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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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握力は活力のバロメーター(2) ~握力は認知機能維持を予測する? 【認知症予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

高齢者が健やかに過ごす上で、認知機能低下の予防は大切です。認知機能の維持・低下には生活習慣要因、心理・社会的な要因、身体的な要因など、様々なものが関連していることがこれまでの研究により明らかにされてきました。その一つとして、身体的な能力が高い人では、認知機能が下がりにくいことが知られていますが、どのような身体能力が認知機能維持に関連しているのかは、十分に明らかではありません。今回は「歩く速さ(歩行速度)」と「握力」を取り上げ、認知機能との関連について検証した結果をご紹介します。

本研究では、NILS-LSA第2次調査(2000年から2002年)の60歳以上の参加者(1,096名)の、第7次調査(2010年から2012年)までの追跡データを用いました。まず、歩行速度と握力の測定を第2次調査で行いました。認知機能はMMSE(Mini-Mental State Examination)という検査を用いて、第2次調査から第7次調査まで、2年ごとに測定しました。そして歩く速さ、および握力の強さが、認知機能の10年間の変化とどのように関連するのかを検討しました。

 

​その結果、歩く速さが速くても遅くても、MMSE得点は10年間で徐々に低下していて、得点の下がり方にはほぼ違いがありませんでした。しかし、握力の強さはMMSE得点の下がり方と関連し、握力が最も弱いグループと比べて握力が最も強いグループでは、MMSE得点が下がりにくいことが分かりました()。

10年間の追跡調査のMMSE得点の変化を示した図。青線が握力がもっとも強いグループ、赤線が握力が最も弱いグループの変化を表しており、10年後、握力の弱いグループのMMSE得点が低いことが示されている。

ベースライン時の、年齢、性、教育年数、抑うつ傾向、婚姻状況、喫煙、IALD (Instrumental Activities of Daily Life)、CCI (Charlson Comorbidity Index)、BMIを調整した線形混合モデルを用いた。
握力の強さは、男女別に5グループに分けて解析した。図中では、握力が最も高いグループと最も弱いグループのMMSE得点の10年間の得点を推計したものを示した。

図:握力とMMSEの10年間の変化

ここまで読まれて、「それならば、握力を鍛えて認知機能を維持しよう!」と思われた方々もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、握力が認知機能の維持に直接影響するというよりはむしろ、握力が全身の筋力や身体の予備力などを反映するため、将来的な認知機能の維持を予測するのに役立つと考えていただく方が良いかと思います。(「No.34 握力は活力のバロメーター」をご参照ください。)

活動的に過ごして身体機能を維持することは、認知機能の維持に役立つと考えられます。握力の測定は比較的簡便で、手軽に身体能力を把握することができます。定期的に握力測定を行うなどしてご自身の身体能力をチェックし、身体能力と認知機能の両方を維持することを心がけていきましょう。

 

握力測定で身体能力をチェックして、認知機能低下を予防しましょう

 <コラム担当:中川 威、丹下 智香子>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*

Chou, M.-Y. Y., Nishita, Y., Nakagawa, T., Tange, C., Tomida, M., Shimokata, H., Otsuka, R., Chen, L.-K. K., & Arai, H. (2019). Role of gait speed and grip strength in predicting 10-year cognitive decline among community-dwelling older people. BMC Geriatrics, 19, 186.

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