認知症リスクをもつ高齢者に対する国内初の認知症予防プログラムの効果を調べた研究です
J-MINTって、こんな研究です
J-MINT研究の正式名称は、
認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究
Japan-Multimodal Intervention Trial for Prevention of Dementia: J-MINT
といいます。英語の頭文字をとって、J-MINTです。
J-MINT研究とは、認知症のリスクをもつ高齢者に、
「生活習慣病の管理(生活習慣病の予防や改善)」、
「運動指導(運動のしかた)」、
「栄養指導(正しい食事のとりかた)」、
「認知トレーニング(頭を使うトレーニング)」
この4つを組み合わせた多因子介入プログラムを行ってもらうことで、認知機能低下の予防に効果があるのかを調べた研究です。
研究の流れ
J-MINT研究には、65~85歳で、同年代の人と比較して少しだけ認知機能が低下しているものの、日常生活を問題なく送れる方(軽度認知障害=MCIと呼ばれる、認知症のリスクの高い方)531名が参加しました。参加者は、介入群(プログラムを受けるグループ)265名と、対照群( プログラムを受けないグループ)266名の2つのグループに分けられました。
介入群には、「生活習慣病の管理」、「運動指導」、「栄養指導」、「認知トレーニング」の4つを組み合わせたプログラムを実施しました。対照群には、「健康情報の提供」と「生活習慣病の管理」を実施しました。実施期間は18ヶ月で、2つのグループの認知機能の変化を比較し、プログラムの効果を検証しました。
Sugimoto T, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2021;8(4):465-476.
実施内容
介入群(プログラムを受けるグループ)
介入群には、以下の4つを組み合わせた多因子介入プログラムを実施しました。
生活習慣病の管理(生活習慣病の予防や改善)
各共同研究施設やかかりつけ医のもとで、糖尿病・高血圧・脂質異常症に対して、最新のガイドラインに沿った対応や、必要に応じて医療機関の受診を勧めました。
運動指導(運動のしかた)
1週間に1回90分の運動教室を、全78回開催しました。内容は、有酸素運動、筋力トレーニング、二重課題運動※を含む複合的運動プログラムと、行動変容を促すためのグループミーティングでした。また、各参加者にリストバンド型活動量計を配付し、自分の歩数や活動量を確認できるようにしました。これにより、運動への意欲を高め、日常の活動量の増加を目指しました。
※二重課題運動…計算やしりとりなどの認知課題と運動とを組み合わせたプログラム。
栄養指導(正しい食事のとりかた)
健康相談員(管理栄養士、保健師または看護師)が、面談と電話相談を行いました。面談1回と電話相談4回を1セットとし、6ヶ月ごとに1セット、合計3セットを18ヶ月かけて実施しました。内容は、食事摂取基準(2020年版)に基づき、適切な食品量、多様な食事、認知症予防に有効とされる栄養素や食材の情報提供と摂取の推奨、食事回数や起床・就寝時間などの生活リズム、禁煙支援、オーラルフレイル(口の機能低下)を防ぐ口腔ケアでした。参加者は生活習慣や食習慣の行動目標を立て、相談員とその対策を決め、自身で行動目標の達成状況を確認しました。
認知トレーニング(頭を使うトレーニング)
各参加者にタブレットを配付し、使い方を十分説明した上で、Posit Scienceが提供するBrainHQ(13種類の視覚的認知トレーニングを行うことができるプログラム)を、1日30分、週4回以上、自宅などで行うよう勧めました。この認知トレーニングは、3ヶ月ごとに強化期間を設け、強化期間中は BrainHQの積極的な取り組みを促しました。参加者のトレーニングの実施回数は常に確認し、基準に満たない場合は、その都度使い方の説明やアドバイスを行いました。
Sugimoto T, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2021;8(4):465-476.
対照群(プログラムを受けないグループ)
対照群には、健康情報の提供と生活習慣病の管理を行いました。
健康情報の提供は、2ヶ月に1回の頻度で、一般的な健康に関する内容の資料を配布し、6ヶ月ごとの評価の際に、健康に関する相談を受けました。
Sugimoto T, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2021;8(4):465-476.
研究結果
解析対象者の選び方
研究には、531名が参加し、 265名は介入群(プログラムを受けるグループ)と、 266名は対照群(プログラムを受けないグループ)に分けられました。18ヶ月間、最後まで研究に参加した人は406名(76.5%)でした。
J-MINT研究では、運動教室に1回以上参加した人、または健康情報の提供を1回以上受けた人のうち、6ヶ月以降の評価に1回以上参加した人を「解析対象者」としました。
Sakurai T et al, Alzheimers Dement. 2024.
解析対象者の特徴
全体の平均年齢は約74歳で、男性は48%、女性は52%と、男女の割合は約半々でした。認知症のリスクに関わるAPOE4という遺伝子を持っている人は約30%でした。MMSE(認知機能の検査)の平均点は27.7点でした。
Sakurai T et al, Alzheimers Dement. 2024.
解析結果
主要評価項目の解析の結果、プログラムを受けた介入群で認知機能が改善する傾向は見られましたが、プログラムを受けていない対照群と比較して統計学的有意な(統計的に意味のある)改善は見られませんでした。
そこで、介入群の中で、全78回の運動教室の参加率に着目し、さらに2つのグループに分けて分析を行いました。
- 「運動教室への参加が70%以上の人」
- 「運動教室への参加が70%未満の人」
これに、プログラムを受けていない対照群を加えて、合計3つのグループで追加解析を行いました。
グラフでは、ベースラインから18ヶ月までの認知機能のスコアの変化を、6ヶ月ごとに示しています。
- 緑色の実線:70%以上参加した人
- 青緑色の点線:70%未満の参加の人
- 灰色の実線:プログラムを受けていない対照群
運動教室の参加率別の解析の結果、運動教室に70%以上参加した人は、参加率70%未満の人や対照群と比較して、統計学的有意差(統計的に意味のある差)をもって認知機能が改善されていることが分かりました。
つまり、J-MINT研究では、MCI(認知症のリスクの高い方)の高齢者において、プログラムへの参加割合が高い場合、認知機能の改善に効果があることが示されました。
Sakurai T et al, Alzheimers Dement. 2024.
MCIの高齢者では、プログラムに高い割合で参加することで認知機能の改善が期待されます
その他にも、プログラムによる介入の効果が得られやすい人がいることも分かりました。
例えば、APOE4という遺伝子を持っている人は、将来、認知症になるリスクが高いことが知られています。プログラムを受けていない対照群では時間の経過とともに認知機能が低下していますが、プログラムを受けた介入群ではそのような低下が見られず、認知機能が維持されていました。
Sakurai T et al, Alzheimers Dement. 2024.
研究参加者の声
J-MINT参加者 / 70代女性
(運動教室は)本当に疲れるなと思うけど、嫌な疲れじゃないんですね。「しっかり頑張ってやってきたんだなあ」と自分で褒めています(笑)。
自分で動こうとするようになりました。今まで疲れていたら、止まってしまうんだけど、(運動教室で)あれだけ動けたんだから、「ちょっと動こうか」って、家の中で歩いたり、足踏みをしたりしています。運動教室でやったおかげかな。
J-MINT参加者 / 70代男性
刺激もなくなってくるんですよね。体力が年齢と共に落ちてきました。J-MINTに行くと、どれだけ運動したか、自分で目標を立てるから、楽しいと思ってやっていますね。どうしても食が偏ると病気になったり、それこそ認知症になったり、色々と起こるといけないから、予防としてやっています。それに、 J-MINTは指導してくださるという面で、すごく良かったなと思いますよね。
※掲載内容はインタビュー当時の情報に基づいています。
その他の情報
研究費提供組織
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)
認知症等対策官民イノベーション実証基盤整備事業
臨床試験登録
UMIN試験ID:UMIN000038671
詳細は UMIN-CTR臨床試験登録情報 を閲覧ください
共同研究施設
- 国立長寿医療研究センター
- 名古屋大学
- 名古屋市立大学
- 藤田医科大学
- 東京都健康長寿医療センター
参画した民間企業
- SOMPOホールディングス株式会社
- SOMPOケア株式会社
- コナミスポーツ株式会社
- SOMPOヘルスサポート株式会社
- Posit Science Corporation