病院レター第69号 2017年7月14日
関節科医長 渡邉剛
新外来治療管理棟につきましては、現在、着々と建設がすすんでおり、すでにタワークレーンは解体され、大枠ができあがっております。来年2月に竣工予定の新外来治療管理棟には化学療法室、ロコモフレイルセンター、手術室などが入る予定となっております。工事のために皆様方にはご不便をおかけしており、申し訳ございません。
高齢者に対する関節リウマチは有害事象が懸念され、強力な治療が行い難いと思われているかもしれませんが、疾患活動性を抑えることにより、患者のADL向上が見込まれます。
新外来治療管理棟の化学療法室では生物学的製剤を今までよりも快適な環境で行うことができる予定です。30から50歳代で発症することが多い関節リウマチですが、当院の患者の平均年齢は72.3歳、発症年齢は59.7歳と比較的高齢発症のリウマチ患者群であります。
その分、合併症のリスクが高いため、入院しての生物学的製剤導入も行っております。現在当院通院中の患者の約2割に生物学的製剤を導入しております。
リウマチの診断、治療効果判定に超音波検査が有用です。当院には学会認定リウマチ登録ソノグラファーが在籍しており、正確な関節エコーが行えます。
日本整形外科学会が提唱する概念で、代表的な疾患は変形性関節症、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症です。新設のロコモフレイルセンターでは、松井康素センター長を中心に、2016年3月より開設された、ロコモフレイル外来をさらに発展させ、患者を要介護状態にしない予防方策に多職種で取り組んでいける体制を充実させていく予定です。詳細は2016年7月発行の病院レターNo.63をご参照ください。 !
当レターで、同タイトルで細井が執筆してから5年が経ちました。この間に、骨粗鬆症(OP)の薬物治療のバリエーションは多彩になりました。以前は、ビタミンD製剤とビスホスホネート(BP)製剤しか選択肢がなかったのですが、SERM、抗RANKL抗体、テリパラチド製剤、などが出てきました。BP製剤だけでも内服、注射の違いのみならず、投与間隔も毎日、週1回、月1回、年1回のものまで発売されました。近々、抗スクレロスチン抗体という骨形成にも骨吸収にも強力に働く薬剤が日本でも使えるようになります。
骨粗鬆症ガイドライン1)も2015年に最新版が出版されており、こちらは日本骨粗鬆症学会のHPからpdf版が閲覧できますので、ご活用ください。
骨粗鬆症薬物治療の問題はその治療率、継続率の低さであります。当院には全身骨量検査が可能な器械があります。腰椎、大腿骨の骨密度のみならず、筋量測定も可能なものになっており、最近話題となっているサルコペニア(筋量減少症)の診断にも役立ちます。骨密度検査をご希望の患者様がいらっしゃいましたら、骨粗鬆症外来をご紹介ください。
また、先進医療として有限要素解析CTによる大腿骨骨強度評価が可能です。従来の骨のみの強度だけではなく、皮膚、筋肉などの軟部組織の厚みも考慮した、実際の転倒条件に近い評価も行えるようになりました。ご希望の患者様がいらっしゃいましたら、ぜひご紹介ください。
骨粗鬆症外来は月曜、火曜、木曜午後に内科3名、整形外科3名体制で行っております。
ロコモティブシンドロームの原因である、変形性関節症、特に膝と股関節症は、重症になると患者のADLを下げ、要介護の主要因となってきます。関節疾患は要介護になる要因の約23%を占めています。
近年、慢性疼痛の治療薬もバリエーションが増えてまいりました。
以前は、関節痛に対する鎮痛剤といえばロキソニンでしたが、COX-2選択性のあるセレコックスが発売されました。消化器障害や心血管イベント、腎機能障害などの問題からカロナールが注目された時期もありますが、肝機能障害の問題も無視できません。弱オピオイドである、トラマドールも有効です。もともと抗うつ剤であるSNRIに疼痛下行抑制系の賦活化作用があることがわかってきました。サインバルタという薬剤に腰痛症や変形性関節症の新しい保険適応が通り、以前よりも薬物療法である程度は関節症状を抑えることが可能となってきています2) 。
現在、変形性関節症(OA)に対しては、有効な進行予防の薬物治療が確立されていません。しかしながら、ADAMTS、Interleukine-1、tumor necrosis factor、never growth factorやvascular endothelial growth factorに対するモノクローナル抗体製剤がDMOADs (Disease-modifying OA drugs) として開発も進められており、将来的には薬物療法によるOAの進行予防が可能になるかもしれません3) 。
荷重関節である股関節や膝関節では関節軟骨の摩耗がある一定量を超えると不可逆的になり、疼痛軽減とADL回復のために手術療法が必要となる場合もあります。
人工膝関節、股関節手術の耐用年数は15年と言われていました。近年材料工学の進歩により、Highly crosslinked polyethyleneやビタミンE含有ポリエチレンの開発により、理論上は70年の耐用年数のものもできてきました。関節温存手術である、脛骨高位骨切り術もopen wedge high tibial osteotomy (OWHTO) により早期荷重が可能となり、入院期間の短縮が可能となっております
人工股関節置換術については症例を選び、低侵襲手術である筋腱温存手術を行っており、術後脱臼予防、早期機能回復が期待できるようになりました。
骨欠損を伴うような治療に難渋するような症例に対しても、名古屋大学の股関節班と連携し、当院にて対応しております。
ただ、どうしても精神疾患や、認知症の影響で脱臼の危険肢位をとってしまう可能性の高い患者もおられます。そのような患者には二重摺動面を持つ特殊な人工股関節を用いることにより、術後脱臼のリスクを下げるようにしています。
また、高齢であったり、合併症を伴ったりする患者の場合、長期の術後運動療法が必要とされる場合があります。その際も他院への転院ではなく、回復期リハビリテーション病棟と2014年から開設された地域包括ケア病棟を、状況にあわせて使い分けつつ、患者及び家族に十分満足していただける状態になってから退院していただいています。
原田敦病院長、酒井義人部長、松井寛樹医師
松井康素センター長、渡邉剛医長、竹村真里枝医師、飯田浩貴医師
の7名が在籍しています。
股関節・膝関節疾患:渡邉、竹村、飯田が担当しています。変形性関節症や関節リウマチに対する人工関節手術を中心に保存療法も行っております。
雑多な内容となりましたが、今後とも当院整形外科へのご紹介をよろしくお願いいたします。
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
- 川口浩, 変形性関節症治療の国内外のガイドライン 日関病誌,35(1):1-9,2016.
- Shuang Zheng et al, Monoclonal antibodies for the treatment of osteoarthritis. Expert opinion on biological therapy. 16(12): 1529-1540, 2016.
長寿医療研究センター病院レター第69号をお届けいたします。
渡邉先生のレターにありますように、外来棟の新築工事も建物はほぼ終了し、内装に移っております。リウマチの外来においては、増え続けている高齢患者さんへの慎重な薬物導入やエコーによる関節の直接観察が診療の確実性を高めているようです。また、変形性関節症の薬物治療も多数の消炎鎮痛剤からどう選択するかが課題だった時代からオピオイドなどの新しい薬剤群の使用、さらに、今後期待される軟骨変性を制御する薬の登場など、新しい段階になりつつあります。さらに、骨粗鬆症外来では、先進医療による転倒したときの骨折リスク診断が可能です。今回説明いたしましたような疾患でお困りの患者さんがおられましたら、ご紹介頂けましたら幸いです。
病院長 原田敦