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乳癌センチネルリンパ節生検について

病院レター第50号 2014年6月5日

集中医療科医長 川端康次

 乳癌にかかる人は増加しています。以前は女性が一生の間に乳癌にかかるのは20人に1人程度と言われてきましたが、現在では15人に2人程度に増加したといわれています。
 乳癌の治療法は大きく分けて手術療法、放射線療法、抗がん剤化学療法、ホルモン療法などがあります。
 手術可能な症例には手術を行い、進行度に合わせて他の治療法を組み合わせています。
 手術方法としては20年以上前は乳房全体と腋窩(わきのした)のリンパ節と大胸筋・小胸筋という筋肉も合併切除する方法が一般的でしたが、現在では筋肉は切除しないことがほとんどであり、比較的小さな乳癌に対しては乳房を部分的に切除するのにとどめる術式になっています。
 さらに最近では乳癌から近くにある最も転移の可能性の高いリンパ節(センチネルリンパ節)のみをまず切除し手術中に転移の有無を検査し、転移がなければそれ以上のリンパ節切除を行わない方法を行っています。

1.検査・手術の目的について

 乳癌の患者様の約40%に腋窩のリンパ節に転移があります。
 特にリンパ節が腫れている場合は75%に転移があり、腫れていない場合でも25~30%に転移があります。しかし、現在のところ手術の前に転移の有無を正確に診断できないため、基本的に乳癌の手術では主病巣の切除と同時に腋窩リンパ節を切除する手術が行なわれています。
 今回ご説明するのは腋窩リンパ節への転移の有無を正確に予測する方法の一つとして、手術中に色素およびアイソトープを使ってリンパの流れを見る方法です。

2.検査薬1(99mTc-フチン酸)について

 この薬(99mTc-フチン酸)は放射性同位元素という微量の放射線を排出し、体内に投与することで肝臓の病変を調べるための診断薬であり、多くの患者様に使用されています。今回はこの薬を用いてリンパの流れを見ます。

3.検査薬2 (色素:インジゴカルミン、インドシアニングリーン)

 この検査薬はリンパ管に入りやすい色素として、リンパ管の確認のために用いられます。投与後は尿中に排出され体内に蓄積することはありません。

4.検査薬3(オイパロミン370)

 この薬は一般に静脈内に投与し造影CTに用いられています。放射性同位元素が使用できないときは術前にCT下で乳房皮内に注入しリンパ管・リンパ節を造影して確認します。

5.検査方法について

 術前の検査は、検査薬(99mTc-フチン酸)を腫瘍のある乳房に約0.3ml注射した後、特別な撮影装置(ガンマカメラ)で撮影します。ベッドに横になってじっとしているだけの安全な検査です。術中の検査は、全身麻酔がかかってから腫瘍の周りにさらに検査薬2(色素)を注入しリンパ管の染色を行ないます。その流れに沿ったリンパ節や染色されたリンパ節が、がんの転移がおきやすいリンパ節ですから重点的に切除し手術中に詳しい顕微鏡的な検査を行ないます。センチネルリンパ節転移陽性と診断された場合は引き続いて通常のリンパ節切除を行ないます。
 転移陰性と診断された場合はそれ以上のリンパ節は切除しません。

6.予想される効果および危険性について

 リンパ節転移の診断を的確に行なうことができ、手術後の化学療法、ホルモン療法の選択に役立ちます。放射性同位元素の検査薬にはごく僅かの放射性物質が含まれているために、若干の放射線被曝を受けますが、その量は胃のレントゲン検査より少なく、特に問題となる毒性もありません。色素注入により稀に(0.01%以下)、ショックなどの重症なアレルギー反応が報告されています。
 有害な症状が発症した場合は全身麻酔下に管理されているため直ちに対応します。

7.代替可能な治療

 現在のところ乳癌の所属リンパ節・リンパ管の同定に関しては、この検査方法が最も安全で正確であると考えられています。


長寿医療研究センター病院レター第50号をお届けいたします。

 以前は、乳癌の手術では、生命予後を少しでもよくするために、乳房切除はもちろん、筋肉の切除と腋窩を主としたリンパ節郭清が常識でした。しかし、何でも常識とされるものはよく覆されます。最近では、筋肉と乳房の温存療法が広く行われ、さらに、今回説明されているようなセンチネルリンパ節生検によって不要なリンパ節郭清を省くことができるようになりました。現代の医療が求められているのは、単なる救命ではなく、QOLを最善にする生存であり、このような工夫はこれからも各分野で発展し続けるものと思われます。

病院長 原田敦