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医療情報の標準化

病院レター第32号 2011年5月20日

医療情報室長 渡辺浩

 現在、長寿医療研究センター病院では昨年8月に医療情報システム全体が刷新されたことを契機に各種”標準化プロジェクト”に力を入れています。今回は医療情報室から「医療情報の標準化」「画像CD」「電子紹介状」のお話を将来像を含めてお話させていただきます。
 まず誤解されやすいのですが、「標準化」は、「規格統一」とは異なることに注意してください。「統一」は「バラつきが多いものを一定の基準に合わせること」ですが、「標準化」は「規格を決めて、手順を同じ決まりに統一したり、製品の一定の部分に共通の部品を使う事によって”効率化を図る”こと」です。

1.基盤共通化とバベルの塔

 なぜ業務の標準化(基盤共通化)が必要なのでしょうか?これに関しては面白い話があります。

図1 ピーテル・ブリューゲル「バベルの塔」

 バベルの塔の話はご存知でしょうか?(図1)一般に「高く造りすぎて雷に打たれて壊れた」ようなイメージがありますが、この話のオリジナルは「旧約聖書」の「創世記」内に登場する巨大な塔の話なのですが、実はこの中には、塔が神に壊されたという記述はどこにもありません。「神がノアの息子らに人間は各地にばらばらに住むように伝えたが、バビロニアの人々はこれらを嫌がり逆に塔に人を集め始めた。これに神は怒り、”ある策”を講じた。人々が話す言語は元来一種類だったが、神はそれぞれに”違う言葉”を話すようにしかけたのだった。これにより人々の間に混乱・混沌が生じ、人々は散り散りになっていった。」が本来のお話です。「業務における共通言語・基盤の重要性」を示すエピソードであると思います。余談ですが、これは医療情報学会長でもある、浜松医科大学木村通男教授がよくお話される例です。

2.認められている8つの規格

 では実際にどのようなものが標準として認められているのでしょうか?厚生労働省は昨年「厚生労働省において保健医療情報分野の標準規格として認めるべき規格このリンクは別ウィンドウで開きます」として8つの規格を提言しています(表1)。

表1 浜松医科大学 木村通男教授 第38回HL7セミナー資料より
https://www.hl7.jp/このリンクは別ウィンドウで開きます

 この文章中で重要な部分は、「今後厚生労働省においては、地域診療情報連携推進事業や地域医療再生基金等 に代表される各種補助事業等や諸施策においては、これら規格の実装を前提」としていることです。これらの後押しもあって、最近の地域連携事業は軒並み標準化の旗を掲げていることが多いようです。これら8つの中で、病病連携・病診連携において重要になってきますのは「HS007 患者診療情報提供書及び電子診療データ提供書(患者への情報提供) と HS008 診療情報提供書(電子紹介状)」および「HS009 IHE統合プロファイル「可搬型医用画像」およびその運用指針」です。興味深い事として、これ以外の5つの規格が単なるコードの規格なのに対し、これら3つはいわゆる「プロファイル」の体をしているということです。「プロファイル」とは「運用手順書」と言ってもいいと思います。いくら共通のコードを使ったとしても、”情報のやり取り手順”や”データの格納方法”までを定めなければ自動化はできません。これらの手順格納方法を定めたものがプロファイルです。(コード規格をレゴブロックの形の規格、プロファイルを組み立て設計図にたとえられることがありますが、考え易いかもしれません。)

3.可搬型医用画像PDI:Portable Data for Imaging

 ご存知のように最近は病院間や病診間で医療画像はフィルムではなくデジタル媒体CDやDVDでやり取りされることが多いと思います。ところがこれらの電子媒体に絡んで医療現場で大変な混乱を生じさせていると聞きます。診療所側では「他の病院から届けられた画像CDが読めない」、あるいは「自院で作成した画像CDが読めないと問い合わせが来た」など。病院側の問題としては病院外来などの診療用PCはセキュリティ上「CDを読んだりプログラムを入れたりすることができない」ことが多いので、やはりCDの読み取りにはトラブルが非常に多いのです。(私は立場上これら病院側トラブルに対応することが多く日々苦労しています) 読めない画像媒体をいただいてしまいますと、対応に遅れが出て患者様にもご迷惑がかかりますし、せっかく頂いたデータも活用できないで終わってしまいます。
 これらの現状を解決するためには2つのルールの浸透が必要と考えています。

1) まずは標準規格のCDを流通させましょう

 原因の一つにはCD内のデータ規格、データ構造がバラバラで統一が取れていないからということがあります。 そのための標準規格ということになります。統合プロファイル「可搬型医用画像」ですが、PDI:Portable Data for Imagingと略されています。簡単に申しますと、医療画像CDの規格です。
 画像CDはIHE PDI(Portable Data for Imaging)準拠のものをお送りください。ご不明な点は、各医療機関放射線部担当もしくは各種画像機器のME担当者にお尋ねください。この当たりは最近のPACSメーカーはPDI準拠を謳っているものが多いようです。

2) 受け取り手のことを考えて送りましょう

表2 患者に渡す医用画像CDについての合意事項

 実はPDIを適応させたからと言って、すべて解決できるわけではありません。上述の例で言いますと、多くの病院では「DVDは読み取りが対応していない」「自動でプログラムをインストールさせるCDはこまる」などがあります。当院では「アーカイブビューア」と言われる「画像CD内容読み取りシステム」を導入していますが、これにしても、1000枚以上の画像データを読み取るようには作られていません。PDI規格の順守だけでなく、受け取る相手の規模や種類を考慮する必要があるということです。このような問題を解消すべく実際には「日本放射線技術学会」「日本画像医療システム工業会」「保健福祉医療情報システム工業会」「日本 IHE 協会 」「日本医療情報学会」「日本医学放射線学会」が連名で「患者に渡す医用画像 CD についての合意事項」を発表しています。(表2)この中では以下のことを推奨しています

  • オートスタートを避ける。
  • DICOM 違反のタグを含まない。
  • 1CD に1患者 ID とする。また、1CD に数スタディ程度とする。
  • IHE PDI(Portable Data for Images)準拠であること。
  • 受け取り側の状況を考慮し、大量の画像枚数となることを避ける。

 誤解を避けるために申し上げますと、これらの施設間の画像CDやりとりの際の決め事は、あくまで「不特定の病院・診療所間での場合」を想定しています。「相手施設担当に直接媒体が渡り、担当者は承知で多量の画像DVDを受け取る場合」等は対象になりません。
 当センターから画像CDを発行してお送りする場合にもご負担やご迷惑にならないよう注意を払っておりますのでよろしくご配慮いただきたいと思います。

4.診療情報提供書(電子紹介状)

 もうひとつの今後注目すべき標準規格が「診療情報提供書(電子紹介状)」です。当院でも今年度からこの電子紹介状による患者さんの紹介を予定しています。

図2 電子紹介状(左)と表示画面(右)

 このCDの特徴ですが、この中には患者さんの「過去の病名」「注射処方歴」「検査結果」「医療画像」「紹介文章内容」をデータとして登録させることができます。また、本体内部に参照用プログラムも有しており、特別なプログラムなしに内容を参照することができます(図2参照)。その時にも他施設セキュリテイ的に迷惑のかからないような仕様をとっていますし、余計なプログラムのインストールも強要しません。さらには必要に応じて内容すべてを暗号化させること
ができるので持ち出された際にもより安全な運用が可能です。余談ですが、本CDが画像を含んだ場合、同時にこれは上述のPDI規格の画像CDとしても認識されます。
 実はこの電子紹介状CDそのものは厚生労働省が認めた規格なので、正式な各種書面と同等の効用があります。(「書面に代えて電磁的記録により作成、縦覧等又は交付等を行うことができる医療分野に係る文書等について」医政局通知0622010号より)ただ、そうは申しましてもいきなり紹介先施設へCDのみが送られても混乱してしまいますので、実際には今までの紙の紹介状と一緒にデータを含んだ電子紹介状CDが添付される形から始まると思われます。将来的には皆様にご理解していただきながら、「紙が不要の運用」や「オンラインによる患者紹介」に発展していければと考えています。


長寿医療研究センター病院レター第32号をお届けいたします。

 診療情報提供の標準化という難しい話をバベルの塔から、なんとか理解できるレベルに翻訳して解説してくれています。診療情報は、受け取り手の専門性によって場合によっては、懇切丁寧な解説が必要なケースから、なるべく多くの画像情報がほしいという専門医同士の会話まで多くのバリエーションがあります。そのようなニーズに答えるシステムの構築は、言語で文法の統一に過ぎす、我々は、これを生かした顔の見える情報交換に活かしていく必要があります。
 しかし、情報化社会で、まずお互いの情報がすべてモニターで見られることは、今後最低限の機能であり、これを実現したことは、みなさんが考える以上に困難を克服したいい仕事と思っていますが如何でしょうか?

院長 鳥羽研二