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認知症になっても安心して生活できる地域づくり

病院レター第35号 2011年11月25日

第二脳機能診療科医長
地域医療連携室長
武田章敬

認知症の方の生活における地域支援の重要性

 認知症の方の特性として、

  1. 認知機能が障害されるのに比べ、感情は比較的保たれている、
  2. 心の内側に不安や焦燥感があり、それが興奮・暴力・徘徊などの周辺症状(行動・心理症状)の原因になる、
  3. 環境適応能力が低下しており、環境が変化すると混乱を生じやすい、

といったことが知られています。そのため、住み慣れた地域での生活を継続し、なじみのある安定的な人間関係の中で、安心感が得られるように支援されることが何よりも重要です。その意味で、「認知症になっても安心して生活できる地域づくり」が求められています。

認知症地域支援体制の構築

 国や自治体は、地域における認知症支援体制作りを行っています。地域住民や地域で働く人々の認知症に関する理解と知識の向上を目的とした認知症サポーター100万人キャラバン、全国150か所を目標とした認知症の専門医療機関としての認知症疾患医療センターの指定、国立長寿医療研究センターが国から委託を受けて行っている認知症サポート医養成研修、医師会や認知症サポート医が中心となって行うかかりつけ医認知症対応力向上研修、地域において認知症の方や家族を支援する人材やサービス拠点の情報を掲載した認知症地域資源マップの作成、徘徊中の人をできるだけ早く発見するための徘徊SOSネットワークの構築や徘徊捜索模擬訓練などがあります。

地域での生活のしやすさや便利さに関する実態調査

 様々な認知症支援施策は、実際に地域で生活する認知症の方や家族が生活しやすいと実感してもらうことを目的としています。そこで、長寿医療研究開発費「認知症地域連携マップの作成」班において筆者らは、認知症の人と家族の会愛知県支部会員、愛知県内の地域包括支援センターおよび居宅介護支援事業所にご協力いただき、「認知症の方の地域での生活のしやすさや便利さに関する実態調査」を行いました。調査はアンケート方式で行い、「その地域(市町村単位・名古屋市においては区単位)は認知症の方やその家族にとって生活しやすい、または生活に便利な地域だと思いますか」と言った設問に5件法で回答頂きました。他にも、認知症に関する医療資源の整備、介護サービス資源の整備、地域に住む人や働く人々の協力、情報の得やすさ、自治体や地域包括支援センターの認知症支援の積極性、認知症地域資源マップの有無等についても回答を頂きました。

図1:. 「その地域は認知症の人やその家族にとって生活しやすい、
又は生活に便利な地域だと思いますか」の設問に対する回答

 地域での生活のしやすさ・便利さに関する設問に対して、「とてもそう思う」「そう思う」との回答が、家族会家族では38%であったのに対して、地域包括支援センターでは17%、居宅介護支援事業所では22%でした(図1)。そのように評価した理由を自由記述して頂いたところ、「近くに認知症の専門医療機関がある」「ご近所に認知症について理解がある方がいる」「生まれたときから住み慣れた場所、顔なじみの人々がまだいる」「小規模多機能型居宅介護やグループホームも多い」「徘徊しても近所の人が通報してくれるところが多い」などの記述がありました。
 地域に住む人や働く人が協力的かどうかの設問においては、家族会家族の41%が「わからない」と答えており、地域のインフォーマルな資源の状況やその有効性を評価する難しさを示しており、今後の課題と考えられました。

 地域の生活のしやすさ・便利さに関する設問の回答と他の設問の回答の相関をみてみますと、表のように、家族会家族の回答では地域に住む人や働く人の協力と相関が高く、地域包括支援センターの回答では介護サービス資源の整備、居宅介護支援事業所の回答では情報の得やすさが最も高い相関を示していました。また、家族会家族の回答の解析では、近隣の専門医療機関を受診している認知症の方の家族は、そうでない家族と比べ、有意にその地域が生活しやすい・便利と答えていました。
 次にアンケート調査の結果と実際の地域毎の地域資源の状況との解析の結果、居宅介護支援事業所の回答では、その地域におけるキャラバン・メイトと認知症サポーターの数、小規模多機能型居宅介護事業所の数、専門医の数が多いほど、認知症の方や家族が生活しやすい・便利という結果であり、かかりつけ医認知症対応力向上研修を受けた医師や専門医が多い地域ほど、医療機関が整備されていると回答されていました。また、地域における認知症グループホーム、小規模多機能型居宅介護事業所、介護老人保健施設の数が多いほど介護サービス資源が充実しているとの回答でした。

表.その「地域」の生活のしやすさや便利さは何と関係が深いか。(回答間の相関)

  病院 介護 住民 情報 自治体 マップ
家族会家族 (n=171) 0.453* 0.354* 0.498* 0.387* 0.329* -0.08
地域包括支援センター (n=141) 0.367* 0.451* 0.370* 0.326* 0.305* 0.068
居宅介護支援事業所 (n=741) 0.434* 0.404* 0.402* 0.442* 0.377* 0.250*

Spearmanの順位相関係数, * p<0.001

 認知症地域資源マップが実際にある地域において、認知症地域資源マップがあると答えた家族会家族はありませんでした。しかし、マップのある地域とない地域を比べてみますと、マップのある地域の家族会家族の方がその地域が認知症の方やその家族にとって住みやすい・便利であると回答していました。このことは、認知症地域資源マップの存在については地域住民への周知が不足しているという現状と、その一方で認知症地域資源マップを作成しているような認知症支援に積極的な自治体においては認知症の方を介護している家族に住みやすい・便利と実感されていると考えられました。

知多北部地域の医療機関の認知症診療に関する実態調査

 知多北部地域の医療機関における認知症診療の実態を明らかにするために、知多郡医師会・東海市医師会・大府市医師団にご協力頂き、知多北部地域の205の医療機関にアンケート調査を送り、95か所から回答を頂きました。回答を頂いた医療機関の81%が無床診療所、9%が有床診療所、9%が病院という内訳でした。

図2:知多北部地域の医療機関の認知症診療に関する実態調査

 結果をみますと、認知症の方の主治医意見書を通常作成している医療機関は56%、アルツハイマー型認知症に対して抗認知症薬の処方を通常行っている医療機関は39%ありましたが、認知症の方や家族に対する心理的サポート、逆紹介の受け入れ、認知症の早期発見やスクリーニングを通常行っている医療機関は少ない傾向にありました(図2)。また、鑑別診断に関しては、認知症の代表的疾患のなかでアルツハイマー型認知症の診断を行っている医療機関が最も多くみられましたが、通常に診断を行っている医療機関は全体の13%にとどまっていました。周辺症状(行動・心理症状)の治療に関しては、興奮・攻撃性に対する通院治療を通常実施している医療機関は6%であり、入院治療を通常又は状況に応じて行っている医療機関は5%でした。このような地域の実情を踏まえ、役割分担や情報交換等を通じて地域の認知症の方に対してより良い医療を提供していきたいと考えております。

今後の方向性

 平成23年4月から当センターは大府病院との連携の下、愛知県内で最初の認知症疾患医療センターとしての指定を受けました。今後も、近隣の医療機関、介護保険サービス事業所、自治体、地域包括支援センター、地域住民等の方々とより一層連携を深め、認知症の方や家族が安心して生活できる地域を作るように努めていく所存です。また、その過程を通じて得られた知見を、全国に情報発信していくことで、日本全国に「認知症になっても安心して生活できる地域」ができるよう貢献したいと考えておりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。
 最後に、アンケート調査にご協力頂きました皆様に心より御礼を申し上げます。


長寿医療研究センター病院レター第35号をお届けいたします。

 認知症になっても安心な街づくりは、スローガンとして素晴らしいものです。
 しかし、方法論は行政と福祉の連携などといった抽象的な表現から一歩も出ておらず、各自治体の工夫に任されています。先進的な自治体がある反面、医療機関に頼りきって、実質何もしていない自治体もあります。
 長寿医療研究センターは、どこに問題があり、明日からできる安心できる街づくりの一歩は何かを考えてきました。この病院レターの調査と分析もその一歩になればと思っています。

院長 鳥羽研二