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認知症と画像診断

病院レター第48号 2014年1月25日

放射線診療部長 伊藤健吾

はじめに

 当院における放射線科の診療は、しばらく常勤医師不在の状態が続きましたが、昨年4月から常勤医師1名、併任医師1名(認知症先進医療開発センターとの併任)が、大学からの非常勤医師の応援を得て診療を行う体制になりました。まだまだ、非常勤医師に依存する割合も大きいですが、徐々に常勤医師による業務の割合が増えるようにマンパワーの充足を含めて診療体制の充実を進めているところです。放射線科の診療のベースとなる放射線診療部には、一般撮影装置3台、XTV装置2台、XCT装置2台、MRI装置2台(1.5T3.0T)、血管撮影装置1台、SPECT装置1台、PET-CT装置1台、放射線治療装置リニアック1台等が稼働しており、16名の診療放射線技師が従事しています。
 放射線科の診療は大きく診断と治療に区分されますが、診断については、CTMRI、核医学検査(PET-CTを含む)を中心に、出来る限り迅速に的確な読影レポートを作成するように努めています。放射線治療については、主に非常勤の治療専門医による対応になりますが、悪性腫瘍の外照射治療を実施しています。当院における放射線科の診療の特徴としては、センターの主要なミッションとも言える認知症に関連する画像診断について、アミロイドPETなど先端的な診断法をも駆使しながら、重点的に取り組んでいることが挙げられます。これについては次項以降で紹介致します。

当院における認知症の画像診断

 アルツハイマー病の診断では、CTMRIが正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など外科的治療で治癒可能な認知症の除外診断と脳血管障害の評価において必須とされてきましたが、脳血流SPECTと糖代謝FDG-PET(以下、FDG-PET)などの核医学診断法は、補助診断法と位置付けられてきました。しかし、認知症の患者数が飛躍的に増加する中で、より精度の高い診断が求められ、画像診断技術の進歩とともにアルツハイマー病の診断における画像診断の位置付けは大きく変化しています。
 当院の「もの忘れセンター」では月曜日から金曜日までの連日午前と午後に外来診療が行われ、初診患者は年間1,000例以上を超えるため、数多くの画像診断が実施されています。禁忌の場合を除き、ほぼ全例でMRIが実施され、側頭葉内側部の萎縮を含めて脳の形態学的な評価が行われます。海馬および海馬近傍の萎縮の客観的評価のためには、VSRAD®Voxel -Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer ’s Disease)による画像統計解析が全例で実施されています。
 MRIでアルツハイマー病が疑われた場合、進行したアルツハイマー病で検査を追加する臨床的意義が乏しい場合や、検査の実施が困難な場合を除き、脳血流SPECTが実施されます。

図1.脳血流SPECTの所見が、MCIからアルツハイマー病への進行予測に
有用であった症例

 図1に脳血流SPECTが、アルツハイマー病の早期診断に有用であった症例を示します。当院では、SPECT検査の90%以上が認知症の脳血流SPECTで、他の医療施設と比較して際立っています。脳血流SPECTよりもFDG-PETの方が、診断能が高いことは証明されていますが、日本ではFDG-PETは認知症を対象とした場合には保険適用外となるため、原則的に脳血流SPECTが選択されます。このため、FDG-PETは、主に臨床研究の枠内で実施されています。
 高齢者では、アルツハイマー病を示唆する脳血流SPECTの所見が、若年者に比べて出にくいことに留意すべきですが、脳血流SPECTでアルツハイマー病に典型的な所見が得られれば、アルツハイマー病の確信度は高くなります。もし、レビィ小体型認知症を示唆する後頭葉内側部の血流低下のように他の認知症を示唆する所見が得られた場合には、あらためて病歴、臨床所見、神経心理検査、MRIを再検討するとともに必要に応じて123I-MIBG心筋シンチなどの検査を追加することになります。

アミロイドイPETについて

 まだ、臨床研究でしか利用できませんが、近い将来の保険収載が期待されているアミロイドイPETについて紹介します。アルツハイマー病の主要な病理変化は、脳組織への沈着物である老人斑と神経原線維変化で、その主要構成要素は、前者がアミロイドβ蛋白、後者がタウ蛋白です。歴史的には、アルツハイマー病の原因については様々な仮説が提唱されてきました。なお議論はあるものの、アミロイドβ蛋白がもっとも基本的な原因であるとするアミロイド仮説が、現在最も支持されています。

図2.アルツハイマー病進行の進行におけるバイマーカーの仮説図

 図2は,アミロイド仮説と、画像を含む種々のバイマーカーの研究で蓄積された知見から描かれたアルツハイマー病の進行に関する仮説図です。横軸は、アルツハイマー病の進行度、縦軸は、各マーカーの変化を示しています。この仮説図によると、アルツハイマー病の最初の変化は、老人斑の蓄積です。続いて神経機能変化が始まります。そして、タウ蛋白による神経傷害が生じ、認知機能の低下が起きて、やがてアルツハイマー病および認知症の診断基準を満たす段階に達します。
 老人斑の蓄積は,アルツハイマー病の発症のかなり前,10年以上前から始まっていると推定されています。そして、軽度認知障害(MCI)の段階で、老人斑の蓄積は、ほぼ飽和していると考えられます。
 この老人斑の蓄積を画像としてとらえるのが、アミロイドPETです。これまでのアルツハイマー病の画像は、脳血流や脳糖代謝のような核医学画像であれ、MRIのような形態画像であれ、アルツハイマーの病理学的変化、病態を間接的にとらえるものでしたが、ミクロ病理を直接画像化するという意味で、アミロイドPETは画期的な診断法と言えます。脳内の老人斑の蓄積を画像化することで、これまで困難なであったアルツハイマー病の早期診断あるいは症状の全くない時期の超早期診断、アルツハイマー病と非アルツハイマー病の鑑別診断が極めて精度よく行えると考えられています。

図3.PiBによるアミロイドPETの陽性例(アルツハイマー病)
と陰性例(正常)の典型的な所見

 当院では、研究部門の協力を得ていち早くアミロイドPETに取り組んできました。
11C-BF22711C-PiB18F-AV45といった薬剤を用いたアミロイドPET検査が可能となっており、一日も早く臨床現場への導入を実現すべく、臨床研究に取り組んでいます。図3にPiBによるアミロイドPETの陽性と陰性の典型像を示します。現在、日本、米国、ヨーロッパでそれぞれ保険適用が要望されていますが、本稿執筆中に、世界のトップをきってイギリスの国民保健サービス(NHS)がアルツハイマー病を否定するための検査(アミロイドPETが陰性)としてアミロイドPETの保険償還を認めるというニュースが飛び込んできました。日本でも一日も早く保険適用になることを期待しています。

病診連携について

 当院放射線診療部における検査および治療は、病診連携室を通じてご予約頂けます。検査終了後は、出来る限り迅速に的確な読影レポートを作成してご報告させていただきます。認知症に関連する画像診断についても積極的にご利用いただければと存じます。また、当院のPET-CTは最新型の全身用装置で、悪性腫瘍の病期、転移、再発の診断に保険診療の範囲内で広く対応できますので活用していただければ幸いです。放射線治療についても、可能な範囲で先生方のご要望にお応えしつつ、連携して診療にあたらせて頂きたいと考えております。


長寿医療研究センター病院レター第48号をお届けいたします。

 国立長寿医療研究センター放射線診療部は、増加する患者さんに対応して夜間診療時間の延長や、土曜検査など臨床面の拡充を行ってきている。
 同時に、SEAD-Jなどの多施設共同研究で、アルツハイマーの画像診断に関して国際的な成績を残し、アルツハイマーの画像主導研究でも、PETの主任を務めている。アルツハイマーの鑑別診断は最終的には病理所見に依存するが、アミロイドイメージングは、病理にかわる強力な鑑別武器でもの忘れセンターでアルツハイマーと診断された症例のなかのアミロイド沈着がなく、診断が変更された例も少なくない。
 アルツハイマーの早期診断は、アミロイドイメージングの次はFDGPETであり、当院の強みである。
 今後Tauのイメージングなどより先進的な機能診断を行う施設として発展することが期待されている。

院長 鳥羽研二