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多血症について

病院レター第101号 2022年11月1日

血液内科部長 勝見章 

 今回は多血症についてお話しします。 
血液の濃さを示す指標にヘマトクリット(Ht)とヘモグロビン(Hb)の2つがあります。ご存知のように、ヘマトクリットは血液中に赤血球が占める割合(%)です(図1)。

図1

検査会社による基準値は

とされています。
一方 WHO(世界保健機関)による多血症 の診断基準は以下のようになっています。 

 それでは多血症に該当する場合、いったい何が原因なのでしょうか?多血症は大きく3つのグループに分けられます。

1)相対的赤血球増加症

 実際の赤血球量は正常ですが、循環血液量の減少によりヘマトクリットやヘモグロビンが見かけ上高値を示す現象です。脱水、血漿の血管外漏出 、ストレス多血症がこのグループに属します。

2) 絶対的赤血球増加症

 赤血球量が増加している状態であり、真性多血症がこのグループに属します。真性多血症は骨髄増殖性腫瘍 (MPN)の一種で、特に赤血球産生が亢進する病気です。この疾患の95%にJAK2という遺伝子の変異が認められます。この変異によるJAK-STATシグナル伝達系の恒常的活性化が、無秩序な造血亢進の原因と考えられています。真性多血症では赤血球の増加による過粘稠が血栓症を誘発し、脳梗塞、心筋梗塞や下肢静脈血栓症などが最初の症状となることもあります。特にJAK2 V617Fの遺伝子変異割合が高いと血栓症・出血イベントがみられることが報告されており、この疾患では血栓症予防が非常に重要だと考えられています。年齢60歳以上または血栓症の既往歴がある患者は、血栓症の高リスク患者です(表1)。 

 真性多血症の治療概略としては、①高血圧,脂質異常症,肥満,糖尿病などのいわゆる血栓症の一般的なリスクファクターがある場合は、これらの治療を行います。②血栓症の低リスク群(年齢60歳未満,かつ血栓症の既往がない方)に対しては、瀉血+低用量アスピリンの投与を行います。③高リスク群(年齢60歳以上または血栓症の既往歴がある方)に対しては、瀉血療法,アスピリン療法に加え細胞減少療法を行います。瀉血療法は、ヘマトクリット値45%未満を目標に行います。出血や消化器症状などの禁忌がなければ、75~100 mg/日のアスピリン投与が選択されます。細胞減少療法の第一選択薬はヒドロキシウレア(ハイドレア®)です。

表1:真性多血症のリスク分類
報告者 予後因子 リスク分類
Barbui T, et al.
(J Clin Oncol. 2011 ; 29 : 761)
年齢<60歳,かつ血栓症の既往なし 低リスク
年齢≧60歳,または血栓症の既往がある 高リスク
Tefferi A, et al.
(Semin Hematol. 2005 ; 42 : 206)
年齢<60歳
血栓症の既往なし
血小板数<150万/μL
心血管病変の危険因子(喫煙,高血圧,うっ血性心不全)がない以上のすべての項目を満たす
低リスク
低リスク群にも高リスク群にも属さない 中間リスク
年齢≧60歳,または血栓症の既往がある 高リスク

日本血液学会造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版より引用

3)二次性赤血球増加症

 喫煙、慢性の低酸素血症等が挙げられます。もっとも多いのは喫煙による二次性赤血球増加症です。喫煙によってヘモグロビンが一酸化炭素と結合するため全身への酸素の供給量が減少し、その代償として赤血球増多がみられます。この現象は禁煙により改善する可能性があります。

健康診断でヘマトクリットやヘモグロビン値が上記の基準に該当した場合は、血液内科にご相談ください。  


長寿医療研究センター病院レター第101号をお届けいたします。 

 真性多血症は、形態学的に正常な赤血球,白血球,および血小板の増加を特徴とする慢性骨髄増殖性腫瘍です。JAK2遺伝子は2005年に発見され、今回の執筆者、勝見章先生の説明にあるように真性多血症では、高率に変異が見られます。血算やJAK2遺伝子変異の検査などで診断され、出血および血栓症のリスクが高いため、年齢・血栓症の既往に応じて、瀉血・低容量アスピリンによる抗血栓療法および細胞減少療法が行われますが、10~30%の患者で最終的に骨髄線維症および骨髄不全が生じ、1.0~2.5%では急性白血病が自然発生するとされています。 
 このため診断基準に該当した場合は、当センターの血液内科へのご相談を検討いただければと思います。 

病院長 近藤和泉