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泌尿器外科 ー最近の話題ー

病院レター第77号 2018年11月15日

泌尿器外科部医長 野宮正範

 泌尿器外科は、男性医師2名(吉田・野宮)と女性医師1名(西井)の計3名の泌尿器科学会専門医・指導医が外来・病棟・手術を担当しております。
 外来は火曜日を除き月曜日から金曜日まで、手術は主に火曜日と木曜日に行っております。患者さんの泌尿器外科外来受診理由としては、検尿異常や肉眼的血尿の自覚、排尿の問題、排尿痛や腰背部痛などが多いのですが、地域医療施設の先生方からのご紹介で受診する患者さんもたいへん増えている状況です。手術は、膀胱腫瘍に対する内視鏡手術が最も多く、次に前立腺悪性腫瘍手術、前立腺肥大症レーザー手術、尿路結石関連手術、腎・副腎腫瘍に対する腹腔鏡ならびに開腹手術、尿失禁関連手術、膀胱全摘回腸導管造設術などの順となり、これらの手術症例の多くが地域の先生方からのご紹介であり、この場をかりて感謝申し上げます。
 我々泌尿器外科一同、これからも地域の先生方との連携を深め、地域の医療に貢献してまいりたいと思っております。

泌尿器外科 医師紹介

  • 吉田正貴 泌尿器外科部長(手術・集中治療部長、副院長)
  • 野宮正範 泌尿器外科医長
  • 西井久枝 泌尿器外科医師

1.高齢者の下部尿路症状と生活習慣病

 頻尿、尿失禁、尿勢低下などの下部尿路症状(LUTS)を有する頻度は、男女共に加齢に伴って増加し、QOLを著しく低下させます。超高齢社会に直面している我が国においてLUTSの病態解明は急務であり、その予防や治療法の確立は健康寿命の延伸に寄与すると考えられています。これまで、LUTSは、男性では前立腺肥大症、女性では膀胱脱などの骨盤底障害、もしくは、脳梗塞・脳出血に代表される神経障害に関連づけられてきましたが、多くは原因が不明でした。しかし、近年、メタボリックシンドロームや生活習慣病とLUTSとの関連性が指摘され、加齢による血管内皮機能障害や動脈硬化に伴う骨盤内虚血(Pelvic ischemia)は、男女ともにLUTSの発症に関与し、膀胱機能障害の悪化にも影響を及ぼすと考えられています。また、生活習慣病は、前立腺虚血や自律神経系の活動亢進などを介して前立腺の増殖にも関与することが報告されています。さらに、高齢者は生活習慣病を含む複数の慢性疾患が併存しており、多剤服薬を特徴としています。この多剤服用も影響して、高齢者の排尿障害は複雑な病態を呈しています。当センターでは、加齢に伴う排尿機能の低下を研究し、患者さんや医療関係者に提供できるよう努力しています。高度先進的な治療法として、排尿障害に対する膀胱壁内注入療法や薬物療法に代わる次世代の治療法の開発にも取り組んでいます。また、排尿障害に対する新薬の治験も進行中です。

2.高齢者尿失禁とフレイルの関係

 老年症候群に含まれる尿失禁は高齢者によくみられる問題です。おむつ使用は70歳以降急激に増加し、在宅高齢者の43%が尿失禁を有し、26%が全尿失禁との報告もあります。また、尿失禁は高齢者の介護施設入所の重要な要因となり、認知症高齢者の約60%がおむつ使用や排泄介助が必要で、特別養護老人ホーム入所者では86%が尿失禁を有していると報告されています。また、尿失禁は、転倒、尿路感染、皮膚トラブルの要因となり、心理社会的影響や様々な機能低下に繋がると報告されております(図1)。最近では高齢者尿失禁とフレイルとの関連性が指摘され、尿失禁は高齢者および超高齢者のフレイルのマーカーである可能性を示唆する論文も散見されます(文献4)。
 一方で、フレイルによる身体機能低下、バランス/移動能力低下、認知機能低下は、尿失禁の原因にもなり得ます。我々は、これらの相互関係を明らかにし、例えば、高齢者尿失禁への直接的間接的な介入が、フレイルや介護状態への進展を防止もしくは緩徐にできるのか検討していく予定です。

図1.高齢者尿失禁はフレイルのマーカーである可能性

3.高齢者の排尿自立を目指して

 高齢社会に直面し、前立腺肥大症や排尿障害を有する患者は増えております。特に、高齢男性で認知症を伴う尿閉患者をよく経験します。尿閉に対しては、間歇的な導尿や一時的な膀胱留置カテーテルを必要としますが、導尿に際して協力が得られず、また膀胱留置カテーテルを自己抜去する症例もあり、排尿管理に難渋することがあります。当センターでは、前立腺肥大症患者に対しグリーンライトレーザーを用いた光選択的前立腺蒸散術(PVP:Photo-selective Vaporization of the Prostate)を行っております(図2)。この術式は、これまでの術式に比べ出血が少なく、術後の膀胱カテーテル留置期間を短縮でき、高齢者にも安全性が高いと考えております。我々はこれまでに排尿管理に苦慮した男性認知症尿閉患者に対し本術式を施行し、自排尿が可能となり導尿や膀胱留置カテーテルの必要ない状態に改善した症例を経験しております。本術式は、本人のみならず家族や介護者の負担を減らすことが可能と思われます。

図2.国立長寿医療研究センターでのPVPの実際

 最後に、当施設では泌尿器科医・看護師・リハビリテーション療法士から成り立つ排尿ケアチームを設立し、排尿自立のための包括的排尿ケアを行っております。また、排尿ケアに関わるすべての職種向けの排尿ケア講習会を定期的に開催し地域連携を図っています。先生方のご施設で排尿管理にお困りの患者さんがいらっしゃいましたら、是非ご相談いただければ幸いです。

参考文献

  1. 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン 日本泌尿器科学会編集 2017
  2. Yoshida M and Yamaguchi O. Detrusor Underactivity: The Current Concept of the Pathophysiology. LUTS, 6(3): 131-137, 2014.
  3. 野宮正範, 他. 加齢による下部尿機能の変化.Modern Physician 37(12): 1245-1248, 2017
  4. Berardelli M et al. Urinary incontinence in the elderly and in the oldest old: correlation with frailty and mortality. Rejuvenation Res, 16: 206-211, 2013
  5. 西井久枝, 他. 健康長寿を目指した高齢者排尿管理における多職種連携. 西日本泌尿器科, 80(5): 219-223, 2018.

長寿医療研究センター病院レター第77号をお届けいたします。

 加齢とともに日常生活機能が衰え、介護が必要な状況に陥ることが多くなってきます。日常生活機能の中には、歩く、食べる、着替える、入浴するなどとともに排泄があります。この中でもっとも衰えやすいのが排泄機能、特に尿の排泄に関する機能といわれています。尿が漏れたり、出にくくなったり、男女共通する問題です。この問題をいかに予防・治療していくかについて当センターの特色を踏まえて、野宮医師よりわかりやすく説明がなされています。高齢者特有の排尿機能に関する問題をチームで包括的に解決するだけではなく、最新の医療技術を用いて、がんの治療も行っています。泌尿器の医師としていずれも経験豊富な3名の医師により適切な治療・ケアを提供致しますので、是非とも気軽に受診してください。

病院長 荒井秀典