本文へ移動

病院

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

 

外来診療・時間外診療・救急外来 電話:0562-46-2311

ホーム > 病院 > 医療関係者の方へ > 病院レター > 動脈硬化外来の新規開設について

動脈硬化外来の新規開設について

病院レター第45号 2013年7月25日

循環機能診療科 医長 清水敦哉

はじめに

 本年4月より当施設は、日本動脈硬化学会・専門医認定教育施設となりました。県内では、名古屋大学医学部付属病院、名古屋市立大学病院、愛知医科大学病院に次ぐ4番目の認定施設となります。これに伴い7月より、動脈硬化外来を新規開設する運びとなりました。本稿では、

  1. 動脈硬化外来の概要 と、
  2. 疾患としての動脈硬化(全身性動脈硬化性疾患:Polyvascular disease

について、外来の責任担当である循環器科・小久保学医師より皆様へご説明させていただきます。

動脈硬化外来の概要

診療枠

平成25年7月1日より診療開始。毎週月曜日11時~12時、予約は2枠/日です。

ご予約・受診について

  • 医療機関からの患者様ご紹介の場合:
    病診連携室・予約センターへのお電話にて、随時ご予約頂けます。
  • 受診を希望される患者様の場合:
    予約センターへのお電話にてご予約頂けます。なお直接病院へお越しの際には、11時までに受付けをお済ませ頂けば当日の診察も可能です。

担当:

小久保学 医師

略歴:

名古屋大学医学部卒(平成5年)・米国(Duke大学)留学後:日本循環器学会専門医・日本内科学会専門医:平成24年4月より現職。

最近の原著:

  1. Kokubo M, et al. A giant pseudoaneurysm of the sinus of Valsalva with pulmonary artery obstruction. Eur J Cardiothorac Surg. 2012; 5: 1204
  2. Kokubo M, et al. BDNF-mediated cerebellar granule cell development is impaired in mice null for CaMKK2 or CaMKIV. J Neurosci. 2009; 29: 8901-13 他

動脈硬化外来の開設にあたって

 これまで動脈硬化は、心血管障害や脳血管障害の基礎病態として認識されていました。しかし近年、動脈硬化は全身性動脈硬化性疾患という独立した一つの疾患として認識されつつあります。動脈硬化の概念を大幅に変化させた主たる原因として、近年の技術革新と新規医療機器の開発によって、これまで困難であった血管障害や臓器障害に関する定量的・定性的な評価が可能となったことが挙げられます。さて、循環器内科ではこれまでも動脈硬化の進行予防に配慮した診療を行なってきました。このたびさらにこれを充実させ、診療の主眼を動脈硬化に置いた『動脈硬化外来』を、他の診療部門とも協力しつつ開始することになりました。

1)動脈硬化進行度の評価について

 動脈硬化の進行に伴って合併する臓器障害に関する情報です。一方で、動脈硬化は加齢とともに進行することはよく知られており、例え検査結果は同じであったとしても、若年患者と高齢者患者では自ずとその解釈は異なります。従って動脈硬化外来では、血管や臓器を動脈硬化の進行度の観点から評価し、実年齢に基づく補正を加えて個別に結果説明を行います。

a) 血管自体の形態や機能に関する検査:

 動脈硬化の進行度に関する評価として、血管それ自体の評価は非常に重要です。頸動脈超音波検査により得られた血管の内膜と中膜の合計壁厚(IMT)が、全身血管の動脈硬化性変化の進行度を反映する良い指標であることが明らかとされています。また大血管の弾性を評価する大動脈脈波伝搬速度(PWV)もまた、全身血管の硬化性変化の進行度を反映する良い指標であることが明らかとされています。

1.頸動脈エコー:

 頸動脈がアテローム性動脈硬化の好発部位であることに加え、超音波検査を実施する上で、頸動脈が比較的太い血管であるにもかかわらず表在を走行し、非浸襲的に動脈を測定できるため、頸動脈を血管の窓として全身の動脈硬化の評価ができます。
多数の心筋梗塞・脳梗塞のない65歳以上の方の頸動脈IMTを測定し、その値の5分位数により被験者を5群に分けて生存率の推移を7年間追跡した結果からは、その値が高いほど心筋梗塞及び脳梗塞の発症率が高かったことが明らかになっています(文献1)。また冠動脈バイパス術の既往歴をもち、2年間高脂血症治療を受けた男性患者を約9年間追跡した結果では、治療中の頸動脈IMTの年平均進展度が増加するほどその後の冠動脈イベントおよび冠動脈疾患による死亡のリスクが高くなることが示されています(文献2)。 

2.大動脈脈波伝搬速度(PWV):

 動脈の硬さを評価するため広く用いられているのがPWV検査で、心臓から動脈に駆出された血液による拍動が末梢に伝わる速度がわかります。壁が硬くなると脈波はより速く伝達するため、PWVの上昇によって動脈コンプライアンスが低下していることを知ることができます。最近の上腕足首脈波速度(baPWV)では、心臓に近い上腕に先に到達した脈波と、少し遅れて足首に出現した脈波の時間差と、心臓からそれぞれの部位までの距離差を用いて算出されます。
 急性の冠動脈疾患(急性心筋梗塞・不安定狭心症)発症後の患者を追跡した調査では、PWV1,700cm/秒以上になると心血管イベントの再発リスクが4.19倍も高まり、退院2年後の無再発生存率が50%を割り込むことが報告されており、既存の疾患や危険因子の管理状況をモニターするツールとしても有用であると考えられています(文献3)。

b) 動脈硬化に基づく臓器障害に関する検査:

 動脈硬化の進行により、脳、心臓、腎臓などの重要臓器が障害を受けることがよく知られています。これらの臓器の障害は、日常生活の質(QOL)、生活自立度(ADL)、そして生命予後、に大きく関与します。動脈硬化外来では、患者様のご希望や合併症に合わせて、下表の検査によって臓器障害の有無や障害の程度を評価します。なお最近、末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease:PAD)が存在する患者は、心血管障害や脳血管障害の発症率と合併率が著しく高いことが明らかとされ、PADの有無を正確に評価することの重要性が再認識されています。このような背景から、本項ではPADに関連した検査を取り上げて説明します。

表:臓器障害を調べるための検査

標的臓器 検査
当部MRI・MRA
頸動脈超音波検査
心臓 運動負荷心電図
心臓超音波検査
24時間心電図
24時間血圧測定
腎臓 尿中微量アルプミン
大血管 胸腹部CT
末梢血管 ABI/PWV

3.足関節上腕血圧比 (ABI):

 末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)とは、動脈硬化の進展に伴い四肢の主幹動脈に閉塞病変が生じ、様々な虚血症状が出現する疾患です。ABIPADの診断に用いられ、有症状者においては95%の感度があり、健常者では100%近い特異度を持っています。PAD患者では動脈硬化が全身の血管に及んでいる可能性が高く、5年後の転帰を見ると、足を切断する人は2~3%にすぎませんが死亡する人は10~15%に達すると報告されています(文献4)。それは無症候でも有症状者と生命予後は変わらないため早期発見が非常に重要で、2011年の米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)ガイドラインでは50歳以上の糖尿病ならびに喫煙者、そして65歳以上の方にはABIの実施が推奨されています(文献5)。

2)動脈硬化危険因子に対する生活指導について

 動脈硬化は、脂質異常症・高血圧・糖尿病といった危険因子の合併によって著しく進行が速まることが知られています。一方でこれらの危険因子の良好な管理を継続する上で、運動習慣や食習慣などの生活指導はとても大切です。従って動脈硬化外来では、生活習慣指導を積極的に推進します。

動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善

  1. 禁煙し、受動禁煙を回避する。
  2. 過食を抑え、標準体重を維持する。
  3. 肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす。
  4. 野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす。
  5. 食塩を多く含む食品の摂取を控える。
  6. アルコールの過剰摂取を控える。
  7. 有酸素運動を毎日30分以上行う。(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012より)

3)他施設とは異なる当院動脈硬化外来の特徴

認知症の予防を視野に入れた診療を行います

 当院では、平成22年に国内最大かつ海外でも類をみない規模の「もの忘れセンター」を開設しました。その結果、極めて精度の高い認知症診断と個別症状に合わせたきめ細やかな治療が可能となり、通院中の認知症患者様の多くが精神的に満ち足りた穏やかな生活を自宅にてお送り頂くことが可能となっています。一方で患者様の中には治療への反応性が乏しく、ご家族と一緒に暮らすことが困難な状況に陥っている方がおられることもまた、厳しい現実です。このような背景を鑑みるに、認知症管理の上でその発症予防の意義は著しく高いものと考えます。近年の疫学データの多くが、認知症の発症には高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙、食事、栄養、運動不足などの、生活習慣病やライフスタイルが関与していることを示しています(文献4, 5)。動脈硬化外来では、これらの危険因子を一元的に評価し管理することによって、認知症の予防をも視野に入れた診療を行います。

医師の皆様へ

 患者様を動脈硬化外来へご紹介頂く際には、病診連携室を通じてご予約頂けます。 
なお患者様をご紹介頂いた際には、患者様のみならずご紹介頂いた先生方にも、検査結果に関する報告書をお渡しすることにより、医療情報の共有化を図らせて頂きます。また今後の患者様の治療についても、可能な範囲で先生方のご要望にお応えしつつ、連携して診療にあたらせて頂きたいと考えております。なお動脈硬化に関する評価のみならず生活指導や栄養指導についても、ご依頼があれば当外来にて対応させて頂きます。

参考文献

  1. O’Leary DH, et al: Carotid-artery intima and media thickness as a risk factor for myocardial infarction and stroke in older adults. Cardiovascular Health Study Collaborative Research Group. N Engl J Med 340: 14-22,1999.
  2. Hodis HN, et al: The role of carotid arterial intima-media thickness in predicting clinical coronary events. Ann Intern Med 128(4): 262-269, 1998.
  3. Tomiyama H, et al: Brachial - ankle pulse wave velocity is a simple and independent predictor of prognosis in patients with acute coronary syndrome. Circ J 69(7): 815-822, 2005.
  4. Diehm C, Allenberg JR, et. al.: Mortality and Vascular Morbidity in Older Adults With Asymptomatic Versus Symptomatic Peripheral Artery Disease. Circulation 120: 2053-2061, 2009.
  5. 2011 ACCF/AHA Focused Update of the Guideline for the Management of Patients With Peripheral Artery Disease (Updating the 2005 Guideline). Circulation 124: 2020-2045, 2011.
  6. Whitmer RA, Sideny S, et. al.: Midlife cardiovascular risk factors and risk of dementia in late life. Neurology 64: 277-281, 2005.
  7. Coley N, Andrieu S, et. al.: Demntia prevention: Methodological explanations for inconsistent results. EpidemiolnRev 30: 35-66, 2008.

長寿医療研究センター病院レター第45号をお届けいたします。

 人は血管とともに老いるは、オスラー博士の100年以上まえの名言で、未だに価値を失っていない。
 なんのために高血圧を治療するのか?
 それは、動脈硬化を防ぐために他ならない。
 なぜ動脈硬化を防ぐのか? それは、動脈硬化性の臓器障害を予防するためである。

 心筋梗塞、脳梗塞、慢性腎不全(CKD)、閉塞性動脈硬化症、大動脈瘤など動脈硬化性疾患は「命に関わる病気」であるが、同時に移動、活動、脳の働きなど「生活に関わる病気」でもある。
 動脈硬化外来の重要性は、年余にわたって蓄積する動脈硬化巣を、無症状のうちに早期発見し悪化を防ぎ、たとえ動脈硬化巣があっても、不安定になって臓器障害に至るプロセスを最大限食い止めることにある。
 この外来は高齢者のQOLを高く保つ医療の重要な一部を担って行くことを確信している。

院長 鳥羽研二