2025年7月30日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
~心房細動の入院率およびカテーテルアブレーション実施率の分析より~
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(NCGG)(理事長:荒井秀典)の病院(病院長:松浦俊博)循環器内科部の研究チーム上原敬尋、清水敦哉らは、日本における心房細動#1の入院率およびカテーテルアブレーション#2実施率の地域差について、気候的・社会経済的要因との関連を分析した研究結果を日本循環器学会公式英文誌Circulation Reportsで発表しました。
日本は、高齢化が最も進んでいる国です。高齢化に伴い、心房細動という心臓病を患う人が増えています。以前心房細動は治すのが難しい病気でしたが、最近では「カテーテルアブレーション」という治療法が進歩し、多くの人を治すことができるようになりました。
日本では、国民皆保険制度により誰もがどこにいても必要な医療を受けることができます。しかし、我々は「住む地域によって、カテーテルアブレーション治療を受けられる機会に差があるのではないか?」という疑問を持っていました。そこで、今回の研究では、これらの地域差の有無とその要因について、国勢調査、入院医療費計算データ、不整脈心電学会の統計データを用いて解析しました。
はじめに、心房細動で入院する人の割合には、地域による大きな違いは見られませんでした。心房細動は心臓病の1つですので、「寒冷地域のほうが心房細動になりやすい」と思われるかもしれませんが、この研究では、北海道、東北地方などの寒冷地域で、心房細動により入院する人が有意に多いという結果は出ませんでした。このことから、心房細動の原因には、気候以外のさまざまな要因が大きく影響していることが考えられました。
一方で、不整脈専門医の数はカテーテルアブレーションの実施数と関連がありました。
さらに、不整脈の専門医が増えるほど、その地域でカテーテルアブレーションを受ける人が増えますが、心房細動で入院する人は他の地域とほぼ同程度であるということも明らかとなりました。したがって、必要な患者さんに専門医がカテーテルアブレーションを用いて治療すればするほど、心房細動による入院が減る可能性があると考えました。
今回の研究で、日本における心房細動の治療の地域差は、単に気候や地理的要因ではなく、不整脈の専門医の存在が、日本の全ての地域で公平な治療を実現する上で、非常に重要な要因であることが強く示唆されました。
今後は、今回の研究で得られた知識をもとに、日本中で心房細動の治療を、より多くの人が公平にかつ適切に治療を受けることができる仕組みづくりの立案に貢献していきたいと考えています(上図)。
なお、本研究成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号: 24K19046)の研究助成を受けて実施されました。
本研究成果は、科学専門学術誌「Circulation Reports」に掲載されました。
Kamihara T, Kaneko S, Omura T, Hirashiki A, Kokubo M, Shimizu A. Regional Disparities in Atrial Fibrillation Catheter Ablation Based on the Japanese National Survey. Circulation Reports. 2025 doi:10.1253/circrep.CR-25-0025
国立長寿医療研究センター病院 循環器内科部 上原敬尋
国立長寿医療研究センター総務部総務課 総務係長(広報担当)
〠474-8511 愛知県大府市森岡町七丁目430番地