2025年7月1日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
~ テキストマイニング分析とバイオインフォマティクス解析を組み合わせたアプローチによる解析 ~
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(NCGG)(理事長:荒井秀典)の病院(病院長:松浦俊博)循環器内科部の研究チーム上原敬尋、清水敦哉らは、テキストマイニング#1(定性データ分析によりトレンドを可視化)とバイオインフォマティクス#2(生命情報学)解析を組み合わせた革新的なアプローチにより、これまで不明瞭だったサルコペニアの病態メカニズムに関して、サルコペニアの生理的老化との相違点を明らかにしました。
サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量と筋力低下を特徴とし、国際疾病分類にも登録されています。しかし、高齢者における筋肉量・筋力低下はすべて生理的な老化による低下ではなく、その他の原因が関係するとされています。
本研究は、2万3千件以上のサルコペニア関連論文のテキストマイニングと、サルコペニア患者と健常高齢者の遺伝子発現データの詳細な比較解析を組み合わせることで、以下の重要な知見を得ました。
テキストマイニング分析(下図のように視覚的に情報をとらえることができる)により、サルコペニア研究においてミトコンドリア、酸化ストレスなどが特に注目されている主要なメカニズムであることが示されました。
このようなトレンド(注目されている主要なメカニズム)を踏まえて、以下の2点について、更に解析しました。
サルコペニア患者と非サルコペニア高齢者の両方で共通して発現が変化している16個の遺伝子(遺伝子にコードされた情報が通常とは違う機能に変化するという意味)が特定されました。これらの遺伝子は、免疫系と筋肉を繋ぐ重要な分子である「インターロイキン-7(IL-7)に対する細胞応答(細胞が外部からの刺激により様々な反応や変化を示すこと)」に関与していることが示唆されました。すなわち、加齢によってIL-7関連経路の機能が影響を受けることが、サルコペニアと老化に共通するメカニズムである可能性があります。
一方、サルコペニアで特異的に変化している1361個の遺伝子の解析から、NADPHオキシダーゼ(NOX)#3関連遺伝子の亢進が確認されました。
これは、サルコペニアの病態が、酸化ストレス調節の異常、特にNOX関連経路の機能不全が伴う可能性を示唆しています。
本研究は、サルコペニアが加齢による変化に加えて、酸化ストレス調節に関わる特定部位の機能変化に起因した独立した疾患である可能性を示唆しています。特に、NOX関連遺伝子の関与という新たな知見は、サルコペニアの新しい診断マーカーや治療標的の開発に向けた貴重な手掛かりとなると考えられます。
この研究の成果は、サルコペニアの複雑な病態を解明することに役立つのみならず、将来的な高齢者の筋肉量・筋力低下を効果的に予防・治療するための新たな介入戦略の開発に貢献すると期待できます。
なお、本研究成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号: 24K19046)の研究助成を受けて実施されました。
本研究成果は、科学専門学術誌「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されました。
Kamihara T, Omura T, Shimizu A. Deciphering the relationship between sarcopenia and aging: A combined text mining and bioinformatics approach. Geriatr Gerontol Int. 2025 Jun;25(6):806-814. doi: 10.1111/ggi.70042.
循環器内科部 上原敬尋
国立長寿医療研究センター総務部総務課 総務係長(広報担当)〠474-8511 愛知県大府市森岡町七丁目430番地