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家族性高コレステロール血症について

病院レター第66号 2017年1月20日

副院長 荒井秀典

 家族性高コレステロール血症(FHと略します)という遺伝疾患をご存じでしょうか?FHLDL受容体などの異常により血中LDLの代謝が遅延し、血中のLDLコレステロールが上昇することにより粥状動脈硬化病変が起こりやすく、冠動脈疾患を早期に合併する遺伝疾患ですが、その冠動脈疾患発症リスクは一般人口の約10から13倍といわれています。血中のLDLコレステロール濃度に依存して、冠動脈疾患の合併率が高くなりますが、他の危険因子が存在すると、冠動脈疾患のリスクはさらに高くなります。
 また、FHは優性遺伝形式をとるため、一人の患者さんが見つかると同じ家系内に数人のFH患者さんがいることになりますので、それらの患者さんを無症状のうちに治療を行うことにより、将来の冠動脈疾患の発症を予防することが可能となっています。また頻度についても約200人に1名とされており、遺伝疾患の中でも最も頻度が高く、実地診療で見逃されやすい疾患とされています。

1.FHの臨床的特徴とは?

 では、具体的な特徴は何でしょうか?まずは血中のLDLコレステロール値が高いことです。20歳代、30歳代で甲状腺機能低下症のような二次的に高脂血症を起こす病気がなく、LDLコレステロールが180mg/dlを超えている場合には、FHを強く疑います。40歳代以降でもLDLコレステロール200mg/dlを超えていれば可能性が高いでしょう。次の特徴はアキレス腱の肥厚です。多くの場合は視診、触診で肥厚の有無が分かりますが、疑わしい場合には足関節を直角にして側面からX線で撮影することでアキレス腱の肥厚が判定できます。詳しくは動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
年版をご覧ください。アキレス腱以外にも手、肘、膝関節の伸展部に黄色腫が認められることがあります。ただ、これらアキレス腱肥厚などの黄色腫の合併率は約70%といわれています。3つめは早発性冠動脈疾患やFHの家族歴です。現在の診断基準によると、

  1. 未治療時のLDLコレステロールが180mg/dl以上、
  2. アキレス腱肥厚など黄色腫の存在、
  3. 2親等以内の早発性冠動脈疾患やFHの家族歴、

の3つの基準のうち2つ以上満たしていれば、FHと診断できます。

2.FHにおける冠動脈疾患の合併

図1.日本人ヘテロFHにおける男女別動脈硬化性疾患合併率(文献1)

 Bujoらによる日本人ヘテロFH641名に関する調査においては、冠動脈疾患の合併が男性約35%、女性約12%でした(男性の平均年齢49歳、女性54歳)1)。脳卒中や末梢動脈疾患の合併は、いずれも男性で多い傾向がありましたが、3%未満と低い数字でした(図1)。従って、FHにおける主たる動脈硬化性疾患は冠動脈疾患とされています。本研究において、男性における冠動脈疾患の発症は30歳より増え始め、50歳で急増します。女性では、40歳から増え始めます(図2)。この報告は2004年の報告のため、スタチンなどによる強力なLDL低下治療が普及している現在では、FHヘテロ接合体における冠動脈疾患の発症は、男女とも10年以上遅くなっているといわれています。

図2.日本人へテロFHにおける男女別冠動脈疾患発症の累積発症率(文献1)

3.FHにおいて評価すべき危険因子

 FHにおいても評価すべき危険因子は、高トリグリセライド血症、低HDLコレステロール血症、冠動脈疾患の既往、糖尿病 (耐糖能異常を含む)、慢性腎臓病 (Chronic Kidney Disease: CKD)、非心原性脳梗塞や末梢動脈疾患(PAD)など冠動脈疾患以外の動脈硬化性疾患の既往、年齢・性別、高血圧、喫煙、第一度近親者における早発性冠動脈疾患の家族歴 (男性55歳未満・女性65歳未満) です。FH自体が極めて冠動脈疾患発症率の高い病態でので、糖尿病、高血圧、喫煙など介入可能な危険因子に関しては、できる限りの管理を行うことが望ましいと考えられます。これらの危険因子の管理を厳格に行ったうえで、LDLコレステロールの管理を厳格に行うことが求められています。

4.FHに対する治療方針

 FHと診断した場合には、専門医に紹介していただくことが望ましいのですが、現在の動脈硬化性疾患予防ガイドラインではLDLコレステロールを100mg/dl未満または未治療時の50%以上低下を目標とすることになっています。治療を開始する場合には、食事指導とともにスタチンを使って治療を行います。一般的にはストロングスタチンといわれているスタチンを最大量まで用いることが多いです。それでも目標値に達しない場合には、エゼチミブを追加することによりさらにLDLコレステロールが25%低下します。昨年、より強力なコレステロール低下薬が上市されました。それは、
PCSK9というコレステロール代謝に関わる分子の働きを抑制する抗体薬です。2週間に1回皮下注射をすることになりますが、LDLコレステロールをさらに60から70%低下させることができるとされています。このように様々な薬剤の使用により、重症の高LDLコレステロール血症を呈するFHであっても、治療ガイドラインが推奨するレベルまでLDLコレステロールを下げることが可能となってきました。

5.専門医に紹介すべきケース

 専門医に紹介すべきケースですが、まずFHが疑わしい場合にはご紹介いただいてもよいかと思います。FHに限らず、脂質異常症の治療に難渋する場合、特にトリグリセライドが著明に高い場合などはご紹介いただければ、適切な診断を行い、治療方針を決定して、各クリニックにおいて治療を継続していたくことも可能です。その他、薬物治療に全く反応しないケースなどもご紹介していただければと思います。

6.おわりに

 私は、愛知県では数少ない動脈硬化専門医ですので、脂質に関するご相談はどのようなケースでもお引き受けいたします。よろしくお願いいたします。

参考文献

  1. Bujo H, Takahashi K, Saito Y, Maruyama T, Yamashita S, Matsuzawa Y, et al. Clinical features of familial hypercholesterolemia in Japan in a database from 1996-1998 by the research committee of the ministry of health, labour and welfare of Japan. J Atheroscler Thromb. 2004;11(3):146-51.

長寿医療研究センター病院レター第66号をお届けいたします。

 今月の病院レターでは、日本動脈硬化学会の副理事長である荒井先生から、家族性コレステロール血症の背景、診断、危険因子、治療と予後についての詳細な説明をお届けしました。

 通常の遺伝疾患より予想以上に頻度が高く、生下時より高LDL-C血症が持続するため、30歳代以降で、特に男性における虚血性心疾患の合併が高くなるようです。極めて不良だった予後も、新抗体薬も登場したことで、治療による改善がこれまでより期
待できそうですので、早期発見が以前にもまして重要になっているようです。

病院長 原田敦