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有効な電気メス出力を得るための環境の重要性

今回はERBE社製電気メスに搭載されたソフト凝固の有効利用について記載させて頂きます。当センターのソフト凝固の設定は、たとえ凝固層は浅くともできるだけ早い⽌⾎を目的にエフェクトを⾼めに設定しています(もちろん⼿術部位や出⾎範囲・量によってこの限りではありませんが・・・)。ソフト凝固とは組織を炭化させずしっかりと凝固できるモードとして定着されつつありますが、まれにソフト凝固であるにも関わらず炭化︖︕ と思わせるような術野を⾒る事があります。ソフト凝固とはご存知の通り、出⼒電圧を200Vに到達させない事で組織とメス先の間でスパークを起こさず炭化を防⽌するかわりに、エネルギー保持のために電流量を多くし通常よりも多くのジュール熱によってその効果を得ようとする特殊なモードです。であるにも関わらずなぜ炭化を思わせる画像が⾒えてしまうのでしょうか。

ここで、⽣体の各臓器における抵抗の違いを確認してみます。一般的に抵抗の低い(電気が流れやすい)順に「⾎液」→「筋⾁」 →「神経」→「腎臓」→「肝臓」→「脂肪」とされています。電気メスの効果は抵抗値の差に左右される事は⾔うまでもありません。そして電気メスの効果(凝固や切開)を受けた臓器の抵抗値の上昇とともに電気メスは出力を低下させ、ある一定の深度・範囲にしかその効果が⾏き届きません。この部分を制御するのがいわゆるEffectという項⽬です。各種出⼒モードと、このEffect値の組み合わせによって術式に⾒合った効果を得るのです。「Effect値を変更する」=「許容される電圧の最⾼値を変化させる」 =「電気メスの効果に変化を持たせる」 このEffect設定によって変化する電圧は、「電気メス出⼒によって抵抗値が上昇した組織に電流を流すための⼒」と言えますので、⾼いEffect(電圧)設定はより深く広い効果が得られます。 術中に「もう少し出⼒を上げて欲しい」という医師の要望を受ける事も多いと思います。通常このような要望に対してみなさまはどのように対応するでしょうか。多くの⼈は「出⼒=設定ワット」という認識で出⼒ワットを変更するかもしれませんが、この変更が効くのは現在のEffect値で設定出⼒が出し切れている場合のみです。設定が50Wであったとしても、出⼒がそこまで届かないうちにEffect値によって制限を受けてしまっている事が多いです。このような時にいくら出⼒ワットの設定を上げたところでまったく意味がありません。変更しなければならないのはEffect設定です。これはERBE社製の電気メス全般に⾔えることで使⽤者はこのような器械の特性を理解している必要があります。

では本題のソフト凝固はというと、そもそもの許容される電圧値が低く、その⼒は抵抗値が上昇した組織に電流を押し流すだけのパワーを持ち合わせていません。そのためEffectを⾼く設定することで当然凝固層は早くできますが、その凝固層を乗り越える⼒が出ないため狭く浅い層となります。逆にEffectを低くする事で凝固層の仕上がりに時間がかかるため抵抗値の上昇は緩徐となりその効果は広く深くなっていきます。では、これらの特性と組織の抵抗率を絡めて電気メスによって得られる効果を考えてみる事にします。電気抵抗はその対象物の容積によって変化しますが抵抗率は変化しません。上で⽰した臓器の順はあくまで抵抗率であり、抵抗値ではありません。たとえ抵抗率が低くともその体積によっては抵抗値が逆転する事もあるかもしれません。また、電気メスの効果を語る上で⽋かせないジュールの法則は電流値の2乗と抵抗、そして出⼒時間に⽐例します。つまり、電気メスで効果を得たい部位の体積やデバイスと臓器の間に介在するものによっては思わぬ抵抗値の違いが意図せぬ効果を⽣み出す可能性を含んでいるという事です。では今回ソフト凝固を使⽤したにも関わらず炭化と思わせる画像が⾒えた原因を考えてみたいと思います。ソフト凝固を使⽤する場⾯・・・、それは⽌⾎を⾏う時です。つまり臓器とメス先の間には⾎液が存在する場⾯です。抵抗率としては低い⾎液ですが、抵抗値はどうでしょうか。抵抗値は前述の通りその体積に関係(断⾯積に反⽐例し、⻑さに⽐例)します。これを出⾎にたとえると、その量や出⽅によって抵抗値は変動しそうです。また、⾎液は蛋⽩変性が起こり始める摂⽒65度程度で容易に固まります。ではソフト凝固とこの出⾎した⾎液の抵抗・温度の関係はというと・・・ ⾎液の抵抗率は低くとも出⾎した局所の抵抗値が低いとは限らず、さらにソフト凝固によって通常よりも⾼い電流が与えられた⾎液の温度は容易に上昇します。前述の通り、このソフト凝固は凝固によって上昇した組織を乗り越えるパワーを持ち合わせていないため出⼒を⽌めてしまいます。この特性はEffectが⾼ければ⾼いほど助⻑されます。 その結果、⾒た⽬は通常のスパーク凝固層に⾒られる炭化像が⾒えますが、実際には単に⾎液が凝固しただけの凝⾎像であり、その凝⾎層を乗り越えられない電気メスの出⼒は⽬的の出⾎部位には到達できていません。そうなると当然ソフト凝固特有の「確実」な凝固層が得られず、単に「凝固⾎によって蓋がされた傷」すなわち「かさぶた」となってしまっているのです。 この状態では⽌⾎そのものが完了していないため、容易に「かさぶたの剥れ=出⾎」を起こしてしまいます。ソフト凝固を使⽤しているのに炭化像がみられてしまう場合、それはもしかしたらソフト凝固の本来の効果が得られていない証拠なのかもしれません。

では、どうしたら「なんちゃって凝固」を回避し確実な凝固を⾏なう事ができるのでしょうか。 答えは簡単です。 電気メスの出力を⽬的の部位に確実に届けてあげればよいのです。 そのためにはどうするか・・・。 メス先と対象組織の間に何もない状態を作る・・・。 すなわちしっかりと⾎液を吸引した上で術野を”きれいな”状態にして出⼒するということです。 これはソフト凝固を⾏う上で推奨されている基本的な⼿技の一つです。しかし、実際には吸引しながら出⼒といっても吸引⼝と出⼒部位が異なるためなかなかうまくいかない場合もあります。ましてラパロ下での操作となるとなおさらです。そこでぜひお勧めしたいのがこれ・・・。 ご存知の⽅も多いと思います。

サクションボールコアギュレーターの全体写真

サクションボールコアギュレーターの先端拡大写真

その名もサクショボールコアギュレーター(通称SBC)です。写真はアムコさんから許可を頂きカタログから転載しました。このデバイスは名前の通り先端形状がボールであり、広い⾯積で臓器と接触できるため極端な電流密度の上昇を防いでくれます。これは凝固層を乗り越える事ができないソフト凝固にとっては⾮常に重要で、その効果を最⼤限引き出してくれます。さらにボール先端には吸引⼝が設けられており常に吸引が行える構造になっています。以下のイラストについてもアムコさんから許可を頂き転載させて頂きました。

サクションボールコアギュレーターを使用した新たな手技

⼀昔前ですとこの持続吸引によって気腹状態が損なわれるといった懸念もあったようですが、最近の気腹装置には腹腔内圧計測ラインが別に設けられておりその⼼配も必要ありません。つまり、先端を吸引しながら邪魔者(⾎液)を取り除き、⽬的部位には直接⾼い電流を与える事ができるという優れモノです。一昔前から広く利用されているソフト凝固・・・。 ただその特性も環境次第では⼿術操作を妨げるリスクとなってしまう可能性があります。その⼀つの指標として「ソフト凝固」=「炭化像」は「効果を発揮していないなんちゃって凝固」の可能性を⽰唆していると判断するのもありかもしれません。

 

 

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臨床工学部

TEL:0562-46-2311(代表)

E-mail:med-eng(at)ncgg.go.jp

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