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認知症の原因となる脳腫瘍

病院レター第82号 2019年9月20日

脳神経外科医長
百田洋之

 認知症の多くは不可逆的な経過をとりますが、手術で治療可能な認知症もあることをご存知でしょうか。高齢者の脳腫瘍や水頭症、慢性硬膜下血腫は、認知機能の低下を主訴に受診される方も多く、脳神経外科では外科的治療で症状を改善させています。本レターでは、その中から脳腫瘍について、種類や特徴、最新の治療法につき、実際の症例を提示しながらご紹介致します。

1.髄膜腫

 原発性脳腫瘍の中では最も多い髄膜腫は、ほとんどが良性で、高齢者ほど有病率が高くなります。無症状で何十年も大きさの変わらない人もいますが、腫瘍の長径が年間1-2mmの速さで増大することが多いです。長径が3cmを越えると脳への圧迫が強くなり、麻痺などの症状が出やすいため、手術摘出を行います。

 写真は、認知症と歩行障害が進行した70代女性のMRIで、強い脳浮腫(FLAIR)と造影剤で濃染する腫瘍(T1-Gd, 黄三角)を認めます。腫瘍摘出術を行い、症状は回復、病理診断は異型性髄膜腫でした。

2.悪性リンパ腫

 悪性リンパ腫は血液の癌ですが、脳組織にも発生します。この腫瘍も高齢者に多く、60歳以上は予後不良とされますが、手術後に適切な薬物療法と放射線治療を行うことで、長期生存が可能になってきました。当センターでは、放射線治療を減量または省略し、強力な薬物療法(R-MPV療法1)を行うことで、認知機能やQOLを低下させない最新の治療法を用いています。

 写真は、急速に進行する認知症で発症した80代女性のMRIで、両側脳室周囲に白く造影される腫瘍(黄三角)を認めます。腫瘍生検術にて悪性リンパ腫の診断がつき、1回目の薬物療法で腫瘍は半減し、症状も改善しました。

3.膠芽腫

 膠芽腫は、原発性の悪性脳腫瘍の中では最も多く、やはり高齢者に多い腫瘍です。高齢者の予後は1年前後と非常に悪性の腫瘍ですが、治療法の発達により生存成績は改善してきています。手術で可能な限り摘出すること、手術後の放射線・薬物療法を適切に行うことが重要です。

 写真は、認知症で発症し痙攣発作で搬送されて来た70代の男性で、造影MRIで左前頭葉に嚢胞性の大きな腫瘍(黄三角)を認めます。手術摘出を行い、病理診断は膠芽腫でした。放射線・薬物療法により、症状は回復しました。

4.膠芽腫の新たな治療法

 膠芽腫の術後療法には、放射線と抗癌薬(テモゾロミド)を用いますが2、これらの治療にさらに電場療法(Tumor Treating Fields: TTF)を加えることで、生存期間を延長できることが海外で示されました3。日本でも2017年12月から、TTFを用いた治療が保険適用となり、当センターでも2018年からTTFを導入しています。

 写真はTTFの機器(右)と使用時の様子(中, 左)で、頭皮に電極シートを貼り、バッテリーを携帯して、日常生活を送りながら治療します。長時間電場をかけなければなりませんが、治療により生存期間を数ヵ月延ばすことができます。

5. おわりに

 認知症の中には、手術や薬物療法により症状を改善できる疾患が含まれますが、脳腫瘍はそのうちの1つであり、頭部画像検査を行うことで他疾患との鑑別が可能です。本レターでは、原発性の脳腫瘍のみご紹介しましたが、転移性の脳腫瘍でも同様の症状や画像所見を示します。当センターでは脳腫瘍に対して専門的な治療を行っておりますので、脳腫瘍を疑った場合は是非ご相談ください。

参考資料

  1. Morris PG, et al. J Clin Oncol. 2013. 31: 3971-3979.
  2. Stupp R, et al. N Eng J Med. 2005. 352: 987-996.
  3. Stupp R, et al. JAMA. 2015. 314: 2535-2543.

長寿医療研究センター病院レター第82号をお届けいたします。

 脳腫瘍というと、小児や20代までに多い疾患という印象をもたれる方もあるかもしれませんが、原発性脳腫瘍の60%は50代以降の発症です。脳腫瘍が緩徐に進行する場合や二次性のてんかんによる、一過性の意識レベル低下(複雑部分発作)では認知症との鑑別が問題になる例もみられます。脳腫瘍を診断することは、疑うことができれば、画像診断の進歩により比較的容易になりました。さらに百田先生が示されたように、脳腫瘍の治療も新しい、有効な治療法の開発が進んでおり、高齢者の脳腫瘍はあきらめるという時代ではなくなってきているように感じます。

病院長 鷲見幸彦