病院レター第64号 2016年9月15日
健康長寿支援ロボットセンター
センター長 近藤和泉
高齢者の健康長寿を支援する上で、医療・介護・生活の3つの側面の全てにロボットの必要性があります。つまり疾病の治療、そこからの回復、生活への復帰とサポート、さらには介護の各場面に関わるロボットの開発が求められています。ロボットを使用する高齢者の生活の場としては、施設と通常の住宅が想定されます。一方、ロボットの維持・管理に関して、マンパワーが最も豊富なのは医療現場であり、続いて施設、家庭の順番になります。また医療・介護・生活におけるニーズは、オーバーラップしており、例えば医療現場で使用されていたロボットを施設や家庭でそのまま利用することも十分に考えられます。このような状況で効率的な開発を進めるためには、まず最もマンパワーの豊富な医療現場におけるロボットの開発を行い、安全性・有用性が十分に確認された上で、施設での使用を試み、さらに改良を加えた上で家庭での生活に導入するという道筋が考えられます。開発されたばかりのロボットを、いきなり家庭生活に導入するのは、あまりにも危険です。
ロボット導入におけるもう一つの問題点は、開発と社会実装の間に立ちはだかる「死の谷」です。「死の谷」とは、多くのロボットシーズが産業界と大学・研究所で生み出されているものの、その殆どが生活の場で利用される前に消え去っていくことを意味します。これには、
などが関わっていると考えられます。この「死の谷」を乗り越えるためには、開発側と使用者側を結び、ニーズを適正な形で伝えた上での開発を促し、すでに存在する、あるいはこれから開発されるシーズの適正な適用方法を決定する拠点の設置が必要です。
これらの諸問題を考慮した上で、想定される当センターの役割は、
になります。
当センターは平成27年4月1日に設置され、同年8月17日に開所式を実施しています。上記のような活動を行うだけではなく、併設された県立のあいちサービスロボット支援センターとも密接な協力関係を築き、ロボットの開発・社会実装に邁進しています。開所後、本年度の5月までに137件の見学を受け入れ、延べ610名の方が当センターに来られました。また開発企業への指導も本年度の6月までに65件、共同研究も4件行っており、現在、傾聴ロボット(トヨタ自動車)、バランストレーニングロボット(トヨタ自動車、指タップ計測器(UB-1,日立)、ベッドマットセンサーシステム(槌屋)などの実証試験を行っています。また本年度の2月にはロボット(Pepper ソフトバンク)によるデイサービスアクティビティの効果の検討を行い,装着型歩行訓練ロボット(トヨタ自動車)の片麻痺患者に対する実証試験を開始しています。
これらの研究はロボットセンターのみではなく、病院の機能回復診療部のスタッフとも密接に協力し、実証研究の実施も、センターからリハビリ室、回復期リハビリテーション病棟の場所をお借りして行っています。今後、当センターの活動に対して、ご理解とご支援をお願いする次第です。何卒、よろしくお願い申し上げます。
長寿医療研究センター病院レター第64号をお届けいたします。
装着型ロボット(HAL下半身トレーニング用)は、手術ロボットに次いで4月に2番目の医療保険適応となり、新潟病院の神経筋の難病患者さんに使用されているニュースが最近流れたばかりで、開発者のサイバーダイン社長、山海嘉之氏は長者番付入りされました。
また、次回の診療報酬の医療介護同時改訂では、介護でロボットに加算がつくなどのうわさも流れており、ロボットが産業用に限定された時代は過去のものになり、これからは、医療・介護・生活の広い分野に進出して、高齢社会のニーズに応え、主役産業の一つに育っていくことはほぼ間違いないと思います。
ただ、近藤先生も強調されているように、ロボットと共存するための安全を確保することが何よりも重要です。
健康長寿支援を明確な目標に定めたロボットセンターは他にはなく、高齢者への安全性を始めとした多様な課題に奮闘取組中です。
病院長 原田敦