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認知症について最近の話題:抗体薬治療と認知症の新規リスク

病院レター第120号 2026年1月1日

もの忘れセンター
副センター長 佐治直樹

 国立長寿医療研究センターでは、もの忘れセンターを2010年に開設し、沢山の患者さんを近隣の医療機関からご紹介いただいています。このレターでは、認知症について最近の話題をお伝えいたします。

 2023年に新しい治療法が保険適応となり、薬剤の選択肢が広がりました。 また、2024年には、2つの認知症のリスク因子が世界保健機構(WHO)によって新たに定義されました。

 今回は、この2つの話題を提供いたします。

1.抗アミロイドβ抗体薬

 アルツハイマー病では、アミロイドβ(異常蛋白)が脳に蓄積した結果、認知症を発症すると言われています。このアミロイドβを標的にした抗体療法が実用化されました(表1)1,2)。アルツハイマー病による軽度認知障害から軽度の認知症が治療対象です。適応となるMMSE(簡易認知機能評価スケール)の範囲が定められていること、脳MRI画像で小さな脳出血(脳微小出血)が5個以上ある場合は使用できません。MMSEの点数が基準を下回ってしまうと抗体薬治療は適応外となりますので、認知機能障害を疑う場合は早めにご紹介いただきますと、治療の可能性が広がります。

表1.抗アミロイドβ抗体薬の概要

薬剤 レカネマブ ドナネマブ
承認・保険適用 2023年 2024年
作用機序 抗Αβ免疫グロプリンG1(IgG1)モノクローナル抗体
使用可能な病期 アルツハイマー病による軽度認知障害/軽度認知症
年齢(試験内容) 50から90歳 60から85歳
適応となる認知機能(MMSE* 22から30 20から25
適応となる認知機能(CDR* 0.5から1(記憶スコアが0.5以上)
Αβの確認 必須(ΑβPETまたは髄液)
ApoE4キャリア ARIAリスクや中止率↑
臨床的除外基準 ARIAの既往、MRI禁忌等
画像的除外基準 血管原生脳浮腫、5個以上の脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症または1cmを超える脳出血
投与頻度・時間 2週間に1回、1時間 4週間に1回、30分

2.認知症の予防

 著名な科学雑誌「Lancet」から、修正可能な認知症のリスクについての論文が出版されています(図1)3,4,5)。2024年版では「高LDLコレステロール血症」と「視力障害」が新しい因子として追加され、修正可能な認知症リスクが45%あるとされています(図2)。また、2017年から2024年版までアップデートを重ねるにつれて、中年期のリスクに注目した内容となっています(図3において、中年期のリスクを示す円サイズが徐々に大きくなっている)。 

【若年期】教育不足5%【中年期】難聴7%、脂質異常症7%、うつ3%、外傷性脳損傷3%、身体府活動2%、糖尿病2%、喫煙2%、高血圧2%、肥満1%、飲酒過多1%【高齢期(65歳以上)】社会的孤立5%、大気汚染3%、視力障害2% Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.

図1.認知症の修正可能な危険因子

 

リスク数中年期:Lancet2017は3項目、Lancet2020は5項目、Lancet2024は10項目。リスク数高年期:Lancet2017は5項目、Lancet2020は6項目、Lancet2024は3項目。

図2.Lancetレポートの変遷

この論文で示された認知症予防のための推奨項目をまとめました(表2)。

 表2. 修正可能な認知症リスクへの推奨項目

認知症を予防するための推奨項目

  1.  高等教育を担保し、中年期の認知活動を維持する。
  2.  騒音暴露を避け、難聴になれば補聴器を装用する。
  3.  うつ病を効果的に治療する。
  4.  格闘技や自転車の利用時にヘルメットを装用する。
  5.  運動習慣を促す。
  6.  禁煙教育や価格調整、公共施設での禁煙により、禁煙を促進する。
  7.  40歳以降の降圧管理(収縮期血圧130mmHg以下)。 
  8.  中年期の高LDLコレステロール血症を治療する。
  9.  体重を適正に維持し、肥満を治療して糖尿病を予防する。
  10.  価格調整やアルコール依存症のリスクを喚起して節酒に努める。
  11.  高齢者の特性を考慮したコミュニティ環境を整え、社会的孤立を避ける。
  12.  視力障害のスクリーニングを推奨し、治療につなげる。
  13.  大気汚染への暴露を避ける。 

Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628. 

 難聴や視力障害は修正可能な認知症リスクですが、補聴器の導入や白内障の手術によって認知症リスクを軽減できる可能性もあります。当院では、もの忘れセンターと感覚器センターが協力して患者さんの診療にあたっています。難聴や視力障害は認知症のリスクですが、両者が併存する状態をdual sensory impairmentといい、認知症リスクが上昇します6)。「視えにくい」「聞こえにくい」が気になる高齢者の認知機能にも注意が必要です。

3.おわりに

 来院された患者さんがごく軽度の認知機能障害の状態であっても、今後悪化していく可能性もあります。認知機能障害の進行速度は患者さんの背景因子や合併症により差異があると思われます。薬物療法以外にも認知症のリハビリテーションも当院では実施しています。患者さんから認知機能についてご相談や検査希望がありましたら、もの忘れ外来にご紹介くださいましたら幸いです。

参考資料

  1. van Dyck CH, et al. N Engl J Med. 2023;388(1):9–21.このリンクは別ウィンドウで開きます
  2. Sims JR, et al. JAMA. 2023 Aug 8;330(6):512-527.このリンクは別ウィンドウで開きます
  3. Livingston G, et al. Lancet. 2017;390:2673-2734.このリンクは別ウィンドウで開きます
  4. Livingston G, et al. Lancet. 2020;396:413-446.このリンクは別ウィンドウで開きます
  5. Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.このリンクは別ウィンドウで開きます
  6. Yeo BSY, et al. Alzheimers Dement. 2025 Feb;21(2):e14465.このリンクは別ウィンドウで開きます

長寿医療研究センター病院レター第120号をお届けいたします。

 今回は、もの忘れセンター副センター長の佐治先生に、認知症について最近の話題である抗体薬治療と認知症の新規リスクに関して執筆していただきました。
 国立長寿医療研究センターでは、「もの忘れセンター」を中心に、地域の先生方と連携しながら認知症医療の発展に努めてきました。認知症は早期発見・早期対応が極めて重要であり、軽度の段階から適切な診断と支援を行うことで、進行を抑えられる可能性が高まります。2023年には新たな治療薬が登場し、また2024年には世界的にも予防の重要性が再確認されました。当センターでは薬物療法のみならず、リハビリテーションや感覚機能への介入も含めた総合的診療を推進しています。

 

 今後も地域医療機関の皆様と連携し、認知症の早期診断と包括的ケアの充実を目指したいと考えています。認知症を疑う患者がいらっしゃいましたら、是非もの忘れ外来にご相談ください。

病院長 松浦俊博