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地域医療連携とトランジショナル・ケア

病院レター第89号 2020年11月20日 

在宅医療・地域医療連携推進部長
三浦久幸

 地域の在宅医療支援の活動として、これまで在宅医療支援病棟(2009年~2018年)を中心に活動してきましたが、2016年以降は主にトランジショナル・ケアによる地域医療支援に活動をシフトしております。日頃、このケアーチームの活動にご理解・ご協力を頂いておりますこと篤くお礼を申し上げます。

1.トランジショナル・ケア

 トランジショナル(移行期)・ケアは米国や英国で始まりましたが、米国ではメディケア、いわゆる診療報酬下で行われています。2003年の米国老年医学会の定義によりますと、「トランジショナル・ケアとは、患者が異なる場所(施設等)を移動したり、同じ施設内であっても、医療・ケアのレベルが異なる場所に移動した際に、医療・ケアの調整や継続性が確保されるように計画された一連の活動のこと」とされています。つまり、療養環境が変わる際に医療・ケアの質が落ちないように対応することが中心的活動になります。米国では主に、病院から患者が退院する際に病院の医師、看護師および専門職(薬剤、栄養、リハビリ等)で退院後の患者を訪問し、複雑な慢性状態に対するマネジメントを行うことで、患者のQOLを高めようとする試みです。米国ではColemanモデル(表1)を標準に退院後の患者の入院期間短縮と再入院の減少効果を認めています。

表1 Colemanモデル

医師、看護師および専門職(薬剤、栄養、リハビリ等)で退院後の患者を訪問し、複雑な慢性状態に対するマネジメントを行う。
医師・看護師と患者の病態に応じた薬剤、栄養等の職種がチームとなり、(患者の状態にもよるが)3カ月以内の訪問を行う。遅くとも退院後4ヶ月目以降は原則、かかりつけ医へバトンタッチをする。トランジショナル・ケア・チームは、治療と予防的なケアを包括的に行うことを通して患者のQOLを高めることを支援する。

トランジショナル・ケア・チーム(TCT)の主な業務

  1. 薬のマネジメントの確認
  2. Red Flag(このような症状が出たら病院に連絡する必要があるような危険信号)の指導・教育
  3. フォローアップ・アポイントメントあるいは主治医・かかりつけ医との連絡支援、確認
  4. 患者・家族が、病気を管理する能力をつけるための健康管理手帳の記録の奨励

 2.トランジショナル・ケア・チームの活動

 海外で行われているトランジショナル・ケアをそのままの形で国内に導入するのはとても無理でしたが、院内での協議の結果、チームの主目的は「退院後の患者の複雑な病態にうまく対応し、よい状態で地域医療チームに引き継ぐ。その結果として再入院を減らす。」としました。そして、当院では独自のトランジショナル・ケアのプログラムを作成(図1)し、2016年3月より活動を開始いたしました。

図1 トランジショナル(移行期)・ケア・プログラム

 主な対象者は新規の在宅医療導入患者、再入院リスクの高い在宅患者、退院後認知等の理由で病院によるサポートが必要な患者としています。現在、チームは2名のナースが中心で、入院中の患者の病態をアセスメントし、退院後のサポート内容を決定。必要に応じ、医師や病棟の受け持ち看護師、臨床工学士等他の職種が同行する仕組みを取っています。退院後3ヶ月までの活動とし、地域の医療チームに引き継ぐこととしていますが、「退院後訪問指導」としてこのチームの活動が実質的に診療報酬で認められたこともあり、現在、主に退院後1ヶ月以内に集中的に在宅に訪問を行っています。
 かかりつけ医の先生方、訪問看護ステーションスタッフのご協力で、2016年の訪問回数80回から2019年には438回と増加してします。関わった方の自宅看取り率も高く(約50%)、地域の先生方との協働により、ご本人・ご家族が希望する人生の最終段階を迎えることができる可能性を示していると思います。一方、退院後、1ヶ月以内の再入院(予定した再入院含む)が20%前後と高く、サポート内容のさらなる改善が必要と考え、入院時のアセスメント内容の見直し等、退院直後の再入院を防ぐべく、検討を進めています。

3.地域医療連携推進、在宅登録医制度の継続

 2018年8月に在宅医療支援病棟が閉棟になりましたが、在宅医療の登録医、登録患者の仕組みは継続しております。これまでの専門病棟こそありませんが、病院全体で、在宅医療の登録患者さんを受け入れる体制を続けております。特に当院の地域包括ケア病棟が、入院対応いたします。地域医療連携室では、各病棟に1名以上の退院支援スタッフを配置し、患者さん、ご家族の意向に沿った、療養先の支援をおこなっています。特に患者さん本人とご家族双方の意向を尊重した意思決定支援を心がけております。人生の最終段階の医療についての意向調査など、アドバンス・ケア・プランニングをこの活動内容に取り入れています。

4.地域包括ケア、在宅医療・介護連携推進

 在宅医療・地域医療推進部では、地域医療連携室の活動以外に、地域包括ケアや在宅医療・地域医療連携にかかわる人材の教育など、人材育成を行っております。現在、愛知県の「地域包括ケア体制整備事業」で市町村担当者の相談窓口を設置しております。また、情報収集型研修会などにより、地域包括ケア担当者の教育を行っています。
 2018年からは愛知県の「人生の最終段階における医療体制整備事業」、通称「あいちACPプロジェクト」で愛知県下の医療・介護専門職向けに意思決定支援スキルのための研修、特にアドバンス・ケア・プランニングの研修を行っています。

5.おわりに

 超高齢社会となり、今後さらに在宅医療の需要が増え、在宅療養支援を必要とする患者・利用者が増えてくると予想されます。当院のトランジショナル・ケアの活動は、未だ道半ばですが、今後、地域かかりつけ医、訪問看護師、ケアマネジャーの方等とさらに連携を深め、患者のQOLを高める医療実践を行うことを目標としております。今後ともどうかご助力をお願いいたします。


長寿医療研究センター病院レター第89号をお届けいたします。

 高齢者の方は複数の疾患や病態を有していることが多く、ひとたび入院すると退院後も複雑でしかも複数の障害を抱え生活をしていかなくてはならないことがあります。そのいくつかは継続的な医学的管理を必要とすることも少なくありません。この10年間に病院の役割は急性期医療にシフトし、一方で在宅医療が推進されてきました。地域包括ケア病棟はある程度緩衝的な役割を果たしていますが、60日という限られた時間のなかでは限界もあります。トランジショナル・ケアチームはこのギャップを少しでも少なくし、ご家族の負担が過剰にならない範囲で住み慣れた家に帰してあげたいという気持ちから生まれました。
 今後も病院と在宅医療をつなぎ、その段差を解消する仕組みが必要と感じています。
 在宅医療を進めていただいているかかりつけ医の先生と、この仕組みを協同して運用していきたいと願っています。

病院長 鷲見幸彦