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高齢化時代における関節リウマチ診療―当センターの治療方針―

 病院レター第122号 2026年5月1日

整形外科医師 佐藤良

 近年、関節リウマチ(RA)治療は大きく進歩し、早期診断と適切な薬物治療により寛解を目指すことが可能な疾患となりました。一方で、高齢化社会の進展に伴い、高齢発症RAや長期罹患RA患者の増加がみられ、併存症や感染症リスクを考慮した包括的な診療が求められています。
 当センターでは、高齢者医療の経験を活かし、薬物治療と外科治療の両面から関節リウマチ診療に取り組んでおります。本稿では、当院におけるRA診療の特徴についてご紹介いたします。

1.関節リウマチ診療の現状

 RAは、わが国で約1%(およそ70から80万人)が罹患するとされる代表的な自己免疫性疾患であり、関節の腫脹や疼痛をに加え、炎症が持続すると骨びらんや関節破壊を来し、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を与える疾患です。また、RAは滑膜炎を主病変とする疾患ですが、本質的には全身性炎症性疾患として理解する必要があります。慢性的な免疫異常は関節滑膜にとどまらず、肺・血管・心臓など全身臓器に炎症を波及させ、多彩な関節外症状を引き起こします。実際、関節外症状はRA患者の約40%に認められると報告されており、罹病期間が長くなるほどその頻度は高くなることが知られています。

 近年はメトトレキサート(MTX)を中心とした疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)に加え、生物学的製剤やJAK阻害薬などの分子標的治療の登場により治療成績は大きく向上しました。早期から適切な治療を開始することで、関節破壊の進行を抑制し、寛解に到達することも十分に期待できる時代となっており、寛解または低疾患活動性に到達する患者は約80%に達すると報告されています。しかしながら、薬剤による合併症や感染症リスク、併存疾患などの問題もあり、依然として疾患活動性が十分に抑制されないかたが一定割合存在し、RA診療には依然としてunmet needsが残されています(図1)。

 さらに、わが国では高齢化の進展に伴い、高齢発症RA(late-onset RA)や長期罹患RA患者が増加しています(図2)。高齢発症RAでは、急性発症で肩や膝などの大関節炎を呈することが多く、リウマチ性多発筋痛症(PMR)やRS3PE症候群などの疾患との鑑別に苦慮する症例も少なくありません。また高齢RA患者では、心血管疾患、腎機能障害、呼吸器疾患などの併存症を伴うことが多く、感染症リスクやフレイルの問題も加わるため、単なる炎症制御にとどまらず、ADLや生活機能の維持を含めた包括的な診療が求められます。

 このようにRA診療は大きく進歩した一方で、全身性炎症疾患としての側面や高齢化に伴う新たな課題も明らかとなっており、早期診断・適切な薬物治療に加え、併存症管理や関節外症状への対応を含めた総合的な診療がますます重要となっています。

メトトレキサート(MTX)を中心とした疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、生物学的製剤やJAK阻害薬などの治療薬を使用した結果のグラフ。 その治療成績は、大きく向上しています。 その一方で、疾患活動性が十分に抑制されず、unmet needs (治療薬が存在しなかったり、既存の治療効果が不十分あること)が残されています。

図1 関節リウマチ治療の進歩と疾患活動性の変化と年齢別関節リウマチ治療の実態

近年の関節リウマチ患者は、男性より女性の方が約3倍多く 年代別に見てみると10代ではほとんど見られませんが、30代で増え始め 70代でピークを向かえ、その後減少していきます。 平均発症年齢は、2002年では、全体平均年齢が52.3歳 2015年では、54.3歳で、年々遅くなっています。

図2 近年の関節リウマチ患者の年齢分布

2.当院における薬物治療

 当センターでは、関節リウマチ診療ガイドライン2024(図3)に示されるTreat-to-Target(T2T)戦略に基づき、疾患活動性を定期的に評価しながら治療を段階的に最適化することを基本方針としています。MTXを中心としたcsDMARDs治療を基盤とし、治療開始後3か月での改善および6か月以内の治療目標達成を指標として、効果不十分例には生物学的製剤やJAK阻害薬などの分子標的治療を適切に導入しています。

 一方で、当センターでは高齢発症関節リウマチ(RA)や長期罹患患者が多く、併存症や加齢に伴う臓器機能低下の影響により、ガイドラインに基づく標準的な治療がそのまま適用できない症例も少なくありません。特に高齢患者では、腎機能障害や肝機能障害、呼吸器疾患、低栄養などを背景に、MTXの使用が困難・十分量の投与ができないケースがしばしば認められます。このような症例では、全身状態や生活背景を踏まえた柔軟な治療方針が重要になります。当センターでは、疾患活動性のみならず、併存疾患やADL、感染リスクなども総合的に評価しながら治療方針を決定しています。

 具体的には、腎機能・肝機能や呼吸器疾患の状態に応じてMTXの使用可否・減量・中止の判断を適切に行い、他のcsDMARDsによる治療やMTX非併用での分子標的薬を慎重に導入しています。また、ワクチン接種の確認と推奨、定期的な血液検査や画像評価などを行い、安全性に十分配慮した診療を心がけています。高齢のRA患者さんでは「強い治療ができない」と考えられがちですが、適切に患者背景を評価し治療を選択することで、無理のない範囲で良好な疾患コントロールを得ることが可能です。当センターでは今後も、地域の先生方と連携しながら、安全性と有効性のバランスを重視したリウマチ診療を提供してまいります。

フェーズは3段階になっており、治療開始後3か月で改善が見られなければ治療を見直し、積極的な治療を考慮します。

 図3 関節リウマチ診療ガイドライン2024

3.外科的治療

 薬物治療の進歩によりRAの炎症制御は大きく改善し、実際にRAによる大関節手術は減少していますが、その分純粋に加齢に伴う変形性関節症(OA)は増加しております(図4)。

人工膝関節および人工股関節のグラフです。 薬物治療の進歩によりRA(関節リウマチ)の数は減少。 OA(変形性関節症)は加齢に伴い増加傾向にあります。

図4 人工膝関節および人工股関節置換術を受けた関節リウマチ患者の数と年齢に関する推移:変形性関節症との比較

 また、既存の関節破壊による疼痛や機能障害が残存する症例は未だ少なくなく、ガイドラインにも記載がある通り手術も含めた非薬物療法も非常に重要です(図5)

非薬物治療において、フェーズは2つに分かれています。 保存的治療が無効または不十分な場合、手術を含めた治療を考慮します。

図5 関節リウマチ診療ガイドライン非薬物治療・外科的治療アルゴリズムと最近のRAにおける手術の動向

 当センターでは整形外科関節科が中心となり、人工膝関節置換術や人工股関節置換術などの関節再建手術を含めた外科治療にも対応しています。また、今後は機能温存を目指した前足部の変形(外反母趾、足趾変形)に対する手術も行っていく予定です。当院でリハビリテーションも連携させた包括的な治療体制を整えており、疼痛の改善や歩行能力の回復など患者の生活の質の向上を目指しています。

4.おわりに

 RA診療では、早期診断と適切な薬物治療に加え、長期的な関節機能の維持や併存症管理を含めた包括的な診療が重要です。特に高齢RA患者では、多くの併存症を背景に薬物療法による有害事象のリスクが高く、高齢者特有の問題への配慮が不可欠となります。

 また、たとえ薬物治療により疾患活動性が良好にコントロールされていたとしても、骨粗鬆症、変形性関節症、脊椎疾患、サルコペニアなど加齢に伴う運動器疾患の影響により、ADLやQOLが低下する症例は少なくありません。そのため、今後のRA診療においては「炎症性疾患」としてのみならず、「運動器疾患」として捉えた包括的なアプローチがますます重要になると考えられます。

 当センターでは、診断目的の紹介や治療方針の相談のみでも対応しております。診断確定後には地域の先生方へ逆紹介し、共同でフォローさせていただく体制も整えております。関節痛や関節腫脹が持続する症例、薬物治療に難渋している症例、機能障害に伴い外科的治療が必要と考えられる症例などがございましたら、ぜひお気軽にご紹介いただければ幸いです。

参考資料

  1. Nin Ja(National Database of Rheumatic Diseases in Japan)   より引用
  2. Nakajima A,et al.;Int.J.Rheum.Dis.2020;23:1676–1684.より作図
  3. 関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂.診断と治療社
  4. Clin Rheumatol Rel Res,33:6~13.2021
  5. Asai S,et al.Mod Rheumatol.2021May;31(3):768-771
  6. Matsumoto T.et al J Rheumatol.2017;44(11):1575-82

 長寿医療研究センター病院レター第122号をお届けいたします。

 今回は関節リウマチに関する課題について、整形外科医長佐藤良先生に執筆していただきました。本稿は、治療の進歩により寛解が目指せる時代となった一方で、高齢化に伴い複雑化する関節リウマチ診療の現状と課題をわかりやすく示した内容となっています。

 当センターでは、薬物療法を基盤に外科的治療やリハビリテーションを組み合わせて、併存症や生活機能にも配慮した包括的な診療を行っています。今後も中部圏のナショナルセンターとして、地域の医療機関・介護施設の皆様と連携しながら、高齢者の関節リウマチ診療の質向上に努めてまいります。

 診断に迷う症例や治療に難渋する症例、機能障害を伴う症例などがございましたら、ぜひ当センターへご相談ください。

病院長 松浦俊博