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用手的人工換気に使用する物品について(バッグバルブ編)

今回は⽤⼿的⼈⼯換気の種類とその使い方について書かせて頂きます。⽤⼿的⼈⼯換気といえば、いわゆるアンビューバッグが頭に浮かぶ方が多いと思います。院内ではふつうに使⽤されているこの⾔葉ですが、実際の名前はバックバルブマスク換気です。アンビューバッグとはAmbu社の作ったバックバルブ換気⽤装置の事で、それを「AmbuBag」と呼んでいます。今回の説明では、この装置の事は「アンビューバッグ」と表現させて頂きます。そしてもう⼀つの⽤⼿的⼈⼯換気といえばジャクソンリース回路。これもJacksonReesさんが改良したTピース⿇酔法に使⽤する回路の事を指します。改めて考えると病院内って通称で呼ぶ事多いですね。意外と知らない本当の名前・・・。ジャクソンリース回路はメイプルソン回路といいますが、現在の認知度から⾔うとジャクソンリース回路が正式名称といってもよいかも知れません。しかし今回はあえて「メイプルソン回路」という表現を使わせて頂きます。どちらも用手的人工換気という意味では同じですが、その作動原理は⼤きく異なります。そのため実際に使用するにあたってはその原理や特徴を熟知しておかなければなりません。しかし、この2種類を一度に書くとなると中身が膨大になってしまうので、今回はこれら2つの⽤⼿換気装置の中でも「アンビューバッグ」について書かせて頂きます。まず第⼀に知っておかなければならない事。それは用手的に換気動作を行うにあたって駆動源を必要とするか否かです。駆動源といっても電源コンセントやバッテリーではありません。ここでいう駆動源というのは酸素等のガスの事を指します。

では早速アンビューバッグについて説明させて頂きます。アンビューバッグは送気逆流防⽌弁(空気取り込み弁)と⼤気開放 弁(呼気弁)が搭載されている⾃⼰拡張機能を有した⽤⼿呼吸補助装置です。吸気を⾏わせる際にバッグを押すと送気逆流防⽌弁と⼤気開放弁が閉じて患者側回路がオープンとなります。そのため、バッグ内の空気は患者に送られます。そして、バッグから⼿を離すといわゆる「⾃⼰拡張機能」によりバッグが膨らむのですが、膨らむ際には呼気弁が開いて肺内の空気が外に出されると同時に、バッグの後ろにある送気逆流防⽌弁から⾃動的にバッグ内に空気が取り込まれます。⾔葉で書いてもよく分からず・・・。では絵で説明してみます。まずは吸気です。

バックバルブ換気(吸気)の仕組みの図解

そして呼気。

バックバルブ換気(呼気)の仕組みの図解

いかがでしょうか。下⼿な絵で申し訳ありませんが、少しはイメージ頂けたでしょうか。つまり、アンビューバッグの場合は⾮再呼吸式⽤⼿換気という事になり、その駆動には⼈間の⼿があれば⼗分で、特にそれ以外の駆動源を必要としません。まさしく「機械の⼒」が「⼈間の⼿の⼒」に置き換えられただけの陽圧⼈⼯呼吸です。絵にも描きましたように、このタイプの装置で⽤⼿換気を⾏う場合、吸気に関してはバッグを押した⼈の感覚、そして呼気の制御を⾏っているのは⾝体の⾃然な⼒(胸郭および肺の⾃然弾性収縮⼒)と⼤気に解放される弁の動きのみになります。そのため当然の如くPEEPの付加は出来ません。またバッグを押す事で吸気弁が開き、はじめて気道内と繋がりますので⾃発呼吸の有無を知る事もできませんし「マスクをのせている」または「気管チューブに接続している」だけでは、たとえ酸素添加をしていてもその酸素が患者側に流れる事はありません(呼吸できません︕︕︕)。ごく稀に、酸素添加してマスクを付けたアンビューバッグを顔に乗せて呼吸をさせている中濃度マスクの様な使い⽅を散⾒しますが、これはまったく意味がありませんので注意が必要です。酸素を流していてもその酸素は患者さんへ流れる事は無く大気中に放出されています。吸気弁が開いてないので当然です。

次に⾼濃度酸素投与が必要な場合を考えてみます。アンビューバッグに酸素を付加する場合はバッグの後ろにある酸素ポートに酸素流量計からのラインを接続しますが、上の絵にありますように次の吸気に使われるガスが取り込まれるのはバッグを放した際の⾃⼰拡張の僅かな時間だけです。アンビューバッグは当然の事ながら自己拡張の時間を制御できる訳ではありませんので、吸気に使用される酸素を取り込める時間は1秒程度でしょうか。つまりそれ以外の時間に流れている酸素は⼤気中に垂れ流し状態・・・。このような状態では⾼濃度酸素の投与は不可能です。以下は当方が以前、酸素濃度計と換気量計を接続してテスト肺にて換気を行わせた際の酸素流量と換気量、そして吸入酸素濃度の関係を実測した値になります。

酸素添加を行って換気量を変化させた場合の吸入酸素濃度の変化の実測

いかがでしょうか。当然と言えば当然の結果です。「換気量が少ない」=「取り込まれる酸素の割合が増える」、つまり酸素濃度は高くなる。一回換気量が増えればバッグが元に戻る時間が増えるため酸素を取り込む時間は若干延長します。しかし、換気量に対する酸素の割合は減少しますので結果として酸素濃度は減少します。この結果からも、得られる酸素濃度はアンビューバッグの自己拡張の時間の変化よりも、送り出す一回換気量の変化に大きく影響を受けるという事が理解できると思います。いずれにしてもこのままでは高濃度酸素の投与は不可能です。高濃度酸素を投与したい場合は、⾃⼰拡張の際にほぼ100%の酸素をバッグ内の取り込み、それをそのまま吸気として送り届ける必要があります。そのためにはどうするのか・・・ 答えは簡単です。リザーバーバッグを空気取り⼊れ⼝に接続してそこを⼤量の酸素で満たしておけば、⾃⼰拡張の際に取り込まれるガスはリザーバー内に限られます。またそのリザーバーが⼗分量の酸素によって充填されて(膨らんで)いれば、ほぼ100%の酸素をバッグ内に取り込む事が可能となります。その状態を作ることが出来れば換気量の変化に関係なく⾼濃度の酸素投与が可能となるはずです。

リザーバーバッグを取り付けて行う用手換気

アンビューバッグを使用する際に高濃度酸素投与を必要としないシチュエーションとはどのような場面でしょうか。バッグによって換気が維持されている以上中途半端な濃度の酸素よりも高濃度酸素でしっかりと換気を行わせて体内の酸素化を優先すべきだと思います。そのためにもすべてのアンビューバッグにリザーバーバッグは付けるべきだと考えています。ちなみに当センターは現在すべの部署でディスポタイプのアンビューバッグを使用しており、もれなくリザーバーバッグが付いていますので、いつでも高濃度酸素投与は可能です。しかし現在販売されている商品の中にはリザーバー自体がオプションとして販売されており取り外しができる製品もありますが自分的にはリザーバーバッグは必須であると思います。

アンビューバッグの構造はとても単純で、誰でもすぐに空気を送る事ができます。しかし私はこれがアンビューバッグの最大の利点でもあり欠点でもあると考えています。「誰もが簡単に扱える」物ほど危険です。「誰が使用しても安全で簡単に扱える」ではなく、「誰でも簡単に空気を送り込むことができる」だけだからです。たいした指導を受けなくとも”扱える”という認識を持ってしまいます。この感覚は非常に危険です。これは医療の現場だけではなくさまざまな分野に共通している事だと思いますが、たいした指導も受けずに使用出来てしまう事を”使える”と勘違いしてしまうからです。私は一部の人間にしか扱えない機械ほど安全性は高いと考えています。今回のアンビューバッグを例にとると、各部に取り付けらた弁や自己拡張型のバッグの硬さが邪魔をして気道内圧や自発呼吸の有無を感じ取る事ができませんので、 ⼤抵の場合は「たくさんの空気を送りすぎ」 「気道内圧を⾼くしすぎ」 「肺に負担かけすぎ」「自発呼吸とのファイティングを起こす」の結果を招いてしまいます。簡単に空気を送れてしまうからこそのリスクを十分に理解する事はとても重要です。アンビューバッグって⽋点しかないのか・・・ はい、個人的にはあまりよい点は思い浮かびません。 あえて挙げるとするならば、誰でも確実に空気を送る事ができる。という事ぐらいでしょうか。⽤⼿換気装置ですのでそれが⼀番重要なのかもしれませんが、その最大の目的を安全に達成するためにも原理や特徴をしっかりとマスターし、練習を行った上で実施する事が重要だと思います。臨床工学部では、はじめてアンビューバッグを使用するスタッフを対象に、テスト肺と換気量計を使用した模擬患者を作り、バッグの押し方による換気量と圧、肺の膨らみ方の違いを身をもって体験して頂いています。このような地味な活動が安全な呼吸管理に役立つことを願いながら・・・。次回はもう一つの用手的人工換気装置、メイプルソン回路について書かせて頂きます。

 

 

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TEL:0562-46-2311(代表)

E-mail:med-eng(at)ncgg.go.jp

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