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長寿人間ドックについて

病院レター第14号 2008年5月16日

臨床検査部長 徳田治彦

 わが国は国民の実に5人に1人が高齢者という世界に例のない超高齢化社会を迎えており、高齢期における心と体の自立すなわち健康長寿を達成することはまさに全国民の願いとなっております。高齢者は認知症や骨粗鬆症・骨折をはじめ生活習慣病、悪性腫瘍などの慢性疾患を併発することも多く、早期発見・介入が健康長寿に資すると考えられます。人間ドックのような網羅的な検診システムが有効であると考えられますが、これまでの人間ドックは高齢者の生理的・病態的な特徴に十分に配慮されたものとは言えませんでした。私どものセンターでは、平成18年9月より「長寿人間ドック」を運営しています。

1. 長寿人間ドックの特徴

1)高齢者に多い疾患・自立阻害要因の早期発見を目指しています

 長寿人間ドックの項目選定にあたり、患者調査や国民生活基礎調査、人口動態統計をもとに加齢に伴い罹病率・死亡率の上昇が顕著となるような重要な疾患を分析しました。その結果、①悪性新生物(胃・大腸・気管および肺)、循環器疾患(高血圧・虚血性心疾患・脳血管疾患)、胃腸障害、呼吸器疾患(肺炎・慢性閉塞性肺疾患)、糖尿病、骨・関節疾患(骨粗鬆症)、白内障、前立腺肥大症等が多くみられること、②高齢者の通院病名はこれらで網羅されること、③加齢により癌による死亡率が上昇することがわかりました。一方、高齢者の自立を阻害する身体的な要因として脳血管障害、骨折、ガン、呼吸器疾患、関節・筋肉疾患が、精神的な要因として認知症、うつ病、脳血管障害等が抽出されました。長寿人間ドックではこれらの疾患・病態の早期発見を目指しています。また、歯科医の診察や問診票・XP検査など歯科医学的な評価が充実していることも大きな特徴といえるでしょう。
 高齢期における心身の健康状態を総合的に評価する手段として、Comprehensive GeriatricAssessment(CGA)が有用であることが知られています。長寿人間ドックでは、臨床心理士の面談によりCGAが行われます。さらに管理栄養士による栄養状況の面談も行われます。また、これらの検査・評価結果の解析がより実態に即したものになるようにするため、事前に数ページに及ぶ詳細な問診票を記入・持参して頂きます。内容は食事や睡眠、口腔内衛生習慣の有無など日常生活一般から国際前立腺症状スコアなどの専門的評価に直結するものまで広い範囲に及んでおります。

2)低侵襲性を追求しました

 高齢者を対象とする場合、低侵襲であることが必要条件となります。例えば、上部消化管のスクリーニング検査として広く用いられているバリウムを用いたX線透視撮影法は、高齢者では食道ヘルニアの頻度が高く、十分な所見が得られない可能性が高いことや、検査後の腸閉塞により手術を必要となった例や死亡例までが報告されておりました。そこで、長寿人間ドックでは、経鼻内視鏡検査を標準方法として採用ました。経鼻内視鏡検査は通常のものに比べて、ファイバーの径が細いため違和感が少ない、検査施行中に発声することが可能であるためコミュニケーションがとりやすいなどの利点があります。長寿人間ドックの運営開始後の調査では、受検者の受け入れは概ね良好で、次回も受けるなら大部分の方がこの方法を希望するという結論が得られています。

図1a. 従来の内視鏡(外径9.2mm)

図1b. 経鼻内視鏡(外径4.9mm)

3)フルカラーの結果報告書をもとに面談の上十分に説明します

 これまでの人間ドックでは、受検者の手元には検査結果の一覧と病変の模式図・スケッチが渡されるのが通例でした。長寿人間ドックでは、所見のあった画像についてはフルカラーの写真コピーが結果報告書に挿入されています。また、必要栄養素の摂取状況についても分析結果が詳細に解説されております。そのため、結果レポートは数ページに及ぶ充実したものとなっています。結果の説明は、ドック担当医の面談の上、通常1人当たり30分程度をかけて行っております。

4)データベースが構築され、今後の臨床研究に反映されます

 長寿人間ドックを通じて得られた貴重な情報・血液試料は、受検者の同意のもとにデータベース化され、臨床研究に生かされています。これらの分析により、標準的な高齢者像が明らかになるものと期待されます。もちろん、同意の得られない場合は受検者の診療目的以外で利用されることはありません。

2. 長寿人間ドックの運営と所見の概況

1)週1回(水曜日)、1回2名限定、日帰りのプランです

 現在、毎週水曜日に2名を限度として行っております。対象は原則として55歳から74歳としております。所要時間は昼食(お弁当を提供します)をはさんで約6時間です。完全予約制で実施日の2週間前が申し込み締め切りとなっていますが、現在約3ヶ月先までの受検申し込みを頂いております。内容は表1のとおりです。また、費用は8万円としております。

表1. 長寿人間ドックの主な内容

目的 項目 内容
全身状態 問診票  
体格 身長、体重、体脂肪、ウェストヒップ周囲長、皮下脂肪厚

診察

 
血液全般 血液検査 血算(白血球、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板)
循環器 血圧  
血液検査 BNP
運動負荷心電図・心エコー  
呼吸器 胸部CT  
肺機能検査 肺気量分画、フローボリューム
消化器 便潜血  
経鼻内視鏡  
血液検査 生化一般(Bil、直接Bil、ALP、ChE、AST、ALT、γ-GTP、AFP)、感染症(HBV、HCV)
尿検査 ウロビリノーゲン
腹部CT  
糖・脂質代謝 血液検査 空腹時血糖、HbA1c
血液検査 脂質(chol、HDL、LDL、TG)
腎機能・蛋白質 血液検査 血清タンパク(TP、Alb)、BUN、Cre
排尿障害 国際尿失禁会議質問票 *問診票に含まれる
過活動膀胱症状スコア *問診票に含まれる
前立腺 国際前立腺症状スコア *問診票に含まれる
血液検査 PSA
甲状腺機能 血液検査 fT3、 fT4、 TSH
骨粗鬆症 腰椎・大腿骨骨密度  
血液検査 骨代謝マーカー(骨型ALP、血清NTX)
動脈硬化 ABI、PWV  
頚動脈エコー  
眼底検査  
口腔老化 歯科診察  
口腔評価プロトコール  
口腔部門アンケート  
オルソパントモグラフィー *問診票に含まれる
血液検査 血清亜鉛
感覚器 眼科検査 視力検査、眼圧・眼底検査
聴力検査 簡易聴力検査
脳画像 脳MRI・MRA  
CGA 認知機能検査  
日常生活動作能力検査 MMSE
情緒 Barthel Index、老研式活動能力指標
栄養状態 食生活調査 GDS、QOL
食事摂取状況調査 *問診票に含まれる

2)中間集計の結果

2007年11月30日までに受検された男性42名、女性43名の中間集計の結果を表2に示します。 

表2. 中間集計の結果

  「異常なし」「放置可」と判定された領域別の割合 「異常あり」と判定された領域別の割合
男性 女性 男性 女性
1 血液系 (100%) 血液系(93.8%) 口腔機能 (93.3%) 口腔機能 (93.7%)
2 糖代謝系 (73.3%) 身体計測 (84.4%) 消化器系 (73.3%) 脂質代謝系 (90.6%)
3 骨 (70.0%) 糖代謝系 (71.9%) 脂質代謝系(66.7%) 腎・泌尿器系、動脈硬化(81.2%)

 口腔機能に関しては、ほぼすべての高齢者で骨吸収(歯槽膿漏)が存在していましたが、受診勧奨されたものは少数でした。女性では問診で排尿障害・尿失禁が多く認められ、症状があってもなかなか受診しない現状が明らかとなりました。PSA高値は2例に認められ、うち1例が前立腺癌と診断されています。女の骨量減少も多くの方が初めての指摘であったとのことでした。骨粗鬆症・骨折発生を考慮すると、55歳~74歳での骨量測定には大きな意義があると思われます。消化器領域においては、胃がんが3例発見されております。いずれの方も毎年検診を受けていたとのことで、特に注目されます。CGA関連項目では、認知機能尺度が低値であったため当センター物忘れ外来受診を勧奨した中から1例が若年性アルツハイマー病(疑い)と診断されています。栄養状況については、低栄養・脂質代謝異常・糖尿病・骨粗鬆症それぞれの健康リスクを有する受検者が食品摂取に気をつけていること、言い換えれば健康への関心・意識が高いことが明らかとなりました。
 なお受検後は、かかりつけ医で治療中の場合は結果を相談していただくよう、お話しています。新たに要治療とされた疾患については、ご希望により当院で治療を受けていただくことも可能です。

3.おわりに

 まだ、開始して日が浅く、ようやく軌道にのったばかりの長寿人間ドック事業について紹介させていただきました。今後、先生方のご指導を賜りながら、この取り組みを発展させるとともに、「健常な高齢者像」ひいては「健康長寿社会」を追求してゆきたいと考えております。


長寿医療センター病院レター第14号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、 診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今月は、 平成18年9月より運営しております「長寿人間ドック」について内科の徳田部長に解説していただきました。
 今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。
 ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

病院長 太田壽城