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画像診断設備および専門診療科と脳神経外科診療との融合

病院レター第3号 2006年7月5日

脳神経外科医長 文堂昌彦

 当センターは、MRI、PET(ポジトロンCT)、SPECT(単光子放射線CT)、脳磁図、マルチスライスCTなど、充実した画像診断機器を備え、今日までにこれらの画像診断技術における豊富な研究・診療経験を有する施設です。また、認知症、歩行障害など高齢者の疾患に関する専門的医療を行う診療科を持っています。このような恵まれた診療環境のもとで、私どもは、センター病院放射線科、神経内科、精神科、センター研究所長寿脳科学研究部と協力して、これらの画像診断機器および専門診療技術と、脳神経外科診療との融合を試みています。その中から、今回は、正常圧水頭症(iNPH)に対する私どもの診療方針について、そして、手術支援ナビゲーションシステムと脳神経画像診断機器による脳神経外科手術について、簡単に紹介させていただきます。

正常圧水頭症(INPH)の診療方針

1.正常圧水頭症の特徴をもっているかどうかの診断

  1. 症状:歩行障害、認知障害、失禁の評価、
  2. MRI:正常圧水頭症の特徴的なMRI所見
    (脳室の拡大、高位円蓋部の脳溝の不明瞭化など)が認められるかどうか。
  3. タップテストなど:髄液排出試験や髄液内圧の測定

2.正常圧水頭症と似た症状を呈する別の神経疾患があるかどうかの診断

  1. 症状:神経学的診断(他の疾患の特徴がないかどうか)
  2. MRI:脳血管障害、頚部脊椎症などの有無の確認
  3. PET:パーキンソン病とその類縁疾患との鑑別
  4. 認知機能検査:アルツハイマー病、血管性認知症、等との鑑別
  5. SPECT:アルツハイマー病、レビー小体病、多発性脳梗塞などとの鑑別

 正常圧水頭症(iNPH)とは、その診療ガイドラインによると、「くも膜下出血、髄膜炎などの先行疾患がなく、歩行障害を主体として認知症、尿失禁をきたし、髄液循環障害に起因する脳室拡大を伴う病態」とされています。髄液シャント手術によって回復する可能性のある認知症として、最近マスコミにも多く取り上げられるようになりました。ただし、手術を決断するに当たって、正常圧水頭症と似通った症状(歩行障害、認知障害、失禁)を引き起こす別の神経疾患(パーキンソン病、進行性核上性麻痺、レビー小体病、多発性脳梗塞、頚椎症性脊髄症など)との鑑別診断が必要になります。これらの疾患であれば、手術をしても症状が良くならないばかりか、却って悪化する場合もあります。この鑑別診断は必ずしも容易ではありません。水頭症の診断のためガイドラインで推奨されているタップテスト(腰部から脳脊髄液を30mlほど抜いて、その後、症状の改善があるか観察する検査)は有用 な方法ですが、正常圧水頭症でありながらタップテストで陰性となる症例もよく経験し、そのような場合の診断には困難を伴います。そこで、タップテストではっきりしない場合の方策として、私どもは、正常圧水頭症と似通った症状を起こす別の神経疾患の除外診断を丁寧に行うことにしています。当センターのスタッフは、パーキンソン病とその類縁疾患や認知症の臨床経験が豊富です。また、当センターには、優れた画像診断機器が備えられており、PETやSPECTなどを用いた診断にも長けています。私どもは、表1に示した2段階の診断アプローチによって、「正常圧水頭症」と、「正常圧水頭症と見分けのつきにくい別の疾患」との鑑別を行っています。これらの複合的なアプローチで正常圧水頭症の診断を行い、その後に手術適応を決定することが望ましい診療方針であると考えております。

脳神経外科手術における、脳神経画像と脳外科手術支援ナビゲーションシステムの融合(FUNCTIONAL NEURONAVIGATION)

 脳神経外科手術では、病変にたどり着き(アプローチ)、病変を処理する、というステップがあります。その過程において、脳の大切な場所を傷つけないような手術方法が採られなければなりません。「大切な部位」とは、大脳の神経機能中枢と、相互の神経線維連絡、および脳血管です。これらを傷つけないためには、「病変部位およびそのアプローチ経路」と「脳の大切な部位」との位置関係を正確に把握することが肝要です。手術支援ナビゲーションシステムは、CTやMRIの画像をシステムに読み込むことによって、手術中リアルタイムに、術者が操作している場所と「病変部位」との位置関係を把握することのできる有用な装置です。さらに、脳血管、神経線維連絡、大脳の機能中枢に関する画像を加えることによって、傷つけてはいけない「脳の大切な部位」との位置関係をも把握しながら、脳神経外科手術を行うことが可能になります。このような方法によって、脳神経外科手術の安全性が高まり、術後の回復や手術の達成度の向上が期待できると考えております。
 実際に利用する神経画像は、以下のようなものです。

  1. MRI, CT (脳の構造、病変の場所はどこか)
  2. 拡散テンソルイメージ(運動や視覚を伝える神経線維がどこか)
  3. 機能的MRI(運動、感覚、視覚、言語をつかさどる脳の部位はどこか)
  4. 脳磁図(運動、感覚、視覚、言語を司る脳の部位、および てんかんの焦点部位はどこか)
  5. PET、MRスペクトロスコピー(脳腫瘍の悪性度が高い部位はどこか)
  6. マルチスライスCT(主要脳血管の位置、走行、頭蓋骨の形)

 ナビゲーションシステムは、施術者の勘や経験に依存せず、ブレの少ない手術達成度をもたらすことのできる設備です。私どもは、そこに画像診断技術を加えることによって、さらに非侵襲性の高い脳神経外科手術を実現できるよう心掛けております。
 これまでに紹介させていただいた診断設備および診療技術は、当センターの専門とする分野です。このような診療環境の下、今後とも専門性の高い信頼のおける医療を提供できるように努力を続けてまいります。


長寿医療センター病院レター第3号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。この号では、手術でなおる高齢者の認知障害について脳神経外科の文堂先生に解説していただいています。きっと、先生の診療にもお役に立てるのではないかと思います。お心当たりのある患者さまがいらっしゃいましたら、紹介をご考慮下さい。今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。よろしくお願いいたします。

病院長 太田壽城