刷子縁。(右上)大腸HE染色:赤痢アメーバ。赤血球貪食像が観察される。病原性赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)。(左下) 大腸HE染色:サイトメガロウイルス感染症における核内封入体。(右下)大脳・捺印HE染色:トキソプラズマ嚢子。嚢子内に多数のブラディゾイド(嚢子内虫体)をみる。

5.おわりに

この場をお借りして拙著の紹介をさせてください。
長谷川正規著 創元社 2015年4月21日 「レンチキュラーレンズで見る 3D組織病理図鑑 (3DLenticular Visual Guide of Human Histopathology)このリンクは別ウィンドウで開きます
三省堂、紀伊国屋書店、ジュンク堂等の店頭にてもお買い求めできますが、アマゾン、楽天、honto、7 net shoppingにおいても購入可能です。

  • ※「バカの壁」の著者であります養老孟司先生の推薦をいただいております。
  • ※創元社は1892年創業の大阪の老舗出版社で、川端康成「雪国」が有名です。最近では、「世界で一番美しい元素図鑑」など科学分野にも力を入れています。

長寿医療研究センター病院レター第70号をお届けいたします。

 空席が続いていました病理に待望の常勤医師として、長谷川先生が2月に着任されました。これによって、当センターのパワーは相当アップしました。剖検数も月1に近くこなして下さり、CPCでの熱心な解説、何よりも術中迅速など直接相談できる病理医がいてくれるのは、本当にありがたいです。
 私個人もサルコペニア研究での筋肉病理についてカンファレンスに参加して下さることに感謝しております。そう思いながら、今回の病院レターを読んでいると、病理の写真が美的センスに溢れて、芸術作品のように綺麗なことに気づきました。最後に紹介された表面・割面を染色した3次元・レンチキュラーレンズでリアルに表現した画像集もおそらく同様で、手に取ってみたいと思わせます。

病院長 原田敦