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フレイル、ロコモを克服し「ハチマルGO」を目指しましょう

病院レター第106号 2023年9月1日

ロコモフレイルセンター長
松井康素

 人生100年時代においては、健康寿命の延伸が、いよいよ大切になって来ています。国立長寿医療研究センターの理念の一つに掲げられている「高齢者の体の自立を促進する」ことが、ロコモフレイルセンターが果たすべき役割であります。そのための手段の一つとして、7年前に世界ではじめて開設しました「ロコモフレイル外来」ならびに「ロコモ・フレイル・サルコペニアのレジストリ研究」の運営をしています。当外来は一言で言いますと「老化についての全身チェックをする外来」です。2016年6月発行の当病院レターにも、開設当初の当外来について、サルコペニア、フレイル、ロコモの簡単な説明と併せて紹介させていただいております。おかげ様をもちまして、この7年間で1100名以上の方に外来を受診いただき、またレジストリ研究へも1000名を超える方にご登録いただくことができました。受診された方の身体の自立継続のお手伝いを致すとともに、ロコモ、フレイル、サルコペニアに関する研究を推進し、国内外へ向けて講演や学会、論文などを通して研究成果を多く発表いたしてきました。

 近隣の先生方からもご紹介賜り、たいへん感謝しておりますが、本レターを機に、当分野における全国的な最近の動きをご紹介致しますとともに、今一度、当外来についてもご説明させていただき、より一層多くの方のご紹介をお願いできれば有難く存じます。

フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言

 1年半近く前にはなりますが、2022年4月1日に80の学会から賛同を得た「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」(日本医学会連合)が出されております。宣言は以下の4つの項目からなっています。

  1. フレイル・ロコモは、生活機能が低下し、健康寿命を損ねたり、介護が必要になる危険が高まる状態です
  2. フレイル・ロコモは、適切な対策により予防・改善が期待できます
  3. 私たちは、フレイル・ロコモ克服の活動の中核となり、一丸となって国民の健康長寿の達成に貢献します
  4. 私たちは、フレイル・ロコモ克服のために、国民が自らの目標として実感でき実践できる活動目標として80歳での活動性の維持を目指す「80GO(ハチマルゴー)」運動を展開します

この4つの宣言についての簡単な説明は、
https://www.jmsf.or.jp/activity/page_792.htmlこのリンクは別ウィンドウで開きます でご参照いただけます。
また、詳しい宣言についての解説は、
https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2022/04/20220428132333.pdfこのリンクは別ウィンドウで開きますから見ることができますので、この機会にぜひご一読いただけましたら幸いです。

本宣言の発出に向けたワーキンググループの主要メンバーとして当センターの荒井秀典理事長が参加され、小職もメンバーの末席に加えていただき、医学会の中の大きな流れの一端を垣間見る機会を得させていただきました。

 この宣言の後に日本老年医学会、日本運動器科学会、日本サルコペニアフレイル学会、日本リハビリテーション医学会、日本医学会総会、日本整形外科学会など、多くの関連医学会におきまして、宣言にちなんだシンポジウムが順次開催されてきており、各学会参加者へ呼びかけられてきておりますが、本宣言がより実効性のあるものとなるためには、医学界のみならず、行政、産業界、教育界、また国民の一人一人が一体となって領域横断的に取り組んで行く必要があります。当ロコモフレイルセンターとしても、産業界との連携という意味からも様々な企業と一緒に新しい測定機器や、デジタル技術を応用した製品の開発にも取り組むとともに新しい治療法を模索し、社会実装を目指しているところですので、遠くない日に広く活用される診断・予防・治療法となるものを一般の方々へもご提供できるよう努力を続けております。 

ロコモフレイル外来

 ロコモフレイルセンターの主要な取り組みについて、今回改めてご紹介させていただきます。次のような訴えのある方へ受診をお勧め頂ければ幸いです。

「転びやすくなった」「疲れやすくなった」「歩くのが遅くなった」「理由もなく瘠せた」「閉じ込もりがち」「5分前のことが思い出せない」。また前に書きましたように老化についての全身的なチェックの意味合いがありますので、患者さんから「年のせいですかね?」というお声を耳にされた際には「そうです。年のせいですよ」とそのままで受け答えをされずに、どうぞ「長寿にロコモフレイル外来という外来があるので受診してみては?」ということをお伝えいただけましたら幸いです。年齢を重ねても、その人その人にとって何をすれば、より元気に過ごせるのかは、いろいろな問題を抱えている高齢者では、判断が難しいのではないかと思います。当外来では、多職種で様々な角度から受診された方の状態を考えてアドバイスをさせて頂いています。

 高齢期になり体力の衰えをなんとなく自覚されていたとしても、どの程度筋力やバランス力、歩く力が低下しているのか、測定する機会はめったになかったのではないでしょうか?これは、小学校から高校までは、成長とともに運動機能の発達を毎年体力テストとして数値で表すのが標準であるのに対して、高校卒業後はほとんどそうした機会はなく、特に高齢期になり年齢を重ねるにつれ、若い時とは反対に運動機能が低下していく過程を測って自覚する機会はほとんどありません。ロコモフレイル外来では詳細な測定(歩行、筋力、バランス力、立ち上がり力など)をしていますので、ご自身の体力を知るのにご活用いただくこともできます。また運動能力のみでなく、記憶力(認知機能)検査、心理的検査、社会生活、既治療歴、服用薬、介護保険申請状況、家庭環境などについての調査も行い、レントゲン、骨密度、体組成、脳MRI、血液尿検査などの医学的検査と併せて、様々な角度から、複数科医師だけでなく、歯科医師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーからなる多職種連携チームにより検討され、その方にとっての最適なアドバイスをさせていただいており、受診の後に、リハビリや栄養指導を受けられた方の多くから、外来にかかった後にたいへん元気になった旨のお喜びの声を頂いております。

 受診される方のメリットとしては、必要な場合は、外来リハビリが受けられます。また、骨粗鬆症、認知機能、口腔嚥下機能など、ふだんあまり検査をする機会がない検査を受けることで、早期に評価ができ、問題がある場合は適切な診療科をご紹介いたします。当外来で身体の総合的評価を行い、指導を受けることで、健康への意識が高まったとおっしゃられる方も多くおられます。また、かかりつけ医の先生へのメリットとしましては、患者さんのロコモ、フレイル、サルコペニアについての包括的な臨床評価についての情報共有をすることができ、歩行、バランスなどの運動機能、骨粗鬆症といったロコモの要素や認知機能、栄養を含めたフレイルの状態が分かります。前述のように多職種によるカンファレンスを行っておりますので、多角的に見て推奨される介入についてお知らせすることができます。(その中で色々な医療機関から処方されている重複した薬なども分かり、お薬の整理に役立てていただけます)

ロコモフレイルセンター・外来のパンフレットは以下のURL からダウンロードが可能です。

 

 少しでも近隣の皆様の健康寿命の延伸にお役に立つことができますれば、何よりの喜び、と心を新たにする次第であります。ご紹介にあたりましては、病診連携を通していただきましても結構ですし、また患者さんやそのご家族の場合は、お電話や直接受け付けにお越しいただいても構いません。
 また、フレイルについて再生医療の治験も行っておりますので、新しい治療をご希望の方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけると幸いです。
 引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。


長寿医療研究センター病院レター第106号をお届けいたします。

 全国の世帯および世帯員を対象に、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画および運営に必要な基礎資料を得ることを目的として、国民生活基礎調査が行われています。昭和61年を初年として3年ごとに大規模な調査が、中間の各年は簡易な調査が実施されていますが、直近、令和4 年が大規模調査の年になっています。その中の介護の状況等の情報を見てみると、介護が必要となった主な原因としては、認知症がもっとも多く16.6%であり、脳血管疾患(16.1%)、骨折・転倒(13.9%)が続きます。
 このデータをもう少し詳しく分析すると、75歳以上の後期高齢者(全体の87%を占めます) では、その原因としてもっとも多いのは、同じく認知症(17.9%)ですが、続いて骨折・転倒(15.2%)、高齢による衰弱(14.9%)、脳血管疾患(12.8%)、関節疾患(10.6%)となります。高齢者の衰弱をそのままフレイルと読むことはできないかも知れませんが、骨折・転倒や関節疾患を合わせると、全体の4割以上が、当施設のロコモフレイルセンターで予防・改善に向けた診療を提供している疾患になります。
 介護保険を初めとする社会保障費の削減から、これらの疾患に適切な対応が行われることが望まれます。それとお年寄りができるだけ長く健康で、生きていくことを楽しめるように、認知症や年齢による体の衰えなどに対して、できるだけ受け入れやすい形の医療を提供すること、さらに活き活きとした日常生活を送れるように支援させていただくことが当センターのミッションでもあります。今後も、私どもの取り組みに対して、温かいご支援を頂けることを願ってやみません。

病院長 近藤和泉