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修正型電気痙攣療法の導入のご案内

病院レター第78号 2019年1月15日

精神科医長 安野史彦

 このたび精神科にて、薬物治療への反応の乏しい、老年期うつ病患者の方を対象として、修正型電気痙攣療法を導入することになりましたので、ご案内させていただくとともに、老年期のうつ病について、簡易に解説させていただきます。
 ご高齢の方で、うつ状態は比較的、よくみられる症状のひとつです。近年、副作用の比較的少ない複数の抗うつ薬が使用できるようになり、薬物にたいする忍容性の低い、高齢者のうつ病についての治療がより安全かつ効果的に行えるようになりましたが、それでも、十分量の抗うつ薬が使用できない、あるいは、薬剤に対する反応性に乏しい患者さんがおられ、治療に難渋することが多くみられます。このような治療抵抗性の患者さんのうつ症状を大きく改善できる可能性のある治療方法が、修正型電気痙攣療法(modified electroconvulsive therapy:mECT)です。

図1.電気痙攣療法

1.ECTの歴史

 70年前にCerlettiらが精神疾患に対して、世界で初めての電気痙攣療法(electroconvulsive therapy: ECT)を実施して以来、高い効果が示されてきましたが、安全性や副作用の出現などに問題がありました。それに対する技術的な対応として、全身麻酔下で行う修正型電気痙攣療法(mECT)が施行されるようになり、高齢患者や身体合併症患者に対しても比較的安全にECTを行えるようになりました。また、定電流短パルス矩形波治療器が導入されることで、少ない通電量で痙攣を誘発できるため、せん妄や健忘などの副作用も減少したことで、ECTは世界中で行われるようになっています。日本でも、2002年に定電流短パルス矩形波治療器が正式に医療の中で使用できるようになり、mECTは、うつ病に対する効果的な治療法として普及しつつあります。

2.ECTの適応疾患

 mECTが適応となる疾患としては、一次的適応としてうつ病、躁うつ病および統合失調症があり、二次的適応としては、パーキンソン病、悪性症候群、強迫性障害、身体神経疾患に続発する気分障害、精神病性障害、気分障害に関連する慢性疼痛性障害があげられています。当センターでは,主たる対象を老齢のうつ病患者さんとし、二次的適応に該当する疾患については、複数の精神科医師が慎重に検討したうえで、現状の治療と比べてメリットが大きいと判断した場合に、mECTの施行を考えていきたいと思っています。

3.mECT施行における禁忌

 mECTの導入に関して、絶対的禁忌は存在しないとされていますが、相対的禁忌とされる以下の状態があげられています。

相対的禁忌

 当センターでは、これらの相対的禁忌がない患者さんを対象と考えています。

4.mECTの流れ (図2)

図2.電気痙攣療法施行の流れ図

1)同意と術前検査、mECTの開始の決定

 書面を用いた説明と同意書により、インフォームドコンセントを行います。同意取得後、血液検査、心電図、胸腹部レントゲン、頭部画像検査をはじめとする術前検査を行い、歯科治療の必要性、既往歴、家族歴など、一通りの情報を収集します。そのうえで複数の精神科医師が適応判断を行いmECT施行の決定を行います。

2)術前の準備

 当センターでは、週2回、月曜日と金曜日の午前中にmECT施行を予定しています。術中の嘔吐による誤嚥を防ぐために、施行前の0時より絶飲食とします。痙攣誘発を抑制することでECTの効果を下げる可能性のあるリチウム、ベンゾジアゼピン系薬剤、抗てんかん薬は可能であれば中止するなど処方調整も行います。mECTの直前に、バイタルサインの測定を行い、静脈ルートを確保したうえで、手術室へ移動します。

3)全身麻酔とmECTの施行

 mECTにあたっては、麻酔科医1名、精神科医2名、手術部看護師1名が協力して施行を行います。手術室へ入室後、患者に通電用、脳波用、心電図、筋電図電極を装着し、定電流短パルス矩形波治療器に連結します。装着完了後、麻酔科医により静脈麻酔薬及び筋弛緩薬の投与を行い、適切なタイミングで通電を開始します。十分な痙攣がえられたことを脳波と筋電図で確認します。痙攣後、覚醒が確認できた時点で、病棟へ移動します。

4)術後の管理

 病棟へ帰ってから、意識レベルを確認のうえ、ベッド上で安静とします。病棟移動時、15、30、60分後、バイタルサインの測定を行い、問題なければ、安静解除とします。

5.おわりに

 高齢者うつ病は高頻度に認められ、発症に複合的要素が絡むため診断治療が難しいうえに、薬物にたいする忍容性が低く、十分量の抗うつ薬が使用できない、あるいは、薬剤に対する反応性に乏しい場合があり、薬物療法のみでは対処が困難なケースがしばしばみられます。修正型電気痙攣療法の導入によって、そのような患者さんの治療可能性を高めることが期待できます。よろしくお願い申し上げます。


長寿医療研究センター病院レター第78号をお届けいたします。

 高齢になるに従って、うつ病の頻度は増えていきますが、高齢者のうつ病は典型的な症状を示さないことも多く、たとえばもの忘れが増えるといった症状のため、認知症と誤診されるケースもあります。当センターは認知症の専門的な医療機関として、認知症だけではなく、認知症のような症状を呈するうつ病の患者さんも多く診療しています。うつ病に対しては近年多くの薬剤の開発がなされては来ておりますが、薬物治療に難渋するケースもあります。そのような患者さんにとって修正電気痙攣療法は症状改善効果が期待できる治療法です。入院が必要ではありますが、当センターのスタッフが慎重に適応を判断し、治療を実施しますので、お困りの方は是非とも当センターへの受診をお勧めします。

病院長 荒井秀典