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「筋肉量推定式」から推定した筋量低下が入院患者の死亡や入院中のFrailty（虚弱）悪化と関連していることを確認

2025年12月3日

国立研究開発法人　国立長寿医療研究センター

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター（理事長：荒井秀典、以下「国立長寿医療研究センター」）老年内科部の研究チーム、宮原周三、前田圭介、佐竹昭介らは、名古屋大学・東京大学・大阪大学との多施設共同研究において、年齢、性別、身長、体重で構成される簡便な筋量推定式を用い、推定された筋量低下が高齢入院患者の死亡および入院中のFrailty（虚弱）悪化と関連することを明らかにしました。

この研究成果は、学術誌 Archives of Gerontology and Geriatrics に掲載されました。

研究背景

高齢者において筋量の減少は、転倒や身体機能低下、Frailty（虚弱）など、さまざまな健康障害と関連し、健康寿命の短縮をもたらすことが知られています。

筋量の評価は、二重エネルギーX線吸収法（Dual-energy X-ray Absorptiometry：DXA）や生体電気インピーダンス法（Bioelectrical Impedance Analysis：BIA）などの専門機器を用いることが推奨されていますが、費用や設備面での制約があり、すべての患者さんに実施することは困難です。

そのため、特別な機器を必要としない簡便な筋量評価法の探索・開発が進められてきました。

その代表的なものの一つが、さまざまな指標を用いた「筋量推定式」です。国立長寿医療研究センターでは、本研究に先立ち、日本人高齢者を対象に、DXAで評価された筋量と高い一致度を示す推定式を確認し、その成果を報告しました¹。

しかし、同研究では、DXAとの高い一致を確認したものの、式により推定された筋量が、実際の健康状態の悪化や予後とどのように関係するかまでは明らかにするには至りませんでした。そこで本研究では、これらの推定式によって算出された筋量低下が、高齢者の予後にどのように関連するかを検証しました。

主な研究結果と概要

本研究は、国立長寿医療研究センター、名古屋大学、大阪大学、東京大学による多施設共同前向き観察研究（J-HACプロジェクト）の一環として実施されました。

対象は先述の4つの機関に入院した65歳以上の患者さんです。年齢・性別・身長・体重といった基本的な情報のみで構成される4種類の推定式を用いて筋量を算出し、その推定筋量と死亡およびFrailty（虚弱）悪化との関連を検証しました。Frailty（虚弱）については、国際的にも広く用いられている「Clinical Frailty Scale」を用いて評価をしました。

その結果、推定筋量が低い患者では、入院中および退院後3か月以内の死亡リスクが約2倍高いことが明らかとなりました。また、推定筋量が低い患者では、入院中のFrailty（虚弱）悪化とも有意に関連していました。

これらの結果から、年齢・性別・身長・体重といった基本情報だけで算出される簡便な推定式による筋量評価が、高齢入院患者の死亡やFrailty（虚弱）悪化といった短期予後を予測できることが明らかになり、予後予測の観点の有用性が示されました。

今後の展望

今後は、この推定式を病院や地域での健診など、さまざまな現場で広く活用することにより、早期のリスク把握や予後予測、リハビリテーション・栄養介入の計画立案に役立てることが期待されます。

機器を用いた筋量評価が推奨されるものの、すべての人に機器を使用することは医療資源の面から現実的ではありません。特に入院患者では、全身状態が不安定な場合や移動にリスクを伴う場合などの理由から測定が困難なこともあります。

本研究で評価した筋量推定式は、入院時にほぼルーチンで取得される基本情報に基づいており、患者さんへの追加の負担をかけずに評価できるという利点があります。

これまでの研究で、急性期入院患者さんにおける筋量評価の実施率が低いことが報告されています²。簡便に評価できる推定式を活かして、筋量評価の普及に貢献できる可能性があります。

サルコペニア、低栄養などの高齢者に大きく関わる問題の診断評価には筋量評価が必須です。筋量評価の普及は、多くの高齢者の健康寿命延伸と生活の質（QOL）の維持に貢献できることが期待されます。

引用文献

1. Miyahara S, Maeda K, Satake S, Akatsu H, Arai H. Validation and applicability of appendicular skeletal muscle mass estimation equations in a geriatric hospital setting. Clin Nutr ESPEN. 2025;69:216-224. 
2. Maeda K, Egashira F, Ueshima J, Horikoshi Y, Kamoshita S; Japanese Working Group on Integrated Nutrition for Dysphagic People (JWIND). A survey of the Nutrition Care Process in Japanese acute care hospitals using a nationwide web-based questionnaire. Asia Pac J Clin Nutr. 2024;33(4):515-528. 

論文情報

論文タイトル

Prognostic value of low estimated appendicular skeletal muscle mass in hospitalized older adults: A multicenter prospective observational study

著者

Shuzo Miyahara, Keisuke Maeda, Shosuke Satake, Masaaki Nagae, Hirotaka Nakashima, Yasushi Takeya, Yumi Umeda-Kameyama, Hiroyuki Umegaki

掲載誌

Archives of Gerontology and Geriatrics 

掲載年月

2025年11月  

DOI

https://doi.org/10.1016/j.archger.2025.105958

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業からの研究助成を受けて実施されました。

© National Center for Geriatrics and Gerontology