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最先端のリハビリテーション治療

病院レター第99号 2022年7月1日

リハビリテーション科部長
加賀谷斉 

4月からリハビリテーション科部長として赴任した加賀谷斉です。よろしくお願い申し上げます。
リハビリテーション科部には医師8名、理学療法士66名、作業療法士42名、言語聴覚士 22名、社会福祉士1名、管理栄養士1名が所属し、病棟は回復期リハビリテーション病棟50床を担当しています。 
リハビリテーションという言葉は日常でも様々な場面で用いられていますが、われわれの担当する医学的リハビリテーションでは、主に日常生活活動が障害された方をできるだけ自立させることで職場復帰、家庭復帰を目指します。したがって、日常生活に関与する活動障害、たとえば上下肢の障害、歩行障害、摂食嚥下障害、言語障害、内臓の障害(心臓 、呼吸器、腎臓 など)、高次脳機能障害などに対して様々なリハビリテーション手技を用いて医学的な解決を試みます。
現在の医療保険制度では、回復期リハビリテーション病棟に入院適応のある方に関しては1日3時間のリハビリテーション治療が可能であり相当充実している一方、退院後については介護保険を用いたリハビリテーション治療を進める国の方策もあり、患者さんの期待には十分答えられない現状もあります。 
今回は、当院で行っている最先端のリハビリテーション治療についてお話させていただきます。

1.上下肢の障害

 脳卒中、骨折など様々な原因により上肢や下肢が障害されることは多いです。麻痺や痛みのために動かさないでいると、筋が萎縮し関節も拘縮しさらに障害が悪化します。昔から人の手を使って筋や関節を動かすリハビリテーション手技は行われていましたが、最近はリハビリテーションロボットやバーチャルリアリティの活用が進んできました。ロボットの特徴は同 じ動作をたくさん行えることであり、新人療法士でもベテランと同じだけの質の高い訓練を提供することができます。アスリートが新しいスキルを身につけるために長期間訓練するように、患者さんもロボットを用いることで同様のことが可能になります。バーチャルリアリティも現在急速に進歩しており、リハビリテーションの治療場面で用いられ始めています。特に歩行障害に対してはトレッドミルを用いて行う歩行訓練の有用性が明らかとなっています。

脳卒中片麻痺者の歩行訓練(ウェルウォーク)

バーチャルリアリティを利用したゲーム感覚の歩行訓練(グレイル) 

また、筋力アップには筋収縮を生じさせる必要があり、意識障害や認知障害などにより自分で十分に筋肉を活動させることができない場合にはこれまで電気刺激療法などが用いられてきましたが、電気刺激は痛みを生じることも多く電極を皮膚に貼付するためにコロナ禍では感染対策面から使用に難渋することもありました。最近、電気刺激の代わりに磁気刺激を四肢や体幹に行うことで筋力強化訓練が可能になってきました。磁気刺激は皮膚の侵害受容器を介さないため電気刺激より疼痛は非常に少なく電極を使用せず衣服の上からでも刺激可能なため感染対策も容易です。 

末梢磁気刺激装置(パスリーダー)と磁気刺激による訓練

2.摂食嚥下障害

 摂食嚥下障害は飲食物が口腔から胃に入るまでの障害です。脳卒中、神経筋疾患、呼吸器疾患などに併発することが多く、誤嚥性肺炎の原因になります。誤嚥性肺炎の場合、肺炎を治療しても摂食嚥下障害への対策がなされていない場合は誤嚥性肺炎の再発が非常に多くなります。また、高齢者にとっては「食べる」ことは残された最後の楽しみといわれ、quality of lifeに直結します。摂食嚥下障害に対するスクリーニングテストで陽性の場合、何らかの対策を要する場合が多いです。ただし、摂食嚥下障害が重度になると誤嚥してもむせないことが多くなるためスクリーニングテストで見逃されることもあります。そのため嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査によって誤嚥、咽頭残留などの異常を明らかにし、食事形態の調整や必要な訓練などを行います。当院では320列ADCTを用いたより詳細な評価も可能です。

嚥下造影検査

嚥下内視鏡検査

  320列ADCT検査

3.内部障害

 本邦では心臓、呼吸器、腎臓などの内臓に障害をもつ方が増えており、内部障害といわれます。内部障害に対してもリハビリテーション治療が有効であるというエビデンスが確立しており、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、虚血性心疾患、腎不全、透析患者などに対して下肢を中心とするエルゴメータなどを用いた運動療法が非常に有効です。内部障害の方に運動療法を行うときはFITTと呼ばれる運動頻度(Frequency)、運動強度(Intensity)、運動時間(Time)、運動種類(Type)の設定が重要であり、一般的には少しきつい程度の負荷が有効です。 

4.痙縮 

電気刺激とエコーを用いたボツリヌス施注

 痙縮は上位運動ニューロン症候群の1徴候であり、痙縮により筋緊張は亢進します。その有病率は脊髄損傷80%、重度の頭部外傷75%、脳卒中35%などと高く、痙縮で苦しんでいる患者さんは多いです。痙縮に対しては薬物療法(筋弛緩薬)、バクロフェン髄腔内投与なども行われますが、約10年前から本邦でボツリヌス療法が保険適応となりました。適応は四肢の痙縮であり原因疾患は問いません。痙縮のある筋にボツリヌス毒素を注射することで神経筋接合部に作用し、3~4か月は痙縮の軽減が得られます。現在ボツリヌス療法は世界各国で行われており、当院でもリハビリテーション科で対応しています。電気刺激やエコーを用いて目的とする筋への正確な施注が大切です。 

5.高次脳機能障害 、認知症

 当院では高次脳機能障害に対して認知、言語、行為、注意、遂行機能など様々な面から詳細に評価して、最適なリハビリテーションプログラムを組み立てています。また、認知症は本邦の要介護認定者の中でもっとも多い原因疾患となっています。したがって、リハビリテーション治療を行う上で認知症の問題は避けて通れません。最近は軽度認知障害(MCI)に対するリハビリテーション治療もトピックスです。外来の患者さんに対して脳―身体賦活リハビリテーション(脳活リハ)を提供し、活動と役割を創出できるよう、継続的な訓練と環境調整を行っています。

6.がんリハビリテーション 

 本邦の死因の第1位であるがんに対しても入院中に疾患や病期に応じたリハビリテーションを提供しています。周術期、進行期、終末期などの日常生活活動やquality of lifeを考えながら専門的な研修を修了した療法士が対応しています。 


長寿医療研究センター病院レター第99号をお届けいたします。 

 脳、心臓、肺、肝臓および腎臓などの皆さんの身体の中にある臓器は、常に周辺の環境からの影響を受け、その状態を変化させています。昼と夜などの周期的な変化に対しては、一定の範囲での対応が行われますが、コロナやインフルエンザなどのウイルスに感染したり、あるいは転倒して骨折するなどの大きな変化が身体に起きた時は、それを打ち消す向きの対応が各臓器でなされます。 
 大きな変化に対して臓器が対応できる範囲を予備能力と呼び、最大能力と平常の生命活動を営むのに必要な能力との差で表されます。皆さんが年を取るとともに、多くの臓器も老化していきます。臓器は老化とともに、機能が徐々に低下していき、その予備能力も少なくなり、多くの臓器で元に戻らなくなります。 
 ただ一つだけ年をとっても予備能力の改善の余地があるとされているのは筋肉であり、さらに最近の研究ではクロストークと言って、筋肉が活動すると他の臓器の予備能力を保つ効果があるとされています。 
 当センターでいろいろな形で行われている最先端のリハビリテーション医療の目的の一つは、手足、おなかや背中、あるいは喉にある筋肉の能力を取り戻すことですが、それは他の臓器の老化を防ぐことにつながります。その前提となるのは、あらゆる形で身体を動かしてもらうこと、すなわち活動です。 
 このためリハビリテーション医学は「活動の医学」とも呼ばれています。

病院長 近藤和泉