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排尿障害の改善により快適な生活を -夜間頻尿に関する最近の話題-

病院レター第38号 2012年5月22日

手術・集中治療部長
吉田正貴

自己紹介

 4月より当センターの手術・集中治療部長として赴任してまいりました。当センターの手術患者や救急患者を適切に管理し、集中的な診断と治療を行っていきたいと思います。また、私は泌尿器科医で、これまで泌尿器科全般の診療に加えて、専門の排尿障害(尿失禁や前立腺肥大症)、腹腔鏡手術などの泌尿器科内視鏡手術を中心に診療や研究を行ってまいりました。高齢者では泌尿器系疾患の頻度は高く、この地域の先生方との連携を深めて患者様を広く受け入れ、地域に貢献してまいりたいと思います。研究の面では高齢者の排泄ケアを確立させるための基盤作りや排尿障害の新しい診断、治療法や薬剤の開発などに力を注ぎたいと考えております。いろいろとお世話になることかと思いますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 人口の高齢化に伴い、排尿障害を有する方が増加しています。排尿障害は命にかかわるものではないのですが、生活の質を著しく損なうことが報告されています。排尿障害は歳をとるとともに膀胱や尿道の機能が衰えることや、さまざまな病気(脳卒中やパーキンソン病などの脳の疾患、脊柱管狭窄症などの脊椎や脊髄疾患や認知症など)で起こります。また、最近は生活習慣病やメタボリック症候群が排尿障害のリスクを高めるとの報告もあります。排尿障害にはさまざまな症状が見られます。尿の勢いが弱い、排尿中に尿が途絶える、排尿に時間がかかる、力まないと尿が出ない、尿の切れが悪いなどの症状は排出症状と言われます。また、排尿回数が多い、尿が漏れる(尿失禁)などは尿をうまく膀胱に溜められないためにおこる症状で蓄尿症状といわれています。日本排尿機能学会が報告した全国の40歳以上の住民を対象とした調査で、さまざまな症状の中で、夜間頻尿(夜間の排尿回数が多い)を有する方の数は多く、夜間頻尿は生活上で最も困る症状であることが報告されています(図1、文献1)。今回の病院レターではこの夜間頻尿について、最近の話題も含めて解説したいと思います。

1.夜間頻尿は生活上でさまざまな影響を及ぼします

図1排尿障害のうち生活に影響のあった症状
文献1より引用

 国際禁制学会では、夜間頻尿は「夜間に睡眠を中断するような排尿」と定義していて、これに従うと夜排尿のために1回以上覚醒すると「夜間頻尿」ということになりますが、実際に生活上問題とされるのは2回以上の夜間頻尿です。夜間頻尿はさまざまなところで生活に影響を及ぼします。短期的には夜起きるため昼間に疲れが出て仕事がはかどらなかったり、居眠りなどにより交通事故の原因にもなります。また、暗い中で起きるために転倒を引き起こし、骨折の原因にもなります。実際に大腿骨頚部骨折は夜間頻尿を有する方で有意に頻度が高いことが報告されています(文献2)。さらに夜間頻尿が長期に及ぶと、次第に体力が低下してうつ状態になることもありますし、ひいては生存率の低下につながることも明らかにされています(文献3)

2.夜間頻尿の原因はさまざまで対処法もことなります

図2. 夜間頻尿診療ガイドライン

 夜間頻尿の病態はさまざまであり、多くの因子が関係しているために治療法もそれぞれの病態で異なっています。そのため夜間頻尿の診療を円滑にしかも安全に行うために、「夜間頻尿診療ガイドライン」(文献4)が最近発刊されました(図2)。

1)多尿と夜間多尿

 夜間頻尿の原因としてまず挙げられるのは多尿・夜間多尿です。1日の尿量が増えると排尿回数も増えることになります。24時間で2800ml以上(あるいは体重1kgあたり40ml以上)の排尿量があると多尿と診断されます。多尿の原因としては、糖尿病や尿崩症が基礎疾患にある場合がありますし、1日の飲水量が多いと必然的に多尿となります。
 夜間多尿は夜間頻尿の原因として、最も大きな問題と考えられています。夜間の尿量の正常値は年齢により異なります。65歳以上の方では、夜間の尿量が1日の尿量の33%以上になると夜間多尿と定義されています。高齢者では様々な原因で夜間多尿となることが多く、夜間の排尿回数も増えることになります。特に高齢者では、高血圧による腎血管抵抗増加のための腎血流低下や筋のポンプ作用の機能低下により適正な尿量が日中に産生できない可能性があります。このため日中に細胞外にプールされた水分が夜間に血管内に戻ってくるために結果として夜間に尿産生量が増加し、これが夜間多尿の原因の一つであるとされています。
 最近、高齢者に対して、脳梗塞や心筋梗塞などの虚血性疾患の予防のために飲水量を増やすような指導がなされています。患者さんはこれを過度に信用するあまり、飲水量が多くなり、これが夜間多尿につながることもあります。虚血性疾患の原因は動脈硬化やアテロームプラ-クで、予防には生活習慣の是正が重要です。高齢者においては,脱水が脳梗塞の発症因子であることは報告されていますが、過度の飲水が「血液をさらさらにする」効果により、脳梗塞の予防になっているというエビデンスはありません。適切に飲水のバランスを調節することで、夜間多尿を改善して夜間頻尿を減らすことができます。1 日の飲水量の基準としては24時間尿量や体重が目安となり、体重の2~2.5%(体重60kgで約1500ml)が適当な飲水量と考えられています。ただ、暑さや運動などで発汗が多い時には、それに応じた十分な飲水量が必要です。

2)膀胱の機能異常

 膀胱に十分な量の尿をためることができない状態も夜間頻尿の原因になります。このような状態では、夜間だけではなく昼間も頻尿となることが多く、また、我慢できないくらいの強い尿意が急におこる(尿意切迫感)や我慢できずに尿を漏らしてしまう(切迫性尿失禁)などの症状も合併している場合も多く見られます。これはいわゆる膀胱が過敏になった状態で「過活動膀胱」と称されていて、原因としては加齢に伴うものが最も多くみられます。男性の前立腺肥大症の患者さんにも、この過活動膀胱を合併することが多く、夜間頻尿は前立腺肥大症の患者さんが最も困っている症状の一つです。過活動膀胱や前立腺肥大症は薬(抗コリン薬やα1遮断薬など)による治療が行われていて、これにより夜間頻尿の改善が期待されます。また前立腺肥大症に対しては、薬で効果が得られない場合には手術療法を行うこともあります。

3)睡眠障害

 高齢者の多くは睡眠障害を訴えることが多く、睡眠の質が悪化し睡眠途中で目覚めてしまい、2次的に夜間頻尿となる場合があります。また逆に、夜間頻尿のために睡眠障害をおこす場合もあり、睡眠障害と夜間頻尿は密接に結びついています。我々の最近の報告(文献5)でも、夜間の排尿回数が増えると睡眠障害の程度が悪化し、夜間頻尿に関連する生活の質も悪化することが明らかになっています。また、夜間頻尿と関係する特殊な睡眠障害として、むずむず脚症候群や睡眠時無呼吸症候群があります。65歳以上では80%以上に軽い睡眠時無呼吸が見られ、その多くは夜目覚めて排尿に行くことになります。睡眠時無呼吸の治療により夜間頻尿が改善することも良く知られています。
 睡眠障害に対しては運動療法が大変効果的です。ダンベル体操、散歩、ウォーキングなどが挙げられ、特に1週間3回以上の30分以上のウォーキングは夜間頻尿に対して約50%の有効率が報告されています。また、薬物療法としては睡眠薬の投与が勧められます。睡眠薬をうまく服用することで夜間頻尿が改善することもまれではありません。

3.夜間頻尿に対する診療の開始は排尿日誌から

図3. 排尿日誌

 排尿日誌は排尿障害の患者さんの診療で広く用いられていますが、特に夜間頻尿の診療には欠かせないものです(図3)。患者さんに目盛り付の排尿カップを渡し、排尿時間と排尿量を24時間記録してもらいます。昼間と夜間の区別のために起床と就寝時間を記録し、不眠の状態や尿もれなどのエピソードなども合わせて記入してもらいます。これを記録することにより1日の尿量、昼間と夜間の尿量(夜間多尿の有無)、排尿1回あたりの尿量を判定することが可能で、夜間頻尿の原因の把握と治療法の選択に役立ちます。

4.終わりに

 今回は排尿障害、特に夜間頻尿について解説しました。尿の出が悪い、排尿回数が多い、尿が漏れるなどで悩んでおられる方は是非泌尿器外来を受診してください。排尿障害を改善することで快適な生活が期待されます。また、排便もふくめた「排泄」の問題は生活の質や個人の尊厳にも関わり、高齢者においては避けては通れない問題となっています。排泄の問題で困っておられる方を今後どのようにケアしてゆくかについては、医療関係者のみならず広く社会全体で考えてゆくことが必要であり、その取り組みを始めたいと考えています。

参考文献

  1. 本間之夫・他. 排尿に関する疫学的研究.日排尿機能会誌 14:1-12, 2003.
  2. Asplund R. Hip fractures, nocturia, and nocturnal polyuria in the elderly. Arch Gerontol Geriatr, 43: 319–26, 2006.
  3. Nakagawa H et al. Impact of nocturia on bone fracture and mortality in older individuals: a Japanese longitudinal cohort study. J Urol, 184: 1413–18, 2010.
  4. 夜間頻尿診療ガイドライン.日本排尿機能学会・夜間頻尿診療ガイドライン作成委員会編,ブラックウェルパブリッシング,東京,2009.
  5. 武田正之・他.過活動膀胱患者に対するイミダフェナシンの夜間頻尿会改善効果は睡眠障害およびQOL改善に貢献する(EVOLUTION Study). 泌外23: 1443-52, 2010.

長寿医療研究センター病院レター第38号をお届けいたします。

 トイレの悩みは、高血圧や糖尿病などが日常会話の話題のなかで、笑いとばされるほど気楽に共有されるのに比べ、小声で「実はね、言いにくいんだが」とか秘密にして話さないことも多い。動物は、摂取すれば、必ず排泄がおこる。なにも恥ずかしいことではない。これらの正当な悩みの解決を日陰者にしてきた、行政やアカデミアの責任は重いといえる。
 今回、最新の知識を新任の吉田部長に書いていただいたが、これを活かす医療体制、とくに多職種協働が求められている。

院長 鳥羽研二