本文へ移動

病院

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

 

外来診療・時間外診療・救急外来 電話:0562-46-2311

ホーム > 病院 > 病院について > 組織 > 臨床工学部 > 臨床工学部 Blog > 電気メスの効果と専用物品の使い分け

電気メスの効果と専用物品の使い分け

少し前のお話ですが、当センター⼿術部の看護師さんを対象に勉強会をさせて頂きました。きっかけは、TURとTURisに使⽤する処置具の使い分けの必要性に関する質問でした。一言で済ませる事もできますが、当方としてはしっかりと原理を理解した上でその使い分けを把握する必要があると思っています。表面的に覚えても必ず忘れてしまいますが、理論的に理解すれば、たとえ忘れてしまってもきっかけさえ思い出せばそこからの内容は芋づる式に思い出すという個人的な考えがあるからです。この個人的な考えを強要する訳ではないですが、常に臨床工学部スタッフにはそのような教育を行っているつもりです。文句も言わずついてきてくれて感謝しています。こんな考えを持つ私ですので、今回は電気メスの基礎的な内容から説明させて頂きました。そうする事でさまざまな症例や場面に対応する応用力を養えると信じています(汗)。

電気とは、「流れやすい道(抵抗の低い経路)を選びながら流れ、最終的にゴールにたどり着きます。」 ⾔い換えれば、流れ難い道に電流を流すにはそれだけたくさんの⼒(電圧)をかけなければなりませんし、元に戻る道が無ければ電流⾃体が流れる事はありません。これを電気メスの作⽤に置き換えると、電気メスの効果を上げるには電流密度を上げなければなりません。電流密度を上げるためにはたくさんの電流が狭い⾯積に流れる必要があります。そのためには電流が流れやすい道を確保し、たくさんの電流が流れる環境をあらかじめ確保しておく必要があります。しかし電圧がある程度規定されている装置である電気メスは、電流が流れ難い場所であっても⼗分な⼒(電圧)を付加することが出来ない場合もあり、電流⾃体が制限されてしまい⼗分な効果が得られない可能性があります。たとえたくさんの電流が流せる設定がされていたとしてもそこを通過する道が狭く(抵抗が⾼く)、後押ししてくれる⼒(電圧)が弱ければけっしてたくさんの電流が流れることはありません。そのよい例が「モノポーラ」と「バイポーラ」の違いではないでしょうか。モノポーラはご存知の通り、メス先から送り出された電気は体内を流れ、対極板を介して装置に回収されます。⼀⽅バイポーラはメス先から出された電気は、⽬的部位を挟んで配置された他⽅の電極によって回収されます。

モノポーラ出力のイメージ図

モノポーラ出力

バイポーラ出力のイメージ図

バイポーラ出力

上の絵に示した通り、電気の流れる経路が短い(ゴールの近い)バイポーラの⽅が電流は流れやすい(抵抗は低い)です。当センターでも稀にこんな事を⾔われる事があります。「バイポーラだとしっかり焼けるのに同じ設定でモノポーラだと焼けないんです・・・。」 その理由は電気の流れ易さを考慮すれば⼀⽬瞭然です。つまり同じ設定の場合、その効果は断然バイポーラに軍配が上がります。当センターで使⽤している電気メスのほとんどはERBE社のVIOです。この装置の出力は「Effect」により制御されますので、電気の流れ易さの影響はそれほど受けませんが、単に出⼒設定のみを⾏う装置の場合はよりその影響が顕著に現れます。この影響は電気メスにとっては⾮常に重要です。電気メスはそもそも出⾎を抑えながら(止血を行いながら)切開を⾏う、または急な出⾎に対しても迅速に凝固(止血)が⾏える事を⽬的とした装置です。それなのに対極板の設置場所や体型、出⼒⽅式の違いにより発生する電気の流れやすさによって実際の効果に影響が出るようでは臨床での使⽤は⾮常に不安が残ります。その点VIOに関しては「Effect設定」によって凝固効果をモニタリングしながら出⼒を⾃動制御します。そうする事で常に一定の凝固能を維持した出⼒が⾏えます。実際、当センターではあらかじめ⼿術別・科別にプログラムした設定をほとんど変える事無く運⽤できています。つまり、電気メスを効果的に利⽤するためには「電気が流れやすい環境さえ整えればそれほど設定変更の必要がない」という事です。これを踏まえてTURとTURisについて考えて⾒ましょう。まず以下の表をご覧ください。

電気メスの効果を左右するインピーダンス一覧

これは、TURとTURisで電気が流れる各種媒体とその抵抗値の⽐較です。TUR(Transurethral Resection)とは、⾮電解液を⽤いた経尿道的膀胱鏡⼿術です。「⾮電解液」、つまり電気を通し難い液体を膀胱内に灌流させて⾏う⼿術です。では膀胱内で出⼒された電気はどこにいってしまうのでしょうか。ここで思い出すのは「電気は流れやすい経路を選択して返っていく」という事。 上の表からもわかるように⾮電解液に⽐べて⾝体の抵抗値の⽅が低い(電気が流れやすい)です。つまりTURで出⼒された電気は電気の通り難い⾮電解質液内では無く、より電気が通りやすい(抵抗の低い)⼈体組織から対極板を介して回収されていく事になります。

TURの電気の流れ

ではTURis(TUR in Saline)はどうでしょうか。その名の通り電解質内で⾏うTURですので、膀胱内には電解質液(⽣理⾷塩⽔等)が満たされる事になります。このような環境下で電気を流すと、電気はより流れやすい経路である電解質液に流れる事とになります。そして電解質液内に放出された電気は処置具と⼀体構造になった膀胱内にあるレゼクトスコープ本体から回収されます。

TURisの電気の流れ

これがTURとTURisでの電気の流れの違いです。なんだかモノポーラとバイポーラの違いみたいです。少し話はズレますが、ペースメーカー等の心臓リズムデバイスが挿入された患者さんに対する外科手術の際に、電気メスの高周波が与えるノイズによって引き起こされる誤作動を防止するために対策を要する事があります。でもこれはモノポーラ出力を行う場合だけです。バイポーラ出力では体内に電気が流れませんので対策の必要がありません。これと同じことがTURとTURisにもあてはまります。症例によってどちらの方法を実施するかは主治医の判断になりますが、ノイズの影響の事に注目すると絶対にTURisの方が安全です。

では次に出⼒そのものの違いについてみていきましょう。今回はループ電極を例として挙げさせて頂きます。まずはTUR⽤とTURis⽤で構造的な違いがあるのかどうかですが、この両者はまったく同じ構造をしております。ではどちらでも使⽤できるのかと⾔われると・・・ 物理的には繋がりますが専⽤処置具として謳われており使⽤は出来ません。「使えるけど使えない・・・」 間違いを起こしやすい⼀番嫌なやつです。まずはTURの出⼒⽅式について⾒てみましょう。TURとは前述したとおり電気の流れ道は患部から対極板となります。したがって、電極が接触した部分しか電流は流れませんので、「切りたい所」「焼きたい所」=「電極が触れた箇所」となり、その部分のみに電流が集中し、効率的に電流密度を上げる事ができます。ではTURisはどうでしょうか。 TURisでは放電と同時に電解質液内に電気が放散しますので、効率的に電流密度が上がりません(ループ全体に電気が流れます)。そこでTURisの場合はまずループ全体に広がった電気によってそこに接する電解質液を沸騰させ、電極の周りに気泡の集団(電気を通し難い環境)を作ります。すると電気はループ内に⼀旦閉じ込められ、電気が流れやすい経路を探します。その状態で組織に触れると気泡よりも電気が流れやすい組織に電気が流れ始め電気メスの効果が出現します。このようにTURisでは出⼒に際して2つのステップをふむため電気放電が⼀瞬遅れます。これがフットスイッチを踏んでから⼀瞬待って電極を動かさなければ切れない理由です。という⾵にTURとTURisでは出⼒様式も若⼲異なります。

TURの出力図

TURのループ電極出力

TURisの出力図

TURisのループ電極出力

そして電流密度においても⼀点集中のTURと全体通電のTURisとでは異なったものとなります。全体通電︖︖ という事は電流密度が落ちる︖︖ TURisにおいて「切開」「凝固」能は落ちる︖︖ その通り、TURisでは電気メスの効率は落ちると⾔わざるを得ません。ではなぜわざわざTURisを選択するのでしょうか。 それはTURにはあまりにも多くのデメリットが存在するからです。そしてそのデメリットは⾮電解質液を使⽤する事に由来しますので、当該液を使⽤しないTURisにはそのようなデメリットが存在しないという事になります。具体的なデメリットについては今回は触れませんが、「このさまざまなデメリットが存在するTUR」に対して「デメリットが存在しないTURis」の弱点である「電気的な効率の悪さ」をカバーする事ができれば断然TURisが選択されるのは明らかです。ではその効率の悪さ(電流密度の低さ)をいかにカバーするかについて⾒ていきたいと思います。カバーするために必要となるのは以下の2つです。

  1. 通電のファーストステップとして電解液を沸騰させる事は前述の通りですが、この段階では⾮常に低い抵抗(電解液)に電気を流す事になり、なかなか温度が上がってくれません。最近よく⾒かけるIHヒーターも銅製の鍋は使えませんよね。これはあまりによく電気を流すため、電圧がかからず温度が上がってくれないのです。TURisでもそれと同じような事がいえます。この低抵抗域では出力を大きくすることで電解液の沸騰を起こさせます。そして⼗分に電解液を沸騰させた後に⾃然に出⼒が下がる事で安全な切開が行える電気的な環境を整える必要があります。この状態を詳細にモニタリングして出⼒を管理できる装置の存在が必要不可⽋といえます。
  2. 電流密度の低さをカバーできる設計の処置具に関しては、物理的に接触⾯積を⼩さくすればよいという事になりますが「接触⾯積を⼩さくする=細く・径を⼩さく」すれば解決しますが実際には細くした分強度が落ちますので構造は同じといえども材質は異なります。つまり、TUR⽤ループ電極(タングステン)は径が⼤きく電極⾃体が太く脆弱なのに対してTURis ⽤(プラチナイリジウム)は径が⼩さく電極が細くて強い必要があります。

以上の2点がTURisを安全確実に実施するための必須条件なのです。前述した「使えるけど使えない」をやってしまうとどうなるのでしょう・・・。 TUR⽤処置具をTURisに使⽤した場合、もともと電流密度の低さをカバーするために⼀過性に強い出⼒を⾏うTURisモードに、太く脆弱な電極を使⽤する事になりますので出⼒と同時に破断もしくはその後電流密度が上がらず効果不⾜になる可能性が⾼いです。ではTURis⽤処置具をTURに使⽤した場合はいかがでしょうか。もともと電流密度が⾼く保てるTURですので、より細く⼩さい電極であるTURis用を使⽤すれば当然予想外の電流密度の上昇を招く可能性はあります。しかし、VIOにおいては「Effect」制御を⾏っていますのでこれによって過剰な出⼒が出る可能性は低いと思われます。しかしループ径が⼩さい事から術者の予想に反した狭い凝固や切開範囲となり、繰り返し出⼒を要する可能性はあります。このように同じ効果を狙ったものであっても、間違った使⽤は思いがけない不具合を招く危険性もありますので⼗分な注意が必要です。現在の外科⼿術には⽋く事のできない電気メス。その使⽤頻度は⾮常に⾼く安全性や機能も⽇々向上していますが、本当に理解して使⽤する事によって術者の希望に沿ったきめ細かい設定も可能となります。今回の内容以外にもお伝えしたい事はたくさんありますが、あまりにも⻑⽂となってしまいますので今回は終了とさせて頂きます。何かご意⾒等ございましたらコメント頂けますと幸いです。

 

 

お問い合わせ先

臨床工学部

TEL:0562-46-2311(代表)

E-mail:med-eng(at)ncgg.go.jp

セキュリティの観点から@は表記していません。(at)は半角@に変換して読み替えてください。

病院