病院レター第76号 2018年9月18日
血液内科部 部長 勝見章
多発性骨髄腫は形質細胞の腫瘍性増殖とその産物である単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の血中・尿中増加により特徴づけられる疾患です(図1)。日本では人口10万人あたり約3人の罹患率ですが,罹患率,死亡率ともに年々増加傾向にあります。罹患率は男性のほうが高く、60歳くらいから急激に増加することが知られています(図2)。このため高齢化人口の増加にともない、今後も増加することが予想されます。
図1.多発性骨髄腫(MM)の症状
図2.多発性骨髄腫の年齢階級別罹患率(2016年)
化学療法の対象となるのはCRAB(O)で称される臓器障害,すなわち高カルシウム血症(C),腎不全(R),貧血(A),骨病変(B),その他(過粘稠度症候群,アミロイドーシス,年2回を超える細菌感染:O)のうち一つ以上を有している症候性骨髄腫患者です。M蛋白量が高くても無症候性の場合は無治療経過観察が原則です。
図3.移植適応のある初発症候性多発性骨髄腫の治療
近年,多発性骨髄腫に関する知見が急速に進み、新規薬剤が登場してきています。プロテアソーム阻害剤ベルケイド(一般名:ボルテゾミブ)が2006年12月はじめにわが国で発売されました。ベルケイドは予後不良のt(4;14)転座を有する骨髄腫にも有効とされています。現時点では移植適応のある患者さんの初回治療にはボルテゾミブ・デキサメサゾン(BD)療法が、非適応の患者さんの初期治療にはメルファラン・プレドニゾロン・ボルテゾミブ(MPB)療法がカテゴリー1として推奨されています。サリドマイドは1957年に市販され薬害のため市場から撤退しましたが、1999年に多発性骨髄腫への有効性が報告されました。厳重な管理のもとサリドマイドは2009年2月に発売されました。さらにサリドマイドの誘導体の免疫調節薬レブラミド(一般名:レナリドミド)が2010年7月に、ポマリスト(一般名:ポマリドミド)が2015年5月に発売されました。これらの薬剤はサイトカイン産生調整作用、腫瘍細胞に対する増殖抑制作用、血管新生阻害作用などにより従来の抗がん剤を越える効果が期待されています。新たなプロテアソーム阻害剤として2016年8月にカルフィルゾミブ(一般名カイプロリス)、抗体製剤として2017年11月にダラツムマブ(一般名ダラザレックス)が発売され、その後も新薬が承認されています。
図4.移植非適応の初発症候性多発性骨髄腫の治療
65歳未満の移植適応患者では,化学療法および新規薬剤を用いた寛解導入療法後の大量メルファラン療法による完全奏効の達成が長期の無増悪生存期間,ひいては長期生存の代替えマーカーとなることが示されています。このような状況から、現在では65歳ぐらいまでの患者さんでは大量化学療法と自己末梢血幹細胞移植が標準的治療と考えられています(図3)。
移植非適応患者においても,新規薬剤を併用した化学療法により完全寛解達成割合の増加が示されており,従来のMP(メルファラン・プレドニゾロン)療法を凌ぐ生存期間の延長が期待できるようになりました(図4)。
以上多発性骨髄腫の最近の話題をご紹介させていただきました。
長寿医療研究センター病院レター第76号をお届けいたします。
多発性骨髄腫は高齢者に多い血液の病気です。骨髄において形質細胞が異常に増加することにより、骨がもろくなったり、腎臓の機能が低下して、透析をしなければいけなくなったり、感染症を起こしやすくなったり、貧血が進行したり、様々な問題が起こってきます。白血病をはじめとする様々な血液疾患に対する治療法は近年長足の進歩を遂げており、多発性骨髄腫も例外ではありません。原因不明の発熱、貧血、たんぱく尿などがありましたら、当センターの血液内科での精査を受けていただきますようお願い致します。当センター血液内科において最先端の治療を提供致します。
病院長 荒井秀典