本文へ移動

病院

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

 

外来診療・時間外診療・救急外来 電話:0562-46-2311

ホーム > 病院 > 病院について > 組織 > 臨床工学部 > 臨床工学部 Blog > ペースメーカーの補助機能を考えてみる・・・

ペースメーカーの補助機能を考えてみる・・・

今回はペースメーカーの機能について書いてみたいと思います。ペースメーカーといってもさまざまなメーカーからいろいろな機種が発売されており、一度植込みを行うと約10年間は使用しますので、その間に新機種が発売されている事がほとんどです。そのため、実際の臨床ではさまざまな年代・メーカー・機種が混在しており植込み後のフォローアップを行うには多種多様な知識が必要となります。今回はそんな中でも「できるだけ最小限のエネルギーで心臓に電気刺激を行う事によって電池寿命を最大限に引き出し、かつ安全に心臓の閾値変化に追従できるよう自動的に出力エネルギーを変動させる機能」についてお話しさせて頂きます。さまざまなメーカーに搭載されている本機能ですが、メーカー毎、さらに機種毎にその動きは異なりさまざまなアルゴリズムのもとで作動しております。今回は「Medtronic」社製の機種に搭載された「RV Capture Management(RVCM)」について今後の希望も含めて書いてみたいと思います。といっても詳細なアルゴリズムを解説する訳ではなく、「こうあるべきでは??」と思った事について書かせて頂きます。

まずは簡単な作動説明ですが流れはこんな感じです。

  1. 午前1時(作動モードによって若干の違いはありますが)にテストを安全に実施するためのリズムチェックが行われる。
  2. リズムチェックが終了し、テストを行える条件が満たされた場合、前回チェック時の結果に基づき今回行われるテストの刺激強度とリズムが決定される。
  3. 決定された刺激強度・リズムにてテストが実行され「Capture」または「Loss of Capture」が自動判別され、刺激閾値が決定される。
  4. テストで得られた刺激閾値に対して、医療者側で設定した「安全マージン」「許容最低刺激強度」を加味した値が自動的に設定される。
  5. 毎日この動きを繰り返して安全なペーシング治療を継続する。

以上が、この機能の簡単な流れとなります。ここで注目したいのは「刺激強度」です。心筋組織への刺激強度(エネルギー)とは、「電圧」「抵抗」「刺激時間」で規定されます。この中で「抵抗」は意図的に変更できるものではなく、リード線や心筋組織の状態、または組織との接触状態により恣意的に変動します。この恣意的な変動に対して、常に安全にペーシング治療を継続できるよう維持するための機能こそが、この出力自動調整であると理解しております。

次に電気的エネルギーに対する心筋組織の反応の特性を考えてみます。心臓電気生理に携わっている方なら聞きなれている「レオベース」と「クロナキシー」。レオベースとは、刺激時間(パルス幅(msec))を無限大にした際に心筋を刺激するのに必要な最小電圧(V)であり、1.0msec以上延長しても見かけ上のエネルギー値は上昇しますが刺激閾値に変化は無く電圧はそれ以下にはならないと言われています。クロナキシーとはレオベースで得られた電圧値を2倍にした時のパルス幅とされており、もっとも効率よく心筋組織を刺激できるエネルギー値(電圧と刺激時間の関係)とされています。

心筋の刺激閾値の関係を表したグラフ

すなわち心臓を電気刺激する上で「電圧」と「刺激時間」は切っても切り離せない関係である事がよく分かります。このような関係を持ったエネルギー値と心臓の刺激閾値の関係を機械が自動的に導き出す訳ですから、それはすごい機能である事は言うまでもありません。ただ、本来この機能はどのような方を対象にした機能なのでしょうか。個人的には、心筋変性の亢進や抗不整脈薬の使用により心筋の電気エネルギーに対する閾値が変動して、電気刺激に対する反応に不安を感じる場合などに状況に応じて設定を変化させてくれるこの機能を使用する事で、より安全で確実なペーシング治療が可能になると理解しております。

あたりまえの内容にはなってしまいますがこのような植込みデバイスを管理する上で気を付けている事は・・・

  1. 安全で確実な治療を提供する。
  2. (1)を担保した上でできる限りバッテリーを長持ちさせて交換手術の頻度を落とす最適な設定を見出す。
  3. 生活のすべての場面において違和感のない快適なペーシング治療を提供する。

ずっと見張っている事ができない分、代わりに機械の機能を有効に利用して安全を担保する。その一つの補助手段が上記の自動調整機能だと考えています。これらの考え方を踏まえて、RVCMの実際の動き方を見てみると・・・。

パルス幅を0.4msecに固定して電圧閾値のみを計測、そしてそこで得られた値に対して医療者側で設定した安全マージン等の条件を満たすように最低電圧に調整される。確かにパルス幅0.4msecの電圧値とは前述の「クロナキシー」に近似する値であり、この時の電圧値が心筋に対してもっとも効率のよいエネルギーなのは分かります。でも待ってください。場合によって(必要とする刺激電圧が高いなど)は、バッテリー特性を加味して電圧を低く抑え、あえてパルス幅によってマージンを確保してバッテリー寿命を優先する。あるいは横隔神経や横隔膜興奮が起きないようにあえて刺激電圧を低く抑えてパルス幅を長くする事でエネルギー値を担保するなど、電圧ではなくパルス幅を変更して管理を行う事もあります。そしてこういった場合にこそ自動調整を効かせたい時もあると思います。そこでパルス幅を0.4msec以外に設定した場合のエネルギーの自動調整機構を調べてみると・・・。

出力自動調整機能を説明したテクニカルマニュアルの抜粋

純粋な日本語解釈であれば、パルス幅が0.4msec以外に設定されている場合、閾値テストは0.4msecで行われるが最終セッティングは0.4msec以外の設定した値となり、電圧値だけがテスト結果によって変動すると読み取れます。でも実際の作動はというと、0.4msec以外に設定していた場合でもテストが終了すると強制的に0.4msecになる・・・。この作動は何を目的にした動きなのか自分には理解できません。

当センターの定期外来で実施している閾値テストは、自動チェックによって得られた値が適正に判断されたものなのかのチェックも行っています。自動チェックはあくまで機械の勝手なアルゴリズムに基づいて行われた結果であり100%正しい値とは言い切れません。そこでわれわれは、外来のたびにマニュアルによるパルス幅閾値テストを実施して、そこで得られたエネルギー値と自動チェックにより得られたエネルギー値を比較検討し、これをもってはじめて機械の自動機構が問題なく働いていると判断します。その上でより最適なプラスアルファの設定を検討します。それなのにパルス幅が強制的に0.4msecに変わってしまう。それを避けたいのであれば自動機能を「OFF」、もしくはモニタリングのみ実施して設定には反映させない「Monitor」に設定する・・・。これってどうなんでしょうか。個人的には、病院が設定したパルス幅で電圧閾値テストを実施し、設定したパルス幅を踏襲した上で電圧設定が行われる方が扱いやすいです。もしそうじゃないとしてもせめて自動閾値テストが終了したら自動変動する項目以外のパラメータは病院が行った設定に戻って欲しいと思います。医療者側の設定を無視して機械が勝手に設定を変更するのは少し違和感を感じてしまいます。だってテクニカルマニュアルにもそのような事は書いてないのですから・・・。

 

 

お問い合わせ先

臨床工学部

TEL:0562-46-2311(代表)

E-mail:med-eng(at)ncgg.go.jp

セキュリティの観点から@は表記していません。(at)は半角@に変換して読み替えてください。

病院