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認知症初期集中支援チームと認知症サポート医

病院レター第90号 2021年1月20日 

長寿医療研修センター長
神経内科医長
武田章敬

 令和2年度から長寿医療研修センター(以後、研修センター)の仕事をすることとなりました。研修センターが担当する事業に、認知症初期集中支援チーム員研修と認知症サポート医養成研修があります。本稿では認知症初期集中支援チームと認知症サポート医を概説します。

1.認知症初期集中支援チーム

これまで認知症に関する長年の課題の中に「認知症が疑われても、本人が受診を拒否する場合は対応が困難」といった課題がありました。認知症の専門医が訪問診療を行うことにより対応している地域もありましたが、このような地域は全国的に見ても極めてまれであり、解決困難な課題と考えられていました。また、

  1. 早期対応の遅れから認知症の症状が悪化し、行動・心理症状等が生じてから、医療機関を受診している例が散見される、
  2. ケアの現場での継続的なアセスメントが不十分であり、適切な認知症のケアが提供できていない、
  3. これまでの医療やケアは、認知症の人に「危機」が生じてからの「事後的な対応」が多かった、といった状況もあり、それを背景として平成24年度(2012年度)から認知症初期集中支援チームという仕組みが創設されることとなりました。

  認知症初期集中支援チームは市町村が地域包括支援センターや自治体、認知症疾患医療センターを含む病院・診療所等にチームを置き、チーム員医師の指導の下、複数の専門職が認知症が疑われる人又は認知症の人やその家族を訪問し、観察・評価を行った上で家族支援などの初期の支援を包括的・集中的(おおむね6ヶ月)に行い、かかりつけ医と連携しながら認知症に対する適切な治療に繋げ、自立生活のサポートを行うものです。

図1.認知症初期集中支援チームとは

 チームは保健師、看護師、作業療法士、介護福祉士など医療福祉に関する専門職から構成され、認知症に関して専門的見地からアドバイスを行うチーム員医師がバックアップします。チームが対象とする者は、40歳以上で、在宅で生活しており、かつ認知症が疑われる人、又は認知症の人であり、医療・介護サービスを受けていない人、又は中断している人、医療・介護サービスを受けているが認知症の行動・心理症状が顕著なため周囲が対応に苦慮している人です(図1)。
 チームは本人、家族、地域住民、民生委員等からの相談や基本チェックリスト等の二次予防対象者把握事業等を通じて対象者を把握し、対象者に対して訪問を行います。訪問の際には病歴や生活状況、認知機能、日常生活活動、認知症の行動・心理症状等を包括的に評価します。初回訪問後にチーム員会議を行い、訪問で得られた情報を基に、対象者および介護者にどのような医療・介護が必要かをマネジメントします。このようにして立案された初期集中支援計画に基づき、必要に応じて医療機関への受診勧奨・誘導や介護保険サービス利用の勧奨・誘導等の初期集中支援を実施します。初期集中支援が終了したのちに本来のケアチームに引き継ぎを行います。更に引き継いだ対象者が医療・介護サービスを継続できているかをモニタリングすることも支援チームに求められています。
 平成24年度(2012年度)には全国3ヶ所でモデル事業が行われましたが、平成27年度(2015年度)からは介護保険の地域支援事業のひとつとして実施され、すべての市町村で実施することが計画されました。令和元年(2019年)9月末に全国のすべての市町村に認知症初期集中支援チームが設置されました。

図2.認知症初期集中支援チーム員研修受講者

 当センターが全国で開催している認知症初期集中支援チーム員研修の受講修了者は令和元年度(2019年度)末時点で累計10,046名となりました(図2)。認知症初期集中支援チームの活動は認知症の人や家族のみではなく、チーム員、自治体、地域の人々にとっても様々なメリットがあることが示されており、関係する人々の事業への理解や協力が期待されます。

2.認知症サポート医

 認知症初期集中支援チームの構成メンバーであるチーム員医師の要件のひとつに認知症サポート医が位置付けられています。
 認知症サポート医は地域における認知症に関する地域医療体制構築の中核的な役割を担う医師として国が平成17年度(2005年度)から養成を開始しました。認知症サポート医は地域における連携の推進役としての役割を期待されており、具体的には、

  1. かかりつけ医認知症対応力向上研修の企画・立案・講師、
  2. かかりつけ医の認知症診断等に関する相談役・アドバイザーとなること、および他の認知症サポート医との連携体制の構築、
  3. 各地域医師会と地域包括支援センターとの連携づくり

図3.地域における認知症サポート医の役割

への協力が求められています(図3)。認知症サポート医養成研修の受講修了者は令和元年度(2019年度)末時点で累計11,255名に達しました(図4)。国は2019年に公表した認知症施策推進大綱において,2025年までの認知症サポート医養成研修受講者の新たな目標を1万6000人と設定しています。一方で、当センターが認知症サポート医を対象として実施したアンケート調査において「認知症サポート医という制度が十分活用されている」と回答した医師は20%にとどまり、その理由として「認知症サポート医の役割が不明確」「認知症サポート医が地域・社会に認知されていない」といった回答が多くみられました1)

図4.認知症サポート医養成研修受講者数

 認知症サポート医養成研修は都道府県・指定都市が実施主体であるため、これまで市町村の事業における認知症サポート医の役割が不明確でしたが、認知症初期集中支援チームにおいて認知症サポート医の活動が位置付けられたことにより、認知症サポート医が市町村において活動できる環境が整いつつあると言えます。また、令和元年度(2019年度)の調査2)では認知症初期集中支援チームの62%が地域包括支援センターに、12%が市町村に設置されており(図5)、チーム員医師である認知症サポート医が地域包括支援センター、市町村とかかりつけ医や病院等の医療機関を結ぶ、文字通り「連携の核」となることが期待されます。

図5.認知症初期集中支援チームの設置機関(令和元年度調査)

3.おわりに

今般の新型コロナウィルス感染の拡大を受け、今年度の全国各地での認知症サポート医養成研修はすべて中止、認知症初期集中支援チーム員研修は感染対策のもと規模を大幅に縮小して開催しております。今後はオンラインでの研修の実施に向けて準備を進めております。

参考資料

  1. 平成29年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)「認知症サポート医に関する研修のあり方に関する調査研究事業」報告書(委員会座長 武田章敬),国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター,愛知(2018)このリンクは別ウィンドウで開きます
  2. 令和元年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)「認知症初期集中支援チーム設置後の効果に関する調査研究事業」報告書(委員会座長 鷲見幸彦),国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター,愛知(2020)このリンクは別ウィンドウで開きます 

長寿医療研究センター病院レター第90号をお届けいたします。

 2000年に介護保険法が施行開始され、2006年には「痴呆」が「認知症」へ呼称変更、2012年にオレンジプラン、2015年に新オレンジプラン、2019年に認知症大綱とこの20年間に認知症の人を支える制度が次々に誕生し、認知症に係る人材の育成が進められてきました。今回紹介された「認知症初期集中支援チーム」も「認知症サポート医」もその仕組みの一つです。認知症初期集中支援チームは2017年度末までに(実質的には2018年度末に)全国のすべての市町村に設置されました。この2つの仕組みは設立当初から当センターがかかわってきており、いずれも国民の皆さんに役立つ仕組みと考えています。今後もさらに役立つ仕組みとして、人材育成に努めていくことが当センターの重要な使命と考えています。

病院長 鷲見幸彦